初心者のための登山とキャンプ入門

富士登山での病気やケガの対策

山のナース イラスト

ふつうの登山と富士登山で起こりやすいケガやアクシデントは、かなり違っていると言えます。それは富士山という山の性質によるものが大きく、同時に初心者が多く登る山であることも要因の一つです。

このページでは特に富士登山で起こりやすいケガやアクシデントについて、なぜそれが富士登山だから起こりやすいのかについて説明しています。詳しい症状や予防策、対処法などについては普通の登山と同じですのでリンク先のページを参照してください。

富士山の特質と高山病

富士登山で高山病になった人を運ぶ人イラスト

たとえば吉田ルートの登り始めの標高は2305mと結構高いです。実は、このように高い所から「サァ、本格的な登山を開始しよう!」というのは日本の登山ではめったにないパターンなのです。
車道やロープウェイが山頂近くまで整備されていて観光できる山はたくさんあります。中央アルプスの千畳敷が2612mとか、乗鞍スカイラインの2702mなど。観光なら気分が悪くなったら乗り物でサッと降りれますが登山となるとそうは行きません。

スタートの標高が既に高い、ということは、体にすごく影響を与えます。これが、ムリして早足で歩いてしまうとかが良くないと言われたり、五合目で2時間体を慣らしましょう、と言われるゆえんです。空気が薄いという自覚もないと思いますが「負担がかかっているのだ」、と意識して覚えておきたいところです。

さらに、富士山の形の理由から、速いスピードで標高を上げていきます。他の山では登ったり下ったり、平坦なところも多かったりでスタートとゴールの標高差はそんなにない、というようなことが多くありますが、富士登山ではこれ以上ムダがないくらいガンガン標高を上げていきます。このことは高山病を発症しやすくしています。「ゆっくりと歩きましょう」とよく言われるのは体力を気遣ってのことだけでなく、このような理由もあります。

しかしこれらを気をつけても、物理的な標高が体に与える影響はどうしてもあります。体力があってベテラン登山者の友人でも八合目を超えた辺りから頭痛になって下山していましたが、やはり体質的な問題もあるようです。
しかし一方で、「体は高度を記憶する」という考え方もあります。海外で6-8000m級の山を登る人達が"高度順応"というのをやりますが、例えば8000mの山を登るのに5000mの山を登っては下り、次に6000mまで進んでは一度下山し、というふうに体を慣らしていくのです。
なので、初めての富士登山が八合目まででリタイアであっても、体には八合目の高度を体験したという事実が残っていますから、近いうちにまた登れば次は九合目まで行けるかもしれません。

高山病がとても心配な人は、このように「何回目かで、山頂にいけるだろう」という心づもりで富士登山に臨めば、大失敗することもなくいつかからなず富士山の山頂に立てる日が来ることでしょう。
登山は人と競争する必要がないスポーツです。初回で登頂する人がスゴイわけではありません。あえて勝ち負けをいうならば、自分の体と相談して、楽しんで富士登山を計画し、実行し、安全で下山し、満足できた人が”勝ち”だと思います。

日陰がないゆえの日焼けと熱中症

涼む登山者イラスト

富士山ゆえに気をつけたいことに、日陰がない、ということがあります。五合目より上は岩や砂礫になり、長時間炎天下にさらされることになります。標高が高いので涼しいかと思いがちですが、そうでないこともあります。都会のアスファルトのようなモワンとした感じはないかもしれませんが、刺すような日差しを感じることはあるでしょう。

紫外線を肌に受けると、日焼けによる炎症の心配だけでなく、当たるだけで疲労すると言われています。UV素材の長袖を着て肌を隠すとか、日焼け止めをこまめに塗るなどを心がけましょう。また、帽子をかぶって頭や首を覆い、皮膚の温度の上昇を防ぎましょう。さらに帽子のつばで目もとに日陰を作れるくらいにしておかないと眼球も疲れてきます。

また、炎天下にさらされることに加えて、富士登山では、「トイレに行きたくなったら困る」、「水が高価」などの理由から水分摂取を控えてしまうことからの熱中症にも気をつけましょう。水分の接種は高山病予防のためにもとても重要です。例えば体重50kgの人では1時間に250ccの水分を採るのが理想的とされています。

日陰がないということは木々が生えていないという意味ですが、これは寒い時にも関係してきます。富士山では厚い雲で日光が遮られると真夏でも冬のような寒さを感じることがあります。こんなときに吹きつける風はモロに体温を奪っていきます。
ふだんの登山でも、風の強く吹く稜線上を歩くときなどはただただ黙々と足早に進み、そして樹林帯に入って一気に風がなくなると、それはそれは本当にホッとする瞬間です。そのような箇所が多い行程の日は、休憩場所も先々の樹林帯を考えながら、風を避けつつ取ったりします。「この樹林を抜けてしまうとしばらく無いので、ちょっと早いけどここで休憩を取ろう」などです。しかし富士山上部には、樹林帯がずっと無いのです。

それではどうするかというと、富士山では山小屋を風よけに利用します。休憩の度に中に入ってお茶を飲むのではありません。山小屋の風下に場所を取り、風のない状態で休憩を取ります。これまで風にさらされてきた体が復活してくるのが分かると思います。
また歩いている時でも、レインウェアを着て早めに防風すると良いでしょう。ご来光待ちの時なども100円ショップのレスキューシートなどを積極的に利用して風を防ぎましょう。疲れた体、冷えた体に風は大敵です。きちんと対応しないと低体温症(疲労凍死)を招きますので注意が必要です。

初心者がおおいゆえの靴ずれ

靴擦れした登山者イラスト

富士登山をする多くの方は初心者の方です。「一生に一回は」との思いでトライする方が多いのです。そういった方にとって登山靴を上手に自分の足に合わせて履くことはなかなか難しいことかもしれません。
しかし一番大切なことは無造作に履かず、休憩の度に気を配ることです。そして「ちょっとイタイかも」という段階で早めに絆創膏やテーピングテープを貼って覆うことが重要です。

何について気を配るのかというと、靴の履き方です。履く手順だけでなく、指がぶつかっていい場所、いけない場所などいろいろと気をつけて欲しいことがあるのです。足の形が特殊だと自覚している人は登山靴が足の形に合う、合わないも大きいと思いますので靴選びから時間をかけましょう。

特別なことはなく普通の足の形であると思う方は、きっと「このメーカーじゃないとダメ」とかよりも、靴の履き方で合わせていける方だと思います。しっかりと足の爪を切り、登山専用の靴下を用意したなら、リンク先の図説を参考に丁寧に靴を履くことを心がけて下さい。

また、まったくの登山初心者で登山靴を始め登山用品をレンタルしようと考えている人は、店舗で靴が合っているかチェックしてもらえたり履き方を指導してもらえるところもオススメです。

「ひたすら下る」からくる膝痛

膝を怪我した時のテーピングイラスト
登山のケガ「足首のねんざ・骨折・ひざ痛」などの対処法、テーピングの方法より

これも富士山の形に由来するところが大きいですが、あれだけの距離を一気に下山したら誰だって膝くらい痛くなるよ、と言いたいくらい長い下山が続きます。
他の山だったら下ったり、ちょっと登り返したり、平坦なところがあったりして足を休められるんですが、富士山の場合はそれがないんですよね。しかも、曇っていなければすぐにゴールがなんとなく見えてくるので、つい先を急ぎたくなってしまいます。

ふだん山に登らない人ならばどれくらい膝が耐えられるのか未知数で登るわけなので、あるいみかけっぽいところもあります。
よく登山やウォーキングをする人は足の筋肉を鍛えることで膝の関節や筋にかかる負担を減らす事ができます。なので富士をしようと計画が決まったら、通勤の際に一駅分歩くなどして前々から筋肉を慣らしておくことはとても有効です。

また膝痛予防のための装備としてとても有効なのはトレッキングポールです。足より前(谷側)に突く事により、ストッパーとしての役割を果たし、膝へズドンとかかる衝撃を和らげてくれます。
他に膝対策グッズとしては、スポーツタイツや膝サポーターがあります。これについては使用感をレビューしていますので参考にして下さい。

また、万が一このような備えをしていなかった時に膝痛やねんざになってしまったらテーピングテープで筋肉を支えて傷みを軽減する方法も有効です。テーピングテープは靴ずれなどにも何かと役立ちますので緊急用グッズに入れておくことをおすすめします。