旭川市内の山に「ヒグマ」がでた
北海道といえばヒグマ。
それは、どの程度身近なものなんだろうって、とってもナゾだった。たまに街なかに出没するとニュースになるけど、基本的には街には出ない。
でもちょっとした森っぽいところに行くと「クマ出没」の看板は普通にあるし、出没した地点と日付を記した地図がある。森って言っても、スキー場にすぐ隣接するような森とか、自然豊かな公園のすぐ裏にあるような森。山奥の森ではない。
旭川に住み始めても、しばらくその感覚は謎だった。道民の、ヒグマに対する感覚。
旭川市の外れにある、高砂台っていうところに住んでいる知人が、ちょっと街寄りに引っ越した。「え~だって不便だもん。高砂台、鹿出るし、クマ出るし」。そう言っていた。
高砂台っていえば、山の上のほうだけど、普通に病院があって、古びたホテルがあって、スイミングスクールや温泉もある。う~ん、その発言は、どの程度の恐怖感なのだ。
そんなある日、カタクリの花が群生する5月の突哨山(とっしょうざん)にクマが出たということで、入山禁止になった。カタクリの群生は諦めざるを得なかった。
この山は旭川駅から30分程度の、ちょっとした丘陵のような形をしたところ。付近には街というよりも水田が周りを取り囲んだ田舎だ。
私はカタクリを見に行こうと思っていたから、Facebookで旭川の観光情報をウォッチしていたのでクマについて知ったけれども、特別にニュースにもならなかったと思うし、付近の人の会話にも出なかった。というか、特別に山や自然に関心がある人でないと突哨山という名前も知らない。
たまたま市のイベントで、突哨山の指定管理者になっているNPO法人の代表に会えたので聞いてみた。
「クマはもう捕獲できたんですか?」
その人は答えた。
「捕獲をするところまで行かないんじゃないかな~」
どういうことだろう。まだ捕まえられていないのかな。
聞いてみると、実はもともと、そのへんにクマは住んでいるらしい。というか、そこらへんはふだんからクマのおうちらしい。
でもいつも住んでいるエリアよりちょっと移動が大きくて、山の端っこの「散策路」「公園」として人間が整備しているエリアまで出かけてきてしまったことが問題ということのようだった。
クマがいてもさしつかえなかった山と、カタクリが咲き誇っているそのエリアは地続きというか山続きで、そこに柵なんかがあるわけではない。
だからいつやってきてもおかしくないんだけど、クマの方でも理解してもらって棲み分けている、という状態だったらしい。
「カタクリ広場にヒグマが出た」と聞いて、私はすぐに都会に出たサルやアライグマが大勢のアミを持った警官に追われて捕獲活動がされる様子を思い浮かべた。クマだったら、ピストルを持った猟友会とかの人たちが取り囲むのだろうか。
しかし、どうやら捕まえる気はないらしいことを、このヒグマの研究者は言う。
そして、ここでなされた対処は「人間を入山禁止にする」ということだった。カタクリの群生の見どころの直前だったけど、すぐに。
「それだったら、北海道の山、全部入山禁止になってしまうのでは?」と思われた人もいるだろう。
私も不思議に思って聞くと、実は、登山者だけが行くような山は、ヒグマの住まいに人が入ることが前提で、会わないよう対策をして、自己責任で、自ら入る場所だと。
でも今回の山は旭川市の所有する山で、広く市民に「カタクリが見頃ですよ」って広報とかにも載せてお知らせし、そういったクマ対策などをしない人が散歩や遊びの感覚で訪れるところ。そこは、同じく「山」と言っても、明確に管理方法にも違いがあるということだ。なるほど。
その山(突哨山)の指定管理者となっているそのNPO法人では定期的にクマの動向をチェックして、最近はこの辺をうろついてはいないようだ、ということで年末に「入山禁止」を解除した。
きっと、目撃情報があればまた入山禁止にして市民側に注意を促す。そんなふうにして同居するのが北海道のやり方なのだな、と私は理解した。これは、とても衝撃だった。
山登りや釣りなんかをしないで旭川の街だけで住む人のヒグマに関する知識とかは、実際には東京の人とかと、さほど変わらないかもしれない。でも山に入ればヒグマがいるってことはみんな承知している。
そして、人間にとってジャマだからという理由で自由に殺して良いってもんじゃないってことも、感覚として知っている。
そんなところが、私の見た街の旭川人とヒグマの関係だ。