開墾鍬で笹を刈ると、旭川の森の動物たちに出会った
北海道旭川・移住の記録 #22
2020年6月23日(火)。姉と一緒に、昨日作った開墾鍬で家の裏手の笹を刈った。マルハナバチの争いを目撃したり、エゾサンショウウオやリス、そして蛇も発見した。旭川の森にはたくさんの動物がいて驚かされる。そして最後は笹の森をかき分けて山の斜面を探検した。
開墾鍬で笹刈りに挑戦
開墾鍬、即効曲がる
昨晩は姉の家で夕食をご馳走になった。その帰り道に町内でキツネらしき動物を見た。もちろん野良犬はいないだろうからから、キツネだと思う。
人の家の庭をテッテッテと歩いていた。旭川でキツネを見たのは二回目だ。
朝起きる。今日は姉と、昨日完成した開墾鍬で裏の笹を一掃する予定だったが、早朝の草刈りは毎日の日課と決めたのでやることに。午後がどれだけ辛かろうが、毎日は毎日なのだ。いつまで続くかわからないけれど。
今日もお隣さんとの境界の笹を攻めた。お隣さんに根っこが伸びて行ってしまっては申し訳ないので、文字通り根こそぎ笹を刈ってゆく。
笹の長い根を引き抜いて辿ってゆくと、また違う笹の根が上にクロスする形で伸びていたりする。それをたどるとまた新たな根を発見する。
そうやってそれぞれを抜いてゆくうちに気がつけば地面がボロボロになって、鍬を入れた畑みたいになる。それをまた、何事もなかったかの様に隠す。
キリが悪くついつい2時間近く作業をやってしまった。そして寛いでいると、姉が本気の野良仕事姿でやってきた。
そして作業開始。ついに開墾鍬を使う時がやってきた。
まず姉が開墾鍬を振り下ろしまくる。バッサバッサと笹を刈っていく。まずは笹の葉っぱと茎部分を刈り、その後根っこを排除していくという作戦だ。
そしてあっという間に笹の葉が地面に積り、茶色い地面が見えてくる。
そして僕が開墾鍬を使う番だ。ワックス仕上げで柄が滑りやすいと思われたけど、全然大丈夫。
切れ味がすごい。笹の茎がスパッと切れる。しかし土の中には小石がたくさんあって、深くまで鍬を刺すことは難しい。開墾鍬の刃が石に当たると火花が散る。
人生で初めて鍬を使った様な気がするが、とても楽しい。鍬が深く地面に突き刺さり、笹の根がきれいに切れると気持ちがいい。引っ掛けてテコの原理で根を断ち切れるのも気持ちがいい。
いやー鍬って便利だなーって浮かれてると、鍬の音が変わっていることに気づいた。「ザク、ザク」が「ドス、ドス」になっている。なんだこの地面、と思って見てみると何事もない。
そして鍬を見てみると内側にぐにゃっとひん曲がっていた。僕は鍬の上の平たい部分で地面を叩いていたようだ。なのでドスドス。
鍬の柄や刃の部分を買い揃え、そして頑張って作成した開墾鍬が30分も満たない内に使い物にならなくなってしまった。足で踏んで戻そうにも戻らない。家でバイスに挟んで曲げようとしても安物のバイスは負けてしまった。
ウケる。いくらなんでも早すぎる。もうちょっと楽しませてくれてもいいのに。
鍬が華奢なのでその付け根が弱いのかもしれないが、恐らくは我々の使い方が悪いのだろう。まあでも、僕のクサビ打ちが弱くて先っぽがどこかに飛んでいくよりはマシである。
見える景色が全く違う、お隣さんのお家
その後、姉はその曲がった鍬で器用に笹を刈った。僕はいつも通り、ピッケルを使って笹を刈った。
昼ごはんにしようか、と言う時に、ちょうどお隣の旦那さんがやってきた。すぐ売れきれてしまう幻のパンが手に入ったので、良かったらどうぞ、と持ってきてくれた。お腹がペコペコだったのですごく嬉しい。
しばらく立ち話しをしていると姉が「良かったら家の中見ますか?」といつもの調子でお隣さんに言う。一瞬おいっ、とも思うけど、自分ではなかなかそういう事は言えないのでとてもありがたい。家の中を見てもらえば、自分がどんな人間かわかってもらえて向こうも安心してくれるらしい。なるほど。
自宅を紹介すると今度はお隣さんの家を紹介してもらった。
新築の家だ。まず入ると匂いが違う。建てて間もない匂いというのだろうか、とても爽やかな匂いで新鮮な気持ちになれる。そして窓が至るところにあって明るいし、何より暖房を入れていないのに暖かい。僕の家とは2、3度は違う気がする。こちらは寒いくらいなのだ。
そして静か。窓は多いが、遮音性にすぐれているのだろう。
特に感動したのはその眺めの素晴らしさだった。2階建てなので向かいの山が一望できる。自宅は木々に阻まれ視界はないが、お隣さんの家は視界がクリアで遠くまで見渡せる。少し離れただけなのに、全く違った環境に建っている家の様に感じた。見えるものがあまりにも違うのだ。
素敵だ。きっと冬はさらに素敵だろう。大きな窓の隣にある薪ストーブで温まりながら、雪景色を毎日楽しめるのだろう。
ふと下を見ると我が家が見えた。今にも朽ち果てそうな姿だ。彼は恥ずかしそうにうつ向いている様に見えた。
マルハナバチの争い、エゾサンショウウオ、リス
マルハナバチの争い
頂いた美味しいパンを昼食に頂くと、笹刈りの続きに戻った。
その道中、ふと上を見ると屋根裏で暮らしているマルハナバチが騒がしい。屋根裏通気口の前で何匹もブンブンと飛んでいるのだ。そしてアカマルハナバチとは違う、でかい色の違うハチが何匹かいる様にも見える。
ハチの巣の奪い合いだ、戦争だ!と思った。というのも先日川沿いのゴミ掃除をした時、マルハナバチに詳しいおじさんに、外来のセイヨウマルハナバチが在来のマルハナバチの巣を奪うことがある、と教えてもらったばかりなのだ。
セイヨウマルハナバチが我らがアカマルハナバチちゃんを攻めている。なんとかせねば、と思った。そこで姉にやっつけてくれと頼んだ。姉はマルハナバチに慣れているし、僕は虫が好きではない。特にハチ。引っ越し当初からスズメバチに悩まされてきたので、ハチの羽音がとても許せなくなってしまった。
脚立をはしごに変えて姉が登る。そして巣の前で素早く何匹か捕まえた。
しかし、どうやら姉が言うにはセイヨウではないらしいのだ。姉はセイヨウは見慣れているので違いがはっきりとわかる。ではなんだろうか。
使えまえたハチを図鑑で見比べてみると、どうやらエゾトラマルハナバチなのではないだろうか、ということになった。在来のハチ同士で巣の奪いをしていた様だ。
とりあえずセイヨウでないことに安堵した。外来種のセイヨウは駆除の対象なのである。大きくて強いのだ。
ちなみに、そのマルハナバチ同士の戦いは夕暮れ時になるまで続いていた。長い戦いだ。勝者はどちらかわからない。明日観察してみようと思う。
エゾサンショウウオ現る
一つ屋根の下で暮らすアカマルハナバチを心配しつつも作業を再開。
ふと、ものは試しで鍬の曲がりを足で踏んで直してみようと思った。ぐっと力を入れるとちょっと動いた。そしてこれはイケル、と思いさらに力強く踏み続けると鍬は完全に元通りになった。
素晴らしい。鉄は曲がるのだ。だから直しやすい。僕の自転車のフレームも鉄で出来ている。だから直しやすい。そんな事を思い出した。
鍬が直ったおかげで作業は捗った。姉がバッサバッサと笹の茎と葉を刈りまくり、その残った根っこを僕が引っこ抜いていく。その作業を交代したりして、笹のない地面をどんどん拡大していく。
笹以外の木は切らずに残す。彼らが今後この日当たりの悪い場所で生きていけるのかわからないが、今後観察をする楽しみの一つになる。
ふと鍬を地面に刺した時、その鍬の少し先の地面で動く何かを発見した。サンショウウオだ、とすぐに思った。自分のイメージするサンショウウオの大きさとは全く違うし、北海道の山の中にサンショウウオが居るとはちっとも想像していなかったが、完全にサンショウウオの形をしている。
姉にサンショウウオがいるとと告げると、姉の顔がハッ!となった。これはどうやら珍しい様だ。
姉によると、この生き物はどうやら「エゾサンショウウオ」と言うらしい。すぐさま姉が捕獲し、我々は写真撮影会を行った。
エゾサンショウウオは大人しいし、動きもゆっくりでとてもかわいい。
下の姪がエゾサンショウウオを欲しているらしいが、エゾサンショウウオは飼うのは生き餌とかもあって大変だろう、ということで元の場所に返した。
しかしそのエゾサンショウウオはしばらく逃げず、こちらをじっと見ていた。人間は初めてなのだろうか。怒ってずっと睨んでいたのだろうか。懲りずにまたやって来て欲しいが、笹刈りの際は気をつけねばならない。
エゾサンショウウオのあとはリスだった。白樺の太い幹ををシャシャッ、シャシャッ、と登っていく。しかしサンショウウオのあとではリスを見ても大して心が動かない。僕の中でリスは森のアイドルだけれど、サンショウウオは格が違う。スターなのだ。
蛇、家の裏の急斜面を藪こぎ
その次は蛇が現れた
家の裏手は過去にゴミ捨て場になっていて、いろいろなものが捨ててある。とても大きな、素材のわからない板の様な物が土に埋まっていて、それを掘り起こしたら下から蛇がでてきた。
体調は30cmくらいだろうか、ちっちゃくてかわいい蛇だ。口を開けてシャーシャーとやっている。木の枝を噛ませてみようと口に近づけても噛まない。なぜだろう。何という名の蛇なのだろうか。
どうやら彼は脱皮途中みたいで、目が白くて、頭に何か乗っていた。姉が言うには目が見えないんじゃなかろうか、ということだった。
どうりで蛇は辺り構わずシャーシャーとやっている。真っ暗闇でボクシングをやるみたいに、とりあえず音のする方にパンチを打ち込んでいる様だ。無事脱皮を終えて生き残れるだろうか。
蚊が増えた16時頃、笹刈り作業は終了した。
予定した分の笹を刈り終わる事ができた。もちろん取り残しまだまだあるだろうが、それは暇な時に少しづつやっつけていけばいい。
ちなみに、土地が雪崩や山火事でめちゃくちゃになることを「土地の攪乱」と言うそうだ。最近本で読んだ。であるならば、我々が今日やった作業は攪乱の一種ではないだろうか。人が手を加えることによって土地に変化が生まれたのかもしれない。また新しい命も生まれてくるかも知れない。
裏の急斜面を藪こぎする
なんてことを考えながら開梱した土地を見て満足していると、姉が「裏の斜面を藪こぎして歩こうか」と、当然行くでしょうね、みたいな言い方で言った。
すげえ疲れてるのにマジか、と思ったが、確かに裏の斜面はいつか歩きたいと思っていたし、一人で歩く勇気はない。疲れているけど、笹刈り後で全身に油がまわった今だからこそできるのかも知れない。
ということで我々は笹が密生する斜面に突っ込んだ。一応鍬を持っていった。
笹だらけの急斜面をトラバースしながら下る。笹だらけだけれど、それ以外のカエデとか、シダとかその他の植物も思ったよりいる。とても大きな白樺もいるし、最近倒れた白樺の巨木も横たわっている。
まあしかし、笹だらけの急斜面でめちゃくちゃな道だ。いや、道ではなくただの山の斜面なのだ。登山で遭難しかけた時のことを思い出す。アドレナリンが出てきて自分という存在が近く感じる。生きている感じがする。
笹をかき分けかき分け下り、そしてとうとう地上に到達した。
我々が下ってきた斜面を見上げると、もっと歩きやすそうなラインを発見した。
そしてそこを登ってまた戻る。服は汗と植物の何かがついてめちゃくちゃである。大きい毛虫がいてビビる。持ってきた鍬が杖代わりになって役立つ。
そして上を見上げると家の屋根が見える。笹の森を彷徨い、再び自宅に戻ってきた。
一日中笹を刈り、そして最後の締めとして急斜面の藪こぎ往復はきつい。僕はほうほうの体で自宅に戻った。姉は姪をダンスに連れて行く、と帰っていた。
数時間後、姉からラインがあった。「あれクラスのイタヤカエデ、あと2~3本見つけたいね。斜面を歩き回って探そう」という内容だった。
裏の斜面には大きなイタヤカエデが生えていたのだ。どうやら姉は、イタヤカエデからメイプルシロップを採取したく、その調査のために笹の斜面を藪こぎしたかったようだ。
ちなみに姉は今年の4月ごろ、誰もいないこの地に一人で来て白樺の樹液を採取し、その採取した白樺の樹液を家の前で火を炊いて煮詰めていた様だ。すごいエネルギーである。