赤ちゃんと子供と登山。三方山・トレッキングシューズで本格下り①
3歳3ヶ月になったサクチャンと、9ヶ月になった赤ちゃんを背負子に乗せて再び夏の山へ繰り出しました。場所は岐阜県、養老山地の一角、三方山722m。暑さから逃れて向かった先も暑く、セミの大合唱。行けども行けども拓けない視界と過ぎていく時間に焦りながらの登山となりました。
名古屋から見える山、養老山地
この時もまた、いつものやりとりが繰り返された。
「今日どうする?山でも行く?」「うーん・・・」
めんどうくさいのだ。出不精なのだ。山って、行ってしまえばあとになって楽しい思い出になることはわかっている。しかし、行くまでがめんどくさい。
しかし私はふと思い出した。先日買ったドイターのリュックを使ってみたい。フューチュラ28だ。こういうファミリー登山向けに買ったのだ。前月の富士見台ではデイパックで行った。秋葉原とかで1000円位で売っているやつだ。「使い終わったら捨てていいから」といってもらったものだが、その軽さが意外に便利でかっこ悪いけどたまーに使っていた。しかし、4人分の雨具や食料を入れるには小さすぎるので、なにか広く使いまわせる、かっこいいものが一つ欲しかった。フューチュラ28についてはコチラのページで紹介しているのでぜひ参考にしてください。あともう一つは、かねてより入手していたソロストーブで燃やす燃料をゲットしたかったのだ、ということも思い出した。そんな訳で、その2つをモチベーションに出発した。
山を選んだのはキタオくんだ。「養老山へ行く」という。養老山といえば、名古屋から北へ向かうときに左手(西側)に見えるこんもりとしたちいさな山脈だ。ふつう、山って尾根がダラダラと続いていて、イマイチどれがなに山っていうのは慣れないとわかりづらいじゃないですか。でも養老山地というのは広い濃尾平野のすぐとなりにいきなりコンモリとあってまるでイモムシのように端と端が落ちているのでわかりやすいのだ。その中でどれが何山かはわからないけど一度くらい行ってみてもいいと思っていた。「”養老の滝”っていう有名な滝があるよ」キタオくんはそうも付け加えた。あの全国の居酒屋の養老の滝の由来のところかな?違うか。”養老”って付く地名、たくさんありそうだし。
駐車場のおじさん
快晴。しかし暑い。高速を降りて町からヒョイっと山方面に向かって進み、そしてたいして走らないうちに養老の滝駐車場に着いた。1000円。「なかなか取るね」キタオくんが言った。たしかに。場所は、やや小高い程度。駐車場奥には仮設トイレがあって熱気もあって猛烈にくさかった。サクちゃんは嫌がっておしっこを拒んだ。こういうときはまず、お願いする。「一滴でいいから!」。次に脅す。「おしっこしないなら、置いていく」。毎回このやりとりを繰り返す。トイレを済ませただけで疲れた。しかし汚い仮設トイレを嫌がるなんて、サクチャンも成長したもんだ。
リフトっぽいのもあって、売店も並んでいる。このあたりの名物ってなんだろうか。降りてきたら食べるのが楽しみだ。私は秘密のケンミンショーにそのヒントがなかったかがんばって思い出してみるが、ピンと来ない。そしてさっさと準備をして、車を出発した。
駐車場の入り口の小部屋にはおじさんがいた。どっちかっていうとおじいさんかもしれない。なんかいろいろお話してみたい気分になった。
「養老の滝って、あの居酒屋全国チェーンの”養老乃瀧”・・・」
「関係ないと思いますよ」
遮るように言った。そうなのか。そしておじいさんはそれ以上なんの交流もするつもりはないらしい。ここは私が思うより観光地なのかもしれない。私は続けた。
「駐車場の最終の時間が5時って書いてあるんですけど、過ぎちゃったら門が閉まりますか?」
「まぁーいいですよ」
おじいさんは「大目にみて許してあげます」という顔をして言った。
養老の滝の言い伝え
居酒屋チェーン ”養老乃瀧” をネットで見たら、すぐ社名の由来が出てきた。以下抜粋。
岐阜県養老郡養老町にある「養老の滝」。この滝には、ある言い伝えがあります。八世紀頃、美濃の国に、貧しいけれど親をうやまい大切にしているきこりが住んでいました。
ある日、薪を採りにいつもよりずっと山奥に入り、流れ落ちる滝の水を眺め「この水が酒だったらなあ」と酒の好きな老父の顔を思い浮かべていた時、苔むした岩から滑り落ちてしまいました。
しばらく気を失っていましたが、ふと気づくと岩間から清水が湧き出ているのです。すくってなめてみると美味しい酒の味でした。夢かと思いましたが、腰にさげているひょうたんに汲んで持ち帰り老父に飲ませたところ、老父はたいそう喜び、父と子のなごやかな笑い声が村中に広がりました。
話は都に伝わり、この親孝行の精神を時の元正天皇がお誉めになり、老いを養う水に因み、この滝を「養老の滝」と命名、年号も養老と改めたとのことです。この伝説に心をうたれた創始者木下藤吉郎は、「親孝行と勤勉」を社是とし、社名を「養老乃瀧」としたのです。
ということだ。
ちなみに、この木下藤吉郎はもちろん豊臣秀吉ではなく、本名は矢満田富勝さん。
それにしても駐車場のおじいさん、ひどいじゃないですかー。
登り開始と小さい渡渉
歩きだしたのは12時。
後で考えてみるとかなり遅いけど、めちゃくちゃ暑いから日中はいつまでもずっと続くように思われた。コースタイムは、もし三方山までなら登り1時間10分、下り45分で、合計1時間55分。その時は深く考えずその先の小倉山までも視野にいれつつ歩きだした。
暑い。セミの声がすごい。ここは標高250m。これくらいの標高では全然涼しくないらしい。
車で通った道を少し戻ると、すぐに道標や地図が出てきて大変わかり易い。しばらく車道を歩く。かなり背の高い針葉樹が生えていて薄暗くて山深さも感じる。さっそくソロストーブにくべる杉の枯れ枝を拾う。杉の枯れ枝がすごく燃えると教えてもらったのは高校生の時だ。だから山火事なんかもあっといまに広がるんだとか。山に落ちている葉っぱについてはあまり知らないけど、そうやって聞いたので杉の葉はすぐにわかる。私が一度拾い出したら、サクちゃんが泥だらけのやつとか湿って虫が住んでいそうなやつとかを構わず集めて渡してくれた。
「拾う」「摘む」は、どうやらとても好きらしい。子供はみんなそうなんだろうか。ふだんの散歩でも、やたら摘みたがる。毎回エノコログサ(ネコジャらし)を摘む。「摘んではいけない」「摘んでいい」を明確に分けるのはなかなか難しい。難しいのは例えばマリーゴールドなんかだ。もちろん人の敷地内のものや歩道に植えられたものは摘まない。でもごくまれに、種が飛んでかエノコログサの中に混じって駐車場の雑草の中に埋もれて生えていたりする。もちろん「摘んだらかわいそうだよ、枯れちゃうよ」と制すればサクちゃんはその点すぐに言うことを聞く。タンポポやヒメジョオン(びんぼうぐさ)なんかも摘んでいいのだろう。でも多分生えている場所に依るのではなく、園芸用だったりキレイだったりとか珍しかったりとか、けっこう総合的に判断しないといけないことがある。それを3歳児に理解させるのは難しい。
話は変わるが、サクちゃんはなかなか話が面白い。例えば私が「マリーゴールドが、摘まれたくないよーって言ってるんじゃない」と話を振ったとすると、サクちゃんはマリーゴールド目線になってどんどん話を重ねていく。どんなふうに?って聞かれると思い出せないので別の例を。こないだ保育園で近くの森の池に住むカッパにきゅうりをあげにいく、というイベントがあった時の話。まぁ、それ自体も変な企画だけども。
「サクチャン、かっぱ見たの?」
「見たよ」
「どんなんだった?」
「あのねぇ、赤ちゃんのカッパ」
「・・・へぇー。何色だった?」
「うーんとねぇ、ピンク。」
「そうなんだ・・・。頭になにか乗っけてた?」
「○○」
「え!!」
この○○が何だったかはこれまた思い出せないが、とにかく皿とかきゅうりとかじゃなかったんだ。
ここまで来ると完全に”ウソ”に近い。この、”仮のお話”と”ウソ”の棲み分けって難しい。
やがて道は、ちいさな川を渡る事となった。両側が石が積まれたように崩れる感じになっている。ダッコしたりおんぶしたりすればすぐに行けるんだけど、急ぐ必要もないので本人に任せてみる。ちょうどキタオくんが撮っていたどうでもいい動画があるので記念に載せてみよう。
今見ると、体に合わない長いストックを使わされて、たいそうかわいそうだ。一瞬靴が水に浸かった時は「やめときゃよかった」と思ったが、靴がゴアテックスだったためか全く濡れていなくて助かった。
樹林帯の九十九折(つづらおり)
川を渡ると樹林帯が始まった。登山道は、土と、丸太で作られた段と、土の上に乗っかる割れた石、という感じだ。つづら折りに尾根をトラバースしていく。気をつけないと谷側に落ちてしまうところも少しはある。まぁしかし、樹林があるので高度感はない。崩れがちな道にはロープが張ってあったりする。
石がないところは歩きやすいが、全体としては歩きやすいとは言えないかも知れない。ちゃんとした靴を履いているか気をつけて歩かないと足首をひねったりしそうだ。途中すれ違ったおじさんも私達を見て「う~ん、この先けっこう危ないねぇ」と勝手につぶやいていった。
しかしシダやキノコもあり、サクちゃんはそれらを見つけれは楽しそうにしている。
最近ブームの”ハート”の葉っぱを拾った。拾っては私のズボンに入れてくるのでかなり迷惑だ。しかし不思議なものでポケットにしまった後のことはまったく気にならないらしい。保育園から持ってきたどんぐりも葉っぱも全部捨てているけど、気づかないらしい。もちろん「捨てた」とは言わない。もしかして本人も気づいているのかもしれない。
途中、犬を連れた登山者が上から降りてきた。
通りすぎてしばらくした後、すごい声で犬が吠えたのが聞こえた。そして飼い主が叫んだ。
「コラ、ダメ、やめなさい!!」
「キャイーンキャイーン」
みたいな。なんだか必死なやりとりが聞こえた。声がした下の方を見ていると、ガサガサと大きく木の揺れる音と同時にまた激しく犬の鳴き声がする。そして茶色い数匹のサルがダッシュして木を飛び移りながら逃げていった。
おぉ!眠気が一瞬吹き飛んだ。残念ながらサクちゃんにはわからなかったらしい。山でサルを見るなんて、けっこう珍しいのにな。
そして出発から1時間30分経っても、樹林のつづら折りは終わらない。今回はサクチャンにもリュックを背負ってもらって、元気の源、ポカリを入れてきた。「ポカリチャージ!」そういってたびたび、リュックから器用にポカリを取り出してはチョコチョコ飲む。はて、自分で持たせたのは失敗であったか。
別に大展望を見るためにここに来たという訳でもないけど、こう樹林が続くと「いつ展望が良くなるのか」と自然と期待してしまう。
やっとつづら折りが終わったのは14時になってからだ。すでに歩き始めて2時間。 尾根はこんな感じで広くなり、きもちいい散歩道となった。
景色は全然見えないけど、空を見上げると気持ちよく晴れ渡っている。そして松の枝には大量の松ぼっくりがくっついていた。そして道は松ぼっくりの嵐となった。私達は暇つぶしに松ぼっくりを拾いながら歩いた。飽々してたっぽいサクチャンの目がキラーンと輝いて、さっそくかぶっていた帽子をサッと取ってカゴにして丸ボックリをその中に収集し始めた。元気が良くなったのは良いが、歩みは更に遅くなってしまった。
まずいなー。時間がたっぷり無いことはなんとなく感じてたけど。残された時間をまじめに計算してみる。
今14時過ぎでしょー、下りのコースタイムは45分だけど、浮石が大量でけっこう時間が掛かりそうだ。倍の1時間半は取っておきたい。そんで、遅くとも17時には駐車場に着かないとだしなー。夏は日が長いけど、森のなかはけっこう早く暗くなるよね。太陽の方に尾根が向いているかどうかに大きく関係するけど、もう日が暮れたと思った山から出たら、まだ町は昼間でビックリすることがある。とにかくちょっと急がないとな~。