初心者のための登山とキャンプ入門

子供と晩秋の「木曽駒ヶ岳」登山 - 6歳と4歳と3000m級へ

こどもと木曽駒登山

11月の第1週目の週末。昨年は11月末の低山ハイクで寒さで心が折れたため、この日は今シーズン最後の子連れ登山チャンスだと決め、愛知県最高峰の茶臼山と中央アルプス木曽駒ヶ岳を連日で日帰り登山してきました。特に木曽駒(乗越浄土迄)は、コースタイム往復2時間弱と短いけど、季節も標高も厳しくなっていることから、これまでと比べてグッとレベルアップした登山となりました。しかし大人は富士まで見渡せる絶景に大満足でしたが、子供は「もう二度とお山には行きたくない」と6年めにしてはじめて言っていました。

防寒対策、服装と装備

ユニクロ 暖パン

記録のムダ話が長いので、今回は装備についてはじめにまとめたいと思います。

短時間の日帰り登山だとしても、この時期に一番考えなければいけないことは服装。子ども達は登山用の服を持っていなかった。そこで、用意した装備はこちら。

靴と靴下

アクとサロモンの子供用登山靴。靴下はモンベルの登山用靴下。これらは先月の金華山の時と同じ。登山靴2回目となる妹だが、今回もバッチリだった。靴下は長いタイプを選んでよかったと思った。

ズボン

ユニクロの暖パン。1990円。上にベルクロ的なものがなくゴムだけなのでどうかなと思ったけど、車の中でも暑すぎず、登山中も暑すぎず、稜線に出て強風の中でも寒すぎずにすごく良かったみたいだった。ずっと1枚で履いていた。

インナーと上着

ユニクロのヒートテックのハイネック。この上に、綿や化繊の普段着のハイネックを重ねて着ていた。パンツは綿の普通のパンツだったけど、汗をかくほどのペースや距離ではなかったので問題なかったと思う。夏の高山とかの場合は汗をかくと冷えるので、化繊のパンツ?などを履かせたほうが良いと思う。どこに売っているんだろうか。

防寒着

ユニクロのフリースと普段用ユニクロ中綿ジャンバー。これらのジャンバーは保育園で使っているもので、あまり厚くはない。良いダウンとかがあれば、フリースとジャンバーを兼ねられるかもしれない。今回はどれほど寒いのかわからなかったから、こまかくレイヤードして良かったかなと思った。ちなみに登山中は、ヒートテック、ふつうのハイネック、フリース、ジャンバーの4枚を着て登っていた。フリースのジッパーとジャンバーのジッパーをこまめに開けて体温調節に気を配った。

カッパ

モンベルのレイントレッカーKid's。姉は130、妹は100サイズ。素材は、130の方はスーパーハイドロブリーズと書いてあり、100の方はドライライテックと書いてある。いずれもモンベルが独自に開発した防水透湿性素材らしくゴアテックスよりかなり安い。稜線に出た時は4枚の上に更にカッパを着せた。計5枚。ズボンは暖パン1枚で問題なかったらしく、履かなくても良いとのことだった。

手袋

子供軍手とマラソン用大人の手袋を持っていった。まさか使うとは思っていなかったので適当に持っていってしまったけど子ども達は使いたがった。化繊の伸びる手袋とかがあればベストだったと思う。私は別に使わなくても構わなかったので、急に寒くなって子供は驚いたのかもしれない。

その他、装備について

あればよかったニット帽

もう沢山の人が被っていたが、風が出た時は耳まで隠せるようなニット帽がもうあってもいいと思った。私は薄手のハットを日差しよけに被っていたけど頭が寒いとは思わなかったからきっと役立っていたのだと思う。体温は頭から逃げてしまうので重要。

大人は大きめザックで正解

今回大人は、30Lと28Lのザックをそれぞれ担いでいった。30Lと言えば夏なら山小屋1泊するくらいの荷物が入り、富士登山なんかでもよく推奨されるサイズ。今回はガスやケトルを持っていかなかったけれど、防寒着がやたらかさばるしヘッドランプなども持っていったので、大人のザック容量は余裕があるくらいで使いやすかった。サクチャンは初め水筒だけを背負っていたが、ダレてきたのでリュックごとキタオくんが引き受けることになった。その意味でもこのくらいはあると安心。

木曽駒ケ岳登山の行程と記録

茶臼山登山にて
茶臼山登山にて

キタオくんと靴下

1日目の茶臼山1415mは愛知県最高峰だけれど、これは割愛して2日目から書こう。
初日に茶臼山高原のコテージに泊まった私たちは、フロントが空く朝7時出発の予定で眠りについた。

6時過ぎ、「鼻血!」の声で起こされた。カエデちゃんが鼻血を出している。無意識にまた鼻をいじったようだ。ふん!ってした時にシーツに飛び散って、朝はそれを石鹸で洗うことから始まった。それが落ち着いて布団を畳むと、今度はキタオくんが「靴下がかたっぽ無い」という。私は山岳ツアーガイドをしている知人とある時山小屋に一緒に泊まった時に、彼女がご主人に言っていた言葉を思い出した。「あなた、靴下は布団の中で脱ぎ捨てないで、ちゃんと○○にしまって眠るのよ!」○○がどこだったかは思い出せない。ズボンのポケットだろうか。もしくはザックの雨蓋だろうか。

実は登山ツアーの朝の出発はこんならしい。夜明け前の4時とかに起き、ヘッドランプを付けたらすぐにパッキング済みの荷物を持って暗い中部屋を出て、ロビーに荷物を置いたらトイレなどを済ませて、まだ真っ暗な外に出て軽い運動と靴ヒモなどの身支度を整える、という流れ。暖かいお茶も飲まずに、寝ぼけまなこで日の出までに距離を稼いでしまおうという感じらしい。もちろんいろんなパターンがあるらしいんだけど。しかしそんな中、布団の中で靴下を脱いで無くしてしまう人がいるらしい。

キタオくんは往々にしてこの種のことをやるタイプなので、”今だ!”と思って得意げにその話を聞かせてあげた。キタオくんは痛く感心していた。
「それはもう ”だれか、ぼくの靴下知りませんかぁ~”とは言えないね。」キタオくんが言った。
「日本人だったら何もなかったフリして歩いちゃうよね」私が答えた。
「そんで途中で、 ”ぼくもうダメです、歩けません!実は靴下を1つ履いていません”ってね。」キタオくんがご機嫌で架空の話を続けた。私もここまでは想像できた。しかしその後にキタオくんが続けた。
「でもそこまでやって血だらけの足を見せたら”もうヨシ”って許してもらえそうだよね」

なんかこれを聞いて、キタオくんの思考回路を垣間見た気がした。なんかミスをしてしまって、それによって悲惨な目に会っている自分を作ることによって許してもらおう、っていう。具体的な例が思い浮かんだわけじゃないけど「それ、よくやる手だよね?」って思った。

そんなこんなで靴下をかたっぽ無くした事件を楽しんでいたキタオくんだけど、やや焦り初めてきた。畳んだ布団を広げては戻し、丸めたシーツを広げては戻し、というのを3セットづつくらいやって、ついには「靴下を見つけた人は200円!」って懸賞金まで掛けて私以外の3人で探したけど見つからなかった。
キタオくんが寝ていたそばにはクローゼット的な扉があって、「その扉の中は見たの?」と聞いたら「まさかそこに入っていたら、夢遊病のレベルだよね」と言いつつそっと扉を開けてもやっぱり靴下は、なかった。買って1回しか履いてない靴下なのに、と言っている。そして「昨日散々3人で”スリッパ隠し”やったのに、ぜんぜん実践で役に立たない」と本気なのか冗談なのかそんなことを言いつつ、子ども達と3人でかれこれ30分位探していた。

靴下、他にないの?と聞くと、あるにはあるが、くるぶしまでの短い靴下だって言う。トレッキングシューズはハイカットだからね、そりゃあ短いのは履けないよね。でも、そもそもの話、今日はトレッキングシューズ履くのに登山用靴下忘れているよね?
その時は気づかなかったけどキタオくん的には”登山用靴下を忘れた”という1つ目のミスの上での”別の靴下の紛失”だったので、あんなに黙々と探していたのかもしれない。
「靴下いくらだったの?」って聞くと「300円」と答えた。なんだ、じゃあ無くなってもいいじゃん、時間の方がもったいない。「せっかく昨日買って、1回しか履いていないのに」と言っているけど、要は靴下の新旧ではなく今日の登山が自分の失態のせいで中止になると責められることに防御を張っていたにちがいない。後から気づいたけどぜったいそうだ。

「寝てた時の服から今のズボンに着替えた時に中に入ったってことはないの?」私もあらゆる可能性を考えながら聞いてみる。「大いに有り得る」キタオくんは期待して脱いだズボンを探したけど、やっぱりなかった。私は自分の登山用の靴下を別に持っているので、昨日履いていた黒いハイソックスを履いてみる?と聞いてみた。もちろんサイズは全然違うんだけど、キタオくんは靴下の色が同じだと微妙な違いを見分けるのが苦手らしくて、冬場に私の靴下を間違えて履いていたことがあった。「そうだね、いけるね」と言って、結局それと、私が替え用に持ってきていた全く同じタイプの替えを2枚履きにする、ということで落ち着いた。靴下はとうとう出ては来なかった。

朝の大切な時間が鼻血と靴下探しで使われて、結局出発は7時半になった。木曽駒ヶ岳の駐車場である菅の台バスセンターまではGoogleの経路検索では所要時間1時間半と表示されている。

続・キタオくん

茶臼山から高速道路に乗るまではそれほどのグネグネ道ではないけれども山を下る。ちょっと酔い気味になっていたサクチャンはやがて寝た。中央道駒ヶ根インターチェンジを下りてからコンビニで昼食と行動食を買う予定だったけど、「この先にあるんじゃない?」そう言ってキタオくんはインター出口からそのままバスのりばに向かった。Google検索は反対の駅方向、3分先にコンビニがあると示している。山岳バスの乗り場である菅の台バスセンターの駐車場の入り口に入っているおじさんに念のため聞いて欲しいと頼むと、「この先は売っていないよ」、という。あぁ聞いて良かったね、と言ってコンビニに戻った。毎回思うけれども、木曽駒って新宿からの高速バスもあるし、インターチェンジから山岳バスまでの距離も近いし、とてもアクセスが良いと思う。

しかし、キタオくんの準備不足さには本当に要注意だと私は改めて認識した。そして昨年5月のGWの九州旅行の事を思い出していた。阿蘇山の大観峰経由で九重のキャンプ場に向かう途中に今晩の食材を買わなければいけない、という事があった。通る道も山の中だし泊まるキャンプ場も山の中。自炊の予定をしている私たちはメインのおかずを買う必要があったのに、キタオくんは面倒くさがって目的地のキャンプ場に車を進めた。そして運転しながらカーナビに表示されている牛の絵を指して、「牧場でウィンナーとかベーコンとか買えばいいっしょ」という。確かに旅に出る前に、そういう店に寄って現地の美味しいものを買って食べたいね、とは話していた。でもそのマークのところに本当に牧場はあるの?そこにウィンナーは売っているの?そもそも売店はあるの?もう16時だけど今日やってるの?GWですけど?・・・って具体的に聞いていくと、2問目くらいで答えられずに「知らね」って投げやりになる。っていうか、総勢6名の食料のことなのに、よくそれだけいい加減になれるね~って逆に驚いてしまう。
結局車を道路脇に止めてもらってキャンプ場に問合せたら、現在地からキャンプ場までに店は一切ないという。なので進んで来た道を戻って食材を買いに行くという事があったんだ。
まぁこの九州の旅も今回の木曽駒も私の発案でありメインの計画者は私なのでキタオくんが責められなければならない理由は実は一切ないのだけれども。とにかくある意味でアテにしちゃいけないって肝に命じておかないと、いつかエライことになりそうだ。田舎道でガソリンが無くなりかけたことも何度かあったし。

駒ヶ根到着

コンビニに着く頃に、子ども達2人が起きた。時間がないので頭でイメージしていた買い物をパッパと済ませた。荷物なんてたいして無いんだから、おやつはたくさん持っていこう。多いに越したことはない。
そして菅の台バスセンターに戻って駐車。1回600円。バスは3分後に出て、その後は30分後だという。今夜名古屋に戻ったあとに飲み会に参加したいと目論んでいるキタオくんは、「乗ろう!」と即断した。パッキングと着替えは今朝、宿を出る時にあらかた済ませておいたので、あとはトレッキングシューズと登山用靴下を間違いなく持ってバス停へダッシュだ。乗る直前にコンビニで買った食料の袋がないことにキタオくんが気づき、ギリギリで取りに行ってバスに乗りこんだ。

菅の台バスセンターからロープウェイの発着点であるしらび平駅までは、バスに揺られて山道を30分ほど。一般車両進入禁止の山岳道路だ。料金はロープウェイも入れて大人1人3900円。保育園の子ども達は無料だったから4人で8000円弱だ。
車窓から見える山肌は山吹色で、あれはカラマツの紅葉だろうか。道沿いには時折真っ赤なもみじの木が現れる。道路から落っこちそうに見える川は、上流過ぎてか、苔もつかない程の透明さだ。川辺にゴロゴロと転がる巨大な石は花崗岩だろうか。全体的な川辺の白っぽさと深く水がたまったところの水色が美しすぎる。

よく車で観光で行けるところに”○○渓谷”ってあって、豪快な岩があったりするんだけど、私はこういう川の存在にはかなわないだろうってなんとなく思っている。ああいうのは人間の世界と共存している川。でも登山口に向かう途中で見るこういう川は、なんか自然というのか川の意志を感じるような存在感があるように思う。感じるのは”安らぎ”よりかは”自然の脅威”みたいな。ただ、より上流にあるっていうだけなんだけど、こういうただの川の一部のほうが有名な滝や渓谷よりもグッと心に迫ってくるものがあるんだな。鳳凰三山からの帰り道とか、、、あとどこだっただろうか。登山の途中でふと見る、ひっそりとある川。

オサク、車酔い

そんなことを思い出している場合ではない、さくちゃんがツラそうだ。ビニールを用意して、あと10分、あと5分と時計をチェックしながら様子を見る。をが開けられる席でよかった。最後に乗ったから最高列であったことも良くなかったかもしれない。今度は最前列に乗ろう。そして次回は酔い止めを持ってこようと思った。

なんとか無事ロープウェイの駅に近づくと、用を足すためトイレに行きたいと言うので一番に降りてダッシュしてトイレに向かった。そして酔からの回復も本調子ではないままに5分後のロープウェイに乗車。ロープウェイは7分半。気持ち悪くて景色も楽しめないようでかわいそうだった。ロープウェイからは真ん中に富士山を挟んで、南ア北部の山々と南部の山々がクッキリと見えていた。

駒ヶ根ロープウェイからの眺め

ロープウェイ乗り場のしらび平は1662mで、着いた千畳敷駅は2612m。冬の世界であった。標高差950mは日本最高らしく、千畳敷駅の標高も日本最高らしい。風はそれほど強くはないが、吹きつけてくる。寒い。ロープウェイの駅の温度計は6℃を示しているが、日陰には雪が残り、あるいは凍っている。ツアーの人たちが風上で吸うタバコの煙が子ども達の靴ヒモを整えている私の横にガンガン降り注いでくる。苦しい。受動喫煙って久しぶりだなって思った。しかしこういったとこで吸うタバコはきっとおいしいんだろう。

さくちゃんの髪の毛をまとめるゴムを持っていなかったので私のネックウォーマーで髪が顔にかからないようにし、持って来た手袋をはめてあげる。子ども達にニット帽を持ってくればよかった。
他には防寒着としてレインウェアの上下が残っているから十分間に合うだろう。他にインナーダウンもある。そこまで絶望的な、芯から冷えるような寒さではない。しかしユニクロのレギンス1枚で来てしまった私ははじめからレインウェアのズボンだけを履いた。100%、タイツを持ってくるべきだったといえる。登山用のやつでもいいし、ユニクロのタイツでもいい。レインウェアのズボンを履くだけで十分だったけれど、完全にこの季節の山の厳しさに鈍感になっていたと思う。

秋山や春山の怖さというのは、晴れれば真夏のように暑いこともあるんだけれど、ひとたび天気が荒れれば真冬のような寒さになる。なので正解としては真冬の対策をして行かなければならない。山の天気は変わりやすくどうなるかはなかなか推測がつかないし、何か事故がある可能性も高いからだ。事故があって留まらざるをえないときにモノをいうのは防寒できる装備だ。だけどそこをうっかり忘れて、天気の良い時間帯を歩き続けるイメージだけを持ってしまうところに危険が潜んでいる。
私が今回久しぶりにこの時期に、短時間だけれどこの標高に来れて良かったなと思ったのは、そういった感覚を、頭だけじゃなくて身体で思い出したっていうのがあるかもしれない。

10:30出発

みんな暖かい格好をしたら、いよいよ出発だ。時間は10:30。私達家族としてはいつもなら家を出て高速道路で向かっている時間だ。前日、わびしいコテージにわざわざお金を払って泊まったメリットとしては、早く出発出来たことだといえるかもしれない。だって家からと茶臼山からとでは、運転する時間は20分位しか変わらない。でももし家に居たら、「昨日茶臼山登ったんだし、今日は辞めちゃおっか」ってなっただろうと思う。

千畳敷カールを出発

2612mにひろがる千畳敷カールは、紅葉はすっかり終わって木の枝には葉っぱはなく、蕾だけが目立つ。もう次の春に咲く準備をしているみたいだ。パンフレットには紅葉は10月下旬までと書いてあるけど、少し前にはここら一帯がナナカマドの赤や黄色で賑わっていたことなんか想像できないような冬の景色だ。

雪は残っているけど、遊歩道には石が敷き詰められているので運動靴でも十分に歩ける。子ども達は脇の残雪をカリカリと食べながら歩く。11/1に初冠雪だったらしい。カエデちゃんは美味しい美味しいと言っている。歯が痛くなりそうな私は食べる気はしないけど、きっとここらの雪ならおいしいのかな。丹沢の雪を溶かして飲んだ水は石油の味がしてまずかった事を思い出した。

20分ほど歩く、と八丁坂分との岐点がある。乗越浄土まで登る登山道(八丁坂)と周回する遊歩道との分岐だ。標高が高いせいか、子ども達はだるそうに歩くので。分岐手前のベンチで早くもおにぎり休憩を取った。

「なんでも食べたいものを食べな」と言っておにぎりやお菓子を見せる。そう言えば今朝さくちゃんがコンビニで言っていた。「お山に行く日はいいことがある。一日に2回もコンビニでお菓子を買ってもらえる」。
たしかに。山ではお菓子は食べ放題。「お野菜も食べなさい」なんて言われずに「食べたいもので良いから、好きなだけ食べな」って。そして「大丈夫?足痛くない?」って何度も心配されて「がんばってるね」って何度も褒められて、手袋やジャンバーを着させてもらって、脱ぐのを手伝ってもらう。ふだん公園に行くときはほったらかしなので、そんな日もきっとあって良いに違いないって思う。

木曽駒 八丁坂

コースタイムで言えば、分岐までは20分、そこから今回のゴールの乗越浄土という稜線までは30分。だけれども、子連れじゃなくて普通でも、この数字は厳しめなんじゃないかって毎回思う。
分岐からはツアーのお客さんは周遊の遊歩道に、ザックを背負った人は登山道に別れていく。しかし思ったよりも人が少ない。「文句なしの晴れ」とテレビの天気予報で言っていたので、もっと人でごった返しているかと思っていた。でもこの人の少なさが、ダラダラと歩くにはちょうど良かった。子ども達は疲れた~といってしょっちゅう岩に腰掛けたり道に寝そべったりした。さくちゃんは完全にテンションが低い。

木曽駒 八丁坂

ソフトシェル

八丁坂を歩く人は、富士山並みとは言わないけれども様々な格好の人が居た。ジーパンとダウンを着て手ぶらで登る人、手提げかばんを持って買い物に行くような格好で登る人。この時間に上から下ってくる人はちゃんとした雪山装備をしている人が多い。きっとテントで泊まったんだろう。しっかりニット帽も被っている。

多かったのは、”ソフトシェル”と呼ばれる部類のジャケットを着ている人。私も日常でもハイキングでもパタゴニアのソフトシェルを愛用しているけど、とても便利。
でもこれって、一昔前の登山では着ている人はあまりいなかった。この時期だと、レインウェアかヤッケと呼ばれるカッパが分厚くなったようなものを着ていたし、他の登山者もみんなそんな感じだったと思う。私もノースフェイスのマウンテンジャケットと言われるヤッケを持っているけど、ソフトシェルとの大きな違いとして伸縮性がなく、ゴワゴワしている。だから必要なくなったら脱ぎたくなってしまうようなものだ。しかしソフトシェルの良いところとしては、伸び縮みして身体にフットするしワタが入っていくてあっても起毛くらいなので、多少暑いところで着っぱなしでもそんなに気にならない。圧縮してもあまり縮まらないので持ち運び用にするには便利ではないけど、暑くなったり寒くなったり、そして風が出たり止んだりする山では耐風性があって透湿性もあるソフトシェルって良いと思う。

こんなにたくさんの人が着ているなんて、本当にここ20年位のアウトドア用品の変化はすごい。きっと外国ではずっと前からそうだったんだろうけども。
そしてそういう素材のズボンを履いている人も多かった。機能としては私のストレッチのレギンスにレインウェアを合わせたようなものだろう。伸縮性があって、風も防げるんだろう。
私は冬用としてフリースズボンを2本持っているけど、それだと風が吹くと寒いからタイツを履かないといけないし、タイツまで履くとモコモコになるし、いくらタイツを履いてももっと風があれば結局レインウェアで防風しないといけない。そんな訳で使い勝手が良くなくあまり履いていない。ソフトシェル素材のズボンが欲しいなあと思った。私はそんなに汗っかきではないから、ちょうど良い厚みのが買えれば夏以外の長いシーズン履ける気がする。見ているとマムートとかマーモットが多いなと思った。

ユニクロの暖パン

そんなふうに自分には外国のアウトドアブランドのズボンを買いたいなと思っているけれども、今回の登山用に子ども達に新調したのはユニクロの暖パン。4歳になりたてのカエデちゃんにはXS、6歳半のさくちゃんにはSサイズ。いつもなら長く着れるようにダブダブ目を選んでしまい、ぴったりになる頃にはヨレヨレという流れなんだけど、登山用なのでジャストサイズを買った。腰にベルト的なものが無いので下がってきてしまうかなとも思ったけど、ヒザもかなりゆったりなせいか特に問題が無いようだった。1990円だったので、この先山に行かなくても今シーズン保育園で履きつぶしてくれても問題ない。もしちゃんとアウトドア用のものを、となるとモンベルのノマドパンツあたりが妥当だろうか。
暖パンの表面はナイロンぽくなっているけど、撥水性はあまり無さそうだ。でもカエデちゃんは溶けた雪の上に座ったり水筒の水をこぼしたりと何度か濡れていたけど、少量だったし、また内側のフリース素材との間に空間があるからか、特に冷たいということは無かったみたいだ。でもナイロン部分は登山用ほど丈夫ではないので、ズリズリと石の上を滑ったり、枝や石留めのワイヤーの上に座ったりするうちに小さな穴が空いていた。

長い八丁坂

コースタイムたった30分のはずの八丁坂だが、しょっちゅう休憩して、乗越浄土に上がるまでに1時間45分もかかった。サクチャンは車酔いが残っているのか途中「お腹が痛い」と言い、帰りたいと言いつつも、帰ろうかと聞くと怒り気味に「行く」という。「いつ着くの?」って聞いてくるけど、まだ時間の感覚が分かっていないので、「あとドラえもんの話を1つ見るくらいの時間で着くよ」とかって説明する。
保育園でも「先の見通しを立てさせてあげることが大事」って教えてもらったことがある。そうやって丁寧に説明すれば子供ながらに理解をして、ちゃんと並んだり、座ったり、待ったり出来るんだと。なるほど、本当にそれって大事だと思った。この先あとどれくらい歩けばたどり着くのか、時間にしてどれくらいか、距離にしてどれくらいか、歩いた先に何があるのか、そこで何をするのか、、、そういうことがわからないままだったら、自分だったら我慢ならないだろうと思う。子供って初めてのことが多い分、なにも分からないまま導かれて行動することがほとんどだもんなあ。

木曽駒 八丁坂

この時のサクチャンは身体がだるかったんだろう。
「帰る」とは決めなかったものの、「もうお山なんか二度と行かない」と連呼していた。カエデちゃんは体調は悪そうではなかったものの、よく石に寝っ転がった。しかし陽が当たっていれば寒くもないし今日は時間的に余裕もあるので、待っていればやがて立ってあるき出した。しかし大人でもかなりの傾斜だから、きっと大変に違いない。

見下ろす景色は本当に素晴らしかった。朝モヤがかっていた伊那盆地の家々は、時間が立つに連れてクッキリと見えてきた。目の前にある南アルプスは20年以上前に縦走した山々だ。甲斐駒ケ岳から光岳辺りまで見える。

八丁坂から 千畳敷カールとの南ア

弟にラインしてカシミールの画像を送ってもらった。まさに絵とぴったりだ。いやあ、かつて歩いた山々が見えるってことはなんて楽しいんだろう。私はFacebookでUPするために携帯電話で写真を取ったりカメラで撮ったりと忙しかった。子ども達は歩いたり座ったりしながら登り続けた。

千畳敷からの眺望

12:30 乗越浄土へ到着

キタオくん、サクチャン、私とカエデちゃんという順で登っていたけどサクチャンのグダグダが始まってから私とサクチャンで後から歩き、私たちふたりは12:30に乗越浄土に着いた。出発から2時間が経っている。

稜線上にキタオくんとカエデちゃんの姿は無かった。私は急いでサクチャンにレインウェアの上着を着せた。ズボンは履かなくてもいい、と言った。そこまで強いわけではないけど風が吹いているのでやはり稜線上は寒かった。特に伊那前岳に続く白い尾根と岩がかっこよく見えた。キタオくんとカエデちゃんは見当たらないけどとりあえず小屋へ行って休憩させてあげようと思って進んでいくと、向こうからカエデちゃんとキタオくんが手を繋いでやってきた。「トイレ行ってきた~」と言っている。キタオくんはすっかり首元までレインウェアを着込んでいるのに、かわいそうにカエデちゃんは中に来ているフリースもジャンバーもジッパー全開でパタパタさせて凍えている。急いでレインウェアの上も着せてあげた。これで子ども達はふたりとも、ヒートテック、ハイネックシャツ、フリース、ジャンバー、レインウェアの5枚を着ていることになった。

木曽駒 乗越浄土

「休憩300円かかっちゃうから」と言ってキタオくんは休憩せずにこのまま下るつもりで居たらしい。たしかに下れば風も避けられて陽が当たるところもあるかもしれないけど、さっき下ってきた人たちが「あ、ここで良いじゃん」といって大休止をとっていた場所は少なからず斜面だったし、ちょっとロープの外だった。ゆっくり休ませてあげたいからモーレツに反対して小屋へ入った。
小屋は休憩300円だけど、飲み物などを注文すればそれを払わないでも良かった。私はかつて山小屋でアルバイトをしていたとき「休憩代を払って下さい」と言いづらかったことを思い出したけど、燃料がかかる山小屋では妥当な費用だと思う。

宝剣山荘で休憩

宝剣山荘では背の高いお兄さんが、会計から飲み物を作ることまで一人でやっていた。トイレへのドアは自動で閉まるのに出入り口のドアは手動できっちり閉めないと閉まらず、人が出ていった後に開きっぱなしになることがたびたびあった。お兄さんはたびたびキレ気味に無言でドアを閉めた。この小屋の営業は明日で終わりらしい。

私とカエデちゃんが後で到着すると、キタオくんとサクチャンはテーブルについて座っていた。さくちゃんは机に突っ伏していて、やがてそのまま寝てしまった。一瞬”疲労凍死”という言葉が頭をかすめた。それほど疲れているはずもないんだけど、体温と脈を確認してしまった。内部はストーブを幾つか炊いていてくれて暖かかった。

木曽駒 宝剣山荘

しカエデちゃんはやや眠いのか、すこし不機嫌になりサクちゃんのぶどうグミがほしいとゴネた。自分はグミを買う代わりにコアラのマーチを選んだくせに、そう説明しても「だってカエデちゃんグミ欲しいんだもん」と言って聞かなかった。そういうところがまだ4才児だ。それとも年齢ではく性格なんだろうか。しかしキタオくんとポテトチップで遊んでいる内にご機嫌に戻った。

木曽駒 宝剣山荘

私はコーヒー400円と、ホットミルク400円と、ぜんざい600円をみんなで分けようと思って注文した。持って来たおにぎりを食べてサクチャンが起きるのを待って、けっきょく1時間位小屋で休ませてもらった。「小屋での休憩は正解だったね」とキタオくんが言った。そりゃそうだ、子ども達こんなに疲れているんだから。キタオくんは自分の500円の中ナマはガンガン注文するくせに、変なところでケチる。サーティーワンアイスクリームに250円払うのは許せないらしい。すぐとなりのドラッグストアで200円出せば6本入った箱のアイスが買えるのに、と。それなのにATMでの現金引き出しにしょっちゅう時間外手数料を払っている。まぁ”変なところをケチる”は私もよく言われることなので人のことは責められない。

木曽駒 宝剣山荘

しかし子ども達はなぜいつもより疲れているのだろう。標高が高いせいだろうか。突然の寒さのせいだろうか。風のせいだろうか。登山2日目のせいだろうか。車酔いが残っているんだろうか。
ここから木曽駒ヶ岳の往復はコースタイムにして2時間弱で道も厳しくはないし雪も風で飛ばされて無いだろうから歩けるだろう。初めから頂上を狙う気はなかったものの、可能だったのだろうかと考えると、やっぱり厳しいだろうと思う。まず今の季節では早くに日が暮れてしまう。樹林帯じゃないからそうそう暗くはならないけど、日が暮れたら寒くなる。では10:30ではなく9時に歩き出せていたらどうか。う~ん、それでもやぱり八丁坂の下山が心配になる。段差があって傾斜もきついだけに、疲れた状態で下るのは危ないだろうと思う。ポカポカ無風の夏なら良いだろうけど、寒い季節はやはり慎重にならざるを得ないなと思った。

13:30下山

仮眠から目覚めたサクチャンは大好きなおしるこもお菓子も、何を勧めても食べなかった。
そして小屋を出て、集合写真を撮ってから下山を開始したのは13:30。まだ日が高いから安心だ。

木曽駒 乗越浄土

子ども達は寒い寒い、どうしてこんなところをあるかなければいけないのかと文句を言っている。こんなに景色がいいのに、名残惜しい。

木曽駒 乗越浄土

キタオくんとサクチャンは快調に下山していってしまい、その後ロープウェイの駅まで出会うことは無かった。カエデちゃんはごきげんにおしゃべりしながら下っている。斜面下り始めると風はなく、暑くてレインウェアを脱がせたりジッパーを開けるくらいだった。やっぱり登山靴を履いているからだろう、カエデちゃんの足取りは安定していると思った。もちろん無謀に下ってしまうしズリズリも滑るから手を繋いでは居るけれども、足首に安定感がある。初めて履いたときのように分厚い登山靴の靴底を石に引っ掛けてしまうようなこともない。慣れたんだろうか。
そして道自体も、急斜面のせいかワイヤーや丸太でよく整えられているし、多くの人が歩くからか”石車”やザレているところも少ないので下りやすかったと思う。今の子供は転んだ時にうまく転べずに怪我をする事が多い、という事で保育園でも運動や基礎体力作りに力を入れてくれているが、こんなふうにバランスの悪い道を歩かされているカエデちゃんたちはなにか得ているんだろうか。

14:30千畳敷駅到着

のんびり休憩したり氷を触ったりしてだらだら歩いて、14:30には千畳敷駅に着いた。ここまで、コースタイム2時間弱のコースを4時間行動ということになった。サクチャンが自分の足で歩いたのは雷鳥沢の2400mが最高峰だったので、初の2858m、自己最高峰。しかも晩秋というちょっとレベルアップした季節に、なかなかよい日帰り登山が出来たのではないか、と私的には思った。

駒ケ岳名物 ソースカツ丼

そして帰りは駒ヶ根名物、ソースかつ丼を食べ、2時間弱の運転で名古屋へ帰り、キタオくんは無事飲み会に参加できた。それにしても、駒ヶ根から見る中央アルプス、南アルプスの山々もまた素晴らしかった。

番外編:テント泊は断念

実は、家族4人が泊まれる山岳テントを購入し、この日に最後のテント泊を、と以前から気合い入りまくりだった。しかし10月末から急に寒くなるとやっぱり怖気づいた。「寒いのはいやだ」。以前3月に泊まった寒すぎたティピーでの思い出が蘇った。
想定している寝袋は、モンベルのファミリーバッグ#3。「夏の高地や冬の低山に対応する」と商品説明には書かれており、快適睡眠温度域は7℃~とのこと。これを2つ所有しているので、ジッパーを全開して大きな袋状に合体し、6歳と4歳の子供と私の3人で使うイメージ。キタオくんは自分の3シーズン用の寝袋とシュラフカバーを使ってもらう。

さて、このスタイルだとどの程度の寒さに耐えられるのだろうか。これまでに行った、数々の11月の山を思い出してみた。いつかの北岳は粉雪が降っていた。いつかの金峰山は死ぬほど寒かった。初めは八ヶ岳の黒百合平なども思い浮かべた。渋の湯から樹林帯を2時間半のコースタイム。難しくないし長さ的には適当かも。しかし標高2400m。いや~むりむり。しかも黒百合平往復のみだったら、着いた後の時間をどのように過ごせば良いんだろう。寒い寒いって言ってテントに入って長時間を過ごさないといけない。きっと山小屋に泊まりたくなってしまうだろう。

この日は有給を取って3連休としていた。しかしどう考えても高山は寒い。案としては下界のキャンプ場で、山岳テントと登山仕様のガスや食料や装備でテント泊を行うのはどうだろう。次の夏に向けての練習になって良いかもしれない。でも隣でタープの下にテーブルやイスを広げてキャンプしているのに、それじゃあわびしすぎる。

「せめて晩ゴハンは外で食べようよ」キタオくんが言った。「何時頃?」「7時とか」。いやだめだ。それじゃあ真っ暗だからランタンが居るし、イスも持っていかなきゃいけない。そうすると朝の撤収に時間が掛かるし、すぐ近くに車で行けるからってなんでも持ってっちゃって山行スタイルじゃなくなっちゃうじゃん。ただのキャンプならべつにしなくても良い。でもザックに全部荷物を詰め込んで、そこまでストイックになって試してみる勇気もなくて、結局テント泊は諦めた。
キャンパーのブログを見てみると、寒い季節には電源を使って電気毛布とかストーブを使うらしい。そんな事を知った以上は、「EPIでテント内を暖めて、暖かい内に寝袋に入ってあとは体温でしのぐ」なんてことはできない。やっぱりあれば山の上だからこそ耐えられることであって、加藤文太郎は自宅の庭で耐寒訓練をやっていたけれど、ももし本気ならうちも庭でやればいいってことになる。そこまではちょっと、、、できない。 そんな訳でテント泊は来年に見送りとなった。