初心者のための登山とキャンプ入門

ベビーメタルとわたし #5
東京ドームライブと降ってくる声

babymetal スーメタル作

ベビメタを知り好きになり、スーメタルの歌声の素晴らしさに気づいた。そしてそれを生で体験すべく初ライブ、カウントダウンジャパンに行った。そこではベビーメタルのライブがとても楽しいこと、スーメタルが人間ではないことを知ったけれど、スーメタルの歌声に感動することはなかった。まともに歌声を聴ける様な状況ではなかったのだ。

スーメタルの歌声が生ライブで、初めて素晴らしいと感じたのはそれから9ヶ月後、東京ドームの二日目だった。

- 前の記事: #4【初ライブ・カウントダウンジャパン】 -

THE ONEとスタジオコースト

カウントダウンジャパンであらためてベビーメタルに感動した僕は、一人葛藤していた。今後ベビーメタルを本気で応援していくかどうか。ライブに行けば時間もお金もかかる。それに、だいたい僕は今まで誰かに本気で入り込んだことがない。応援したこともない。なのでアイドルファンの方とか、好きな芸能人がいて家にポスターを貼っている人だとか、そういうのが羨ましかったくらいだ。

しかしいざ実際に自分がそういう存在になるかもしれないと思うと躊躇した。客観的に見て、僕が10代の「DEATH!」とか言っている女子を熱心に応援するのはいかがなものか。やべえやつには思われないだろうか。ある程度距離をとって付き合った方がいいんじゃないだろうか。

しかしベビーメタルの様なバンドは僕が生きているうちに二度と出てこないだろう。見れるうちに見ておかなければあとで確実に後悔する。
そしてTHE ONEで3500円のタオルを購入。こそっと、誰にもばれないように応援していくこと決意した。

そんな一瞬の葛藤なんかもありつつ、たしかカウントダウンジャパンのあとには新木場のスタジオコーストのライブに行ったんだと思う。THE ONEでタオルを購入したおかげで、3000人ほどのハコのしかも300番という良い番号のチケットを得ることができた。

そんな良番ではあったものの、僕はスタジオコーストのライブでは後方の階段部分に陣取ることにした。前回のライブでは前列で大変に揉まれたので、今回はゆっくりと眺めそしてスーメタルの声を存分に堪能するのだ。そして感動するのだ、という作戦をとった。

しかしそんな作戦ではあったけども、小箱のライブは音がびっくりするくらいでかいし、おまけにギターの高音もきつくて歌声を聴くという状態になった。また遠くから眺めるのも性に合わないなと思ったり、隣の人がメンバーと同じ動きをして邪魔くさいと思ったり。それで、なんだかなあ、と思っているうちにライブ自体も1時間くらいでサクッと終わってしまった。

「スーメタルの声はライブですごい」というコメントを度々見てきた。しかし僕はその経験が出来てていなかった。その時既にスーメタルの歌声マニアではあったけれど、実際の歌声で感動はできていないのだ。
「スーメタルの声はライブですごい」、「泣いた」。しかしそれは本当なんだろうか?みんなスーメタルが好きすぎてついつい盛っちゃったりしてるんじゃないだろうか?僕はそれを確かめねばならない。いや、味わいたい。

今度はアリーナライブでスタンド席からゆっくり見るのが良いかもしれない。なんて思っていた。で、その時がやってきた。アリーナじゃない、それよりもっと大きな東京ドームだった。

東京ドームライブ初日

ベビーメタルのライブで一番楽しかったのは東京ドームだと思う。

たぶん、最後に東京ドームに行ったのはもう20年以上も前だ。友人とルナシーを見に行った。あの時僕らはみなビジュアル系に熱狂していた。なぜだろうか。

そんなわけで、久々に東京ドームに行けるというだけでテンションはすごく高かった。それにアリーナでもシート席だったので、外で番号待ちしなくて良いのも素敵だった。台風でも怖くなかった。

東京ドーム内に入るとまずは2階席辺りをぐるっと一周してみた。様々な角度から東京ドームの内部の様子をみるのが楽しかったし、スモークの匂いや、場内のざわめきが広い天井に溶けてゆく感じがすごく心地よかった。マウンドには超巨大のまつりのやぐらが立っていた。そんなのも祭りの前日みたいな気分で楽しかった。

僕の席はアリーナのCエリアで、前から10~15列目くらいだったと記憶している。ちなみにドームのライブに行った人ならわかると思うけど、Cは大当たりのエリアだ。そしてそのCエリアの前の方でしかもドセンだった。加えて隣の女子ですらかわいかった。僕はかなりの当たり席を引いたのだ。

東京ドーム初日のライブがはじまった。音はスカスカで軽い。上の方のスピーカーが鳴ってる、っていう感じだった。これがドームで出せる音の限界なんだろうと思った。
でもそんなことは全然きにならない。東京ドームだけあって仕掛けが大きいし、高さがあるし、何より観客の声が凄まじい。空からウォォォと降ってくる。まるでコロッセオで戦うグラディエーターになった気分で、それだけで気分は高揚したし、それを経験できただけで来てよかったと思えた。

照明も素晴らしかったし、ライブで二度とやらなそうな曲もやってくれた。配られたグッズがスタンド席で星空の様に輝く演出も、下から見上げるととてもキレイだった。
なので1時間とちょっとでライブは終わってしまったけれど、僕はとても満足していた。良いもの観たなあと浮かれていた。しかし隣を見渡すとみな不満顔というか拍子抜け顔というか。みな口々に短いなあと言っていた。
そんな顔するなよーとは思ったけど、考えてみればみな遠方からやって来ているのだ。気持ちもわからないでもない。

ドーム2日目「降ってくる声」

本来はドームライブは初日にだけ行く予定だったけれど、あとから気分を変え中古でチケットを購入した。
なのでドーム二日目はアリーナではなく2階席の後方だった。通路のライトの明かりが気になったし、周りの客は超ライト層で居心地もやや良くなかった。
音も初日に比べるとさらに軽く、ライブやってるなあ、と上から見下ろす感じだになった。ライブに参加しているというよりは、離れた位置から観ているといった印象だろうか。ぜんぜん音楽に入り込めないのだ。

そんな感じで、楽しかった初日とは違ってうーんって感じでライブは進んだ。
しかしここでついにきた。念願の、スーメタルのライブでの歌声に感動する瞬間がついにやってきたのだ。曲はソロで歌うNo Rain No Rainbowだった。

スーメタルが歌いはじめると、ライブとの距離感が突然変わった。
それまで僕ははライブを見下ろしていて、自分と”ライブ”との距離がとても遠かった。お互いの関係はよそよそしいものだった。しかしスーメタルが歌いはじめるとその距離が一気に近くなった。よそよそしさがなくなり、彼女らと同じライブ空間に引き込まれていることに気がついた。
なので、距離が近い。ぜんぜん遠く感じないのだ。

原因はたぶんスーメタルの声だ。スピーカーから出たスーメタルの声がドームの天井や壁に当たって跳ね返り跳ね返り、そしてドーム全体を満たして、それから自分の耳に届いている。前方で鳴っているスピーカーからの直接的な音ではなく、ドーム全体から声が耳に届くのだ。ドーム内の全てに歌声が満ちて、そして一体感があって、自分はその中の一人という感じがした。なのでステージと自分との距離が離れている様に感じなかった。
自分がアコースティックギターの箱の中にいる様なイメージを持った。スチール弦を弾いてギターのボディを鳴らすみたいに、スーメタルの声でドームが鳴っているかの様だった。

スーメタルの声だけがその現象を起こしていた。バンドの音はそうではない。キックの音なんかはドームの壁に跳ね返ってディレイがあったけれども、だいたいはスッと空中に消えてしまう。どの音も遠くに置いたスピーカから流しているみたいな印象で、どこか安っぽい印象だった。
でもスーメタルの声は、その中にあって唯一本物だった。「リアル」な音だった。全部同じスピーカーから出てる音だけれども、スーメタルの歌声だけはドームという箱を鳴らしている、本物の音だった。 色んな理由はあるんだとは思うけれど。PAでの音作りだったり、ドームの構造だったり。

そして、みんなが言っていた「スーメタルの声は上から降ってくる」ってのがどんなことかやっとわかった。確かに降ってくる。すごいと思った。感動して涙がでるとかではなかったけれど、自然と引き込まれて、見入ってしまって、満たされたというか、癒されたというか、時間を忘れる感覚というか。不死鳥美空ひばりに見えたというか。
東京ドームが全然でかく感じなかった。ライブ前までは東京ドームの大きさに心配したこともあったけど、「なんだ、ぜんぜん余裕じゃん」って思った。

こんな感じの印象で東京ドーム二日目のライブが終わった。
ベビメタを知り、スーメタルの歌声が好きになり、ライブで実物を見て驚き、そして東京ドームで生の歌声を聴いて感動し、結果、完全にベビーメタルから抜け出すことができなくなりました・・・。

 

という話しを長々と書いてきました。

東京ドーム以降は、僕がベビメタを好きになった初期の頃の様な心の激しい動きがなくなってしまったので特に書くことがないんだけど、まだ書きたりないので次でいろいろとまとめてみようと思います。