スズメバチの巣を軒下に発見し、刈り取る
北海道旭川・移住の記録 #6
2020年6月7日(日)。昨日、スズメバチの女王が軒天の隙間にが入るのを確認。巣を作る場所を探しているのかと思い安堵するが、本日そこに頻繁に出入りするスズメバチを確認。
巣を作っているのだ。勇気を振り絞ってスズメバチの巣の除去に挑む。
スズメバチの巣を軒下に発見する
朝起きると、とても寒い。耐えられなかったので、もともと置いてあった古い煙突ストーブを点けようと試みるも、つかない。電源は入るけれど火がでない。チューブから灯油が送り込まれている気もしない。というか、チューブは一体どこにつながっているのだ。チューブは床下にもぐったあと、その後行方不明だ。
そんなことをしていると、またスズメ蜂のブーンという大きな音がした。そして昨日と同じ軒天の隙間に入っていくのを小窓から確認した。しばらくするとその蜂は出ていき、またしばらくして軒天下に戻る。一直線に飛び出し、一直線に戻ってくる。
どうやらここに巣を作っていることは間違いないようだ。
昨日は蜘蛛が守ってくれたとか、蜘蛛の姿に感動、とか蜘蛛をべた褒めしていたが、ぜんぜんそんなことはなかった。蜘蛛はスズメバチに対して何もしていなかった。仲良く同じ一室で同居していたのだ。
これはなんとかせねばやばい、ということで、まずはスズメバチの行動を観察した。
お腹が空いたので、食パンをかじりながらベテランの刑事みたいに物陰から出入りを観察した。観察は楽しい。エゾアカゲラが木をつついてる姿を見かけたり、カッコウ的な鳴き方をする鳥がいることに気づいたりする。
2、3時間ほどスズメバチを観察してわかったことは、だいたい彼女の在宅時間は10分~20分、お出かけ時間も10分~20分、くらいの生活リズムである。たまに30分とか長くおでかけする時もある。
サイズはそれほど大きくない。グーグルで調べてみる。キイロスズメバチとやらだろうか。
スズメバチの女王の行動パターンはすごくわかりやすい。これならいけそうだと思った。
なのでまずは軒天を壊すことに。中途半端に隙間が空いているから巣を作られてしまうのだ。
スズメバチが巣に戻るのを間違いなく確認し、そして間違いなく外出したのを確認すると、その瞬間に小窓の網戸を開け放ち、桟に手をかけ身を乗り出し、登山で使うピッケルを軒天の隙間に入れ込んで軒天をちょっと破壊。そしてまたすぐに網戸の中に隠れる。その時間は約20秒くらいか。
第一段階の作戦は成功だ。そして次は、戻ってきたスズメバチの姿を確認してみよう。きっと彼女は慌てることだろう。お出かけして帰ってみたら、自分ちの家のドアがないのだ。慌てているに違いない。
軒天が破壊され顕になった軒下。そしてよくよくその軒下を覗いてみると、なんとハチの巣があるではないか。やはりスズメバチはここに巣を作っていたのだ。
大きさは直径10センチかそこらのもので、現在絶賛建築中のようだ。これは早いうち取り除かなければならない。
数分後、スズメバチが帰宅した。どんな反応をするのだろうか。
予想通り、スズメバチは家の前でしばらくホバリングしてウロウロしていた。なかなか自らの巣に近づかない。とても困惑している様に思える。羽音のピッチが心なしか高く軽い様に聴こえる。
しかし彼女は意を決した様にその巣に入っていった。
巣の穴に入ったスズメバチの女王は、中で何やらをし、また時には外にでて巣の外壁の作業なのかウロウロとしたり、また穴に潜ったり、とそんなことを繰り返した。
そしてまたいずこかへ一直線に飛び立っていった。
どうやら、軒天はなくなったが巣作りを続行、との決意を固めた様だ。その覚悟が蜂の後ろ姿と羽音で確認できた。私はやるのだ、何があっても巣作りを完成させるのだ、とその後ろ姿は語っていた。
スズメバチの巣を刈り取る
よし、次の外出中にハチの巣を撤去しよう。そう決め武器を作る。
ピッケルは短くて蜂の巣までは届かないし、外に出て脚立を立てて撤去するのも嫌だ。巣に忘れ物をしたスズメバチがすぐに戻ってくる、なんてこともあるかもしれない。
そんなわけで、もともと家に残されていた鉄パイプにピッケルを合体。このロングピッケルでハチの巣を刈り取るのだ。
ちょうどその頃、姉の家族が遊びにきた。スズメバチの巣を取るのを手伝ってくれるのか、または見学しに来たのかわからないが来てくれた。
そして姉は僕の代わりに張り込みを交換してくれた。しかし今回の女王の外出時間は長く、なかなか巣に帰ってこない。なにかの予感を感じているのかもしれない。
そしてついに女王は帰宅し巣穴に潜り込んだ。するとすぐさま僕は革製のグローブを装着し、ロングピッケルをギュッと握りしめる。狩りの準備をし、窓の横で身を潜め気配を殺した。白樺の大木の裏に身を隠し、槍を抱き息を殺すアイヌの狩人の様に。
しかし女王は巣からなかなか出てこない。それがあまりにも長すぎて、しまいには在宅中なのか外出中なのかもわからない状態になった。長すぎて狩人のテンションはどこかに行ってしまった。
すると姉が突然「蜂アウト!」と声をあげた。ついにキタ!と思ったら「いや、イン!」「アウトー!… イン!」と蜂の行動がわかるたびに声で報告をする。
大変面白いが、どっちなのだ。とりあえず蜂は巣にいる様で安心した。
そしてついに時はきた。巣からでたスズメバチは弾丸の様にどこかへ飛び立っていった。姉が「アウトー!」と雄叫びを上げた。
そしてその刹那、僕は網戸を開け放ち。ピッケルのブレード部分、平たい部分を上向きにしてハチの巣を一刀のもと刈り取る。
「サクッ」と乾いた音を立てながら蜂の巣は木材から切り離され、そしてぽとっ、と地面に落ちた。
手ごたえはほとんどない。蜂の巣を刈り取るのにはほとんど力はいらなかった。
そして僕はすぐに網戸の内側に逃げ込んだ。その間は約10秒くらいだろうか。
第二段階の作戦は成功だ。もうあとは、帰ってきた蜂がどんなリアクションをするのか確認するのみだ。
己の人生の全てをかけ建築中の自宅が、帰宅すると無くなっているのだ。その心のうちは、考えないでもわかる。
きれいに刈り取ることができたスズメバチの巣は、下の姪が「網ですくいたい」ということでなのでお任せした。
窓から身を乗り出して、虫取り網でハチの巣を取ろうとがんばる姪。そして「クシャっ」という音とともにハチの巣は砕け散った。「こわれちゃったー」と彼女の声が聞こえてきた。
その後、帰ってきたスズメバチの女王は、悲しい羽音を立てながら周囲をホバリングしていた。
状況を飲み込めないのだろうか、現実を受け止めきれないのだろうか。人間であれば、肩にそっと手を置いてあげたい瞬間だ。
そして彼女は軒下に入ると、その中をウロウロとしばらく歩いていた。焼け跡からアルバムを探すみたいに、ずっと歩いていた。
スズメバチは夕方までその辺りをうろついていた。彼女のだす羽音はもうスズメバチの低いものではなく、蚊の様な甲高い鳴き声の様な印象だった。
計画通りスズメバチの巣を撤去できたことで気持ちがよくなったので、僕は姉家族に付き合ってもらい車を買いに行った。
軽のバン。札幌にお手頃なものがあったのでそちらが第一候補だったが、遠いし代車もでないのでやめて、旭川の中古自動車屋で買うことにした。定番のスズキのエブリィだ。2週間後に納車のようだ。
代車はダイハツのムーブ。乗り心地がとてもいいし、加速もいい。エブリィの乗り心地が心配になった。
しかし代車ではあるが、車が手に入ったことで自由に動ける。米も買いに行けるし、DIYの道具や木材も気楽に買いに行ける。冷蔵庫も見に行けるのだ。
そしてスズメバチは翌日から姿を見せなくなった。
さらば女王。