イルチュルボン(城山日出峰)に登る -子どもと海外旅行 in チェジュ島 ⑧-
海女さんの島、チェジュ島
もう12時近くになっていた。私たちは城山日出峰(ソンサンイルチュルボン)へ向かって、その付近で昼食を撮ることにした。アンさんは海の道を通って行きましょうと言って車窓からの風景をガイドしてくれた。
海は想像とはちがって、明るい水色をした海だった。溶岩から出来た島だから磯の岩は黒く、広くひろがっていた。磯を歩いてみればよかった。アンさんはたしか車を止めて海に降りるかと聞いてくれた気がする。でもその時はなんか時間がない気がして断ったんだ。潮が引いていたのか、もともと磯が広いのか。でもきっと溶岩の磯というか岩場が広いんだろうな。
たしか海に向かってあぜ道のような道も出来ていた気がする。海女さんたちの道だろうか。岩場は黒ぐろしてるのに砂は白かったのが意外だった。だから南国っぽくて、底が見える海は澄んでいてきれいな水色だった。海には浮がところどころ浮いて、海女さんが仕事をしているんだとアンさんが教えてくれた。
来る前に読んだ本によると、韓国では海女さんという職業が儒教で良くないとされた影響で本土では廃れたのに対し、離島だったことや文化が異なったせいでチェジュでは残ったらしい。その後アワビなんかが高くなると中国の方まで出て行って取ったりとかして盛んだったらしいけどやっぱり近代になって観光地化が進む中で激減したらしい。
でもこの牛島のあたりで海女さんが多くまだ存在しているのは観光開発の地域にならなかったからだと書いてあった。ここまで読んでかなり海女さんには興味を持っていたのに、海女さんの博物館があるよと言われたのに素通りしてしまった。もったいないことをした。おなかが減っていたのかもしれない。
車窓からはイルチュルボンが見えてきた。本当に30分で登れるのかと疑ってしまう。海抜180mらしい。本日二度目のおんぶ観光だ。しかも今度は登りだ。そう思ってるとにぎやかな観光地に近づいてきて、アンさんは何も聞かずに一軒の店の前で車を止めた。昼食の場所だ。タクシーをチャーターすると店も勝手に決めてくれるのか。たぶん「チジミが食べたい」「チゲが食べたい」とか何を言ってもだいたいこの店になるんだろう。「なんでもあります」そう答える気がした。
何食べようか、どの店入ろうか、とか自分たちで決めるってことができないのかと一瞬思ったり、あとツアーで連れてかれる無難な味の地元の人が入らない店のイメージを一瞬もったけどとりあえず入った。まぁ自分たちで探すより運転手さんだから知ってるおいしいところなのかもしれないし。
昼食は太刀魚、あま鯛の干物、海鮮チヂミ
店内はテーブルと座敷があり、座敷部分が広いから助かる。そういう意味で韓国は子連れでも旅行しやすいかも。寝ちゃった子なら座布団ひいて寝かせておけるし。なにしろお米があるのは大助かりだ。お茶も無料でもらえるし。
私たちは窓際の奥の座敷をリクエストした。あっちがいいと指さすとおばさんたちはいいよ、いいよ、って感じで案内してくれる。おばさんはみんな親切だ。壁は海に向かってガラスになっていて、光がさしてとても温かかった。アンさんは座ったのを確認するとどこかへ行こうとするので「一緒に食べましょう」というと遠慮してどこかへ行ってしまった。
メニューはまた品数が少なくあっさりしたものだった。そんなに悩む事もなく、チェジュ名物の太刀魚とあまだいの干物、海鮮チジミを注文した。
すぐにキムチなどがいっぱい運ばれてきた。今回はキャベツをゆでて和えたもの、固い魚の練り団子、赤い味噌とブロッコリー、白菜キムチ、魚の乾きものを細長く切って甘辛くしたもの、豆腐…などなど。見るだけでおなかいっぱいになりそうだ。
海鮮チジミは小さくて柔らかいイカと鰹節がいっぱい乗っかっててカリっとして薄くてとってもおいしかった。この旅で何が一番おいしかったかとあそさんに聞いたら海鮮チジミだった。
あま鯛はとても大きくて、さらにやってきた太刀魚は20cmくらいのが2つ来て、とにかく全部来たあたりからガンガンがんばりぎみに食べた。干物が大好きなサクチャンの食べっぷりを期待していたのにサクチャンはほとんど食べず、たしか後半に味噌汁ご飯を食べただけのような気がする。
あま鯛は特別に珍しいわけじゃないけど日本だったら自宅に持って帰って食べるだろうと思った。良質ってかんじかな。太刀魚もチェジュの名産と聞いてちょっと期待していたけど、普通と変わらずおいしかった。まずい太刀魚を食べたことがないけど、ただの焼き魚なのに名産ってどういうことなんだろう。疑問だ。
サクチャン達は隣のテーブルに行ったりお箸入れの箱に興味を持って持ち運んだりしていて、そのたびに取り上げたり連れ戻したりはしていたけど、まぁそんなに大きないたずらはしなかったから一応食事をキッチリ取ることが出来た。これで海鮮小鍋やノリマキに引き続き、チェジュの名物を食べれたのでうれしかった。
おばさんたちがチェジュ名産のミカンをくれて、それを食べたり交代でトイレに行ったりしてくつろいでる時間に(たしかサクチャンだったと思うけど)机の間に設置してある衝立を倒してすぐ隣で食べていたカップルの方に倒れて驚かせた。2人は怒りもしなかったので良かったけど、逆に考えれば人がいたから大ごとにならずに済んで良かったのかもしれない。いい人で良かった。
イルチュルボンにおんぶで登る
タクシーでイルチュルボンに近づくと、どんどん見晴らしがよく開けてきた。 イルチュルボンはチェジュを象徴する景観の一つで、世界自然遺産にも登録されている火山だ。皿にひっくり返してちょっとゆがんだプッチンプリンみたいな珍しい形をしているから良く目立つ。
写真で見るとすごく高く見えるんだけど、ツアーなんかでみんな登るって聞いていたことから、私たちも登れるかなって思っていた。標高は180mだし。海からスッと山が始まってるからとても急傾斜に見えて、一見とても簡単に登れるようには見えないんだけどね。
かっこよくするために裾野の木を切ったのか、広々とした牧草地帯になっていた。もう駐車場を降りるだけでもっと下の裾野に広がる街も見渡せる景色のいいところだ。頂上に行かなくてもその辺を周遊する道も整っていて、さすが世界遺産というかんじ。運転手さんはそこの道を勧めたけど、まぁせっかくだから行ってみようという事で出発した。
相変わらずアンさんはイルチュルボンや看板を入れてしっかり写真を撮ってくれた。陽は温かく空も晴れて良い気候だった。看板のところにサクチャンサイズのトルハルバンがあったのでサクチャンを間に挟んで写真を撮った。
サクチャンは昼食を終えもうそろそろ眠りに入りたかったのかテンションは低かった。さすがにアンさんは今回は来ないらしいので今度は私がカメラマンになった。空が青くて明るいので、こういう日はどんな写真も素晴らしく撮れたりする。
おんぶするとサクチャンはすぐに寝てしまったのでみいちゃんとあそさんをいっぱい撮ってみた。みいちゃんはあそさんに前抱っこされてぼんやりと遠くの景色を眺めていたりした。思慮深い感じのする表情だ。
道は石が敷き詰められていたりと整っていてすごく登りやすかった。手すりや休憩所なんかもところどころあった。多くの人が行き交っていたけど危ないところや登りにくいところは一つもなかった。とにかく息を切らさないように余計な会話もせずゆったりと登った。
途中後ろの人が、おんぶされているサクチャンの足首が出ているのをみてズボンの裾を下ろして靴下を上げてくれたりした。「まぁ、自分だけだって登るの大変なのに、すごいね」みたいな事を日本語で言われたのか覚えていないけどいろんな人に身振り手振りで褒められながら登った。
そんなことをいうので気を引き締めて登っていると気づけば頂上に着いた。あれ?って感じであそさんと驚いた。頂上は道やテラスが木道みたいに整備されていて案内の人も立っていた。これまでは見えなかった、カルデラの穴のなかや外周?が見えた。外周はたしかアンさんが「王冠のリング」って言ってたっけ。その輪の細い稜線上にポチポチと大きめの岩が残って、遠くから見たらきっと王冠みたいに見えるんだろう。
景色は遠くまで見えて気持ち良かった。ここから見ると、チェジュ島のいろんなところに小さな火山があるのが良く分かった。たしか本にも書いてあったな。島の中心はハルラ山だけどそのほかにもいっぱいあるんだった。隆起とかで出来た山脈じゃないから、平らな土地に突然ぽっこりとまあるい山があったりした。日本でのたまに、扇状地のなかに取り残された島みたいな山を見るなぁと思った。
海沿いの街は屋根もカラフルだった。もっとゆっくり泊りたいなぁと思った。 せっかくの景色がもったいないのでサクチャンを起こすと、まだ相当眠かったらしくしばらく泣きわめいて怒っていた。みかねたあそさんがみいちゃんようのラムネをくれるとピタッとだまった。さくちゃんはこうやっていつもみいちゃんのお菓子をもらっている。だからさくちゃんはあそさんが大好きなようだ。
みいちゃんの表情が良いのでしばらく写真撮影大会をした。このカメラ(パナソニックのGF1)はうまく光とかが入ったり背景がボケたりするとすごくいい写真が撮れるから、いいアップの写真が撮れたらいいなぁと思っていた。あそさんは気を遣ってか、頂上で撮ってあげた写真を年賀状に使ってくれた。2人ともとてもいい笑顔をしていた。
チェジュ島名物、ミカン
この時で15時ちょうど。それから下山はあっという間で、すぐにアンさんと合流した。アンさんは降りてくるのを見つけてくれたんだろうか。食事が終わった時とかもスッとあらわれて気付けばそこにいるっていう、ガイドさんの鏡のような人だ。それからトイレへ行って、15時だったにも拘わらず迷わず次の観光地へ向かった。
8:30から通常8時間のガイドだと4時半まで。多少長引いたっていいらしいけど、こんなにゆっくりさせてもらってほんとありがたい。
途中ちらほらミカンの木が見えた。チェジュはミカンの産地だ。書くと長いからやめるけど、チェジュが自給自足の経済的に貧しい島だった頃から、温暖ゆえに作物が良く育ち韓国本土への唯一の果物や、野菜の供給地として華やかな出世を遂げるのに大きく貢献した象徴みたいなもんだろうか。とにかくチェジュではミカンを売り出し中だ。実際に韓国本土で食べられるミカンは全部チェジュ産だと聞いた。
ミカンなんてなんか普通にありすぎてぱっとしないかもしれないけど、もともとチェジュではミカン栽培はしていなくて、韓国ではミカンをあまり食べなかったという。韓国併合の時に多くの日本人がチェジュに渡ったときだって、日本から持ち込んでいたというのだ。だからチェジュのミカンの歴史はとっても浅いと本には書いてあった気がする。アンさんによるとミカンの収穫期はとっくに終わっているけど観光用に実のついた木を残してあったりするんだそうだ。でもこういうのを知らないと、なんでチェジュではミカン土産ばっかりあるのか分からないよね。太古の昔からミカンなんてあった気がしてしまうからね。