登山中に雷が聞こえた時の対応、避難法
私自身が山で雷に会った経験のひとつは、夏の屋久島でのことです。 宮之浦岳手前の栗生岳に差し掛かる前で雷の音が聞こえました。
稜線と言ってもだだっ広いわけではなく、大きな岩や矮小化した樹木が交じるルートでした。
周囲はガスっており、大きな雷鳴は聞こえているものの光は届かず、コワイコワイと口々に言いながらも避難体制に入るという決定打もない状況でした。
メンバーの一人が「大丈夫でしょ、行っちゃおうよ!」と何度も先に行くことを勧めました。連日の雨中行動で皆ザックもびしょ濡れ、イラついた空気もあり、停滞とか来た道を戻るとかっていうことは避けたい雰囲気が漂っていました。
一番登山経験が長かった私は雷の危険性について意見はしたものの、結局反対しきれない空気に押され歩き続けました。
やがて雷は去り結果オーライとなりましたが、パーティーとしてはすごく事故を起こしやすい状況だったといえます。
雷は落ちるかどうかは分からないだけに、リーダーの知識と勇気ある避難が事故を避ける最も大切なカギといえます。
登山での落雷事故の例
登山中の雷はどれほど怖いのか、有名な事例を知っておくことが大事だと思います。
上記の屋久島での事のように、わからない人が無謀な行動を取ってしまうのであり、そういう人が事故に合うというのが落雷だと思います。
というのも、転落などと違って落雷事故は避ける事ができるからです。
西穂高岳落雷遭難事故
ある年の8月1日のこと。松本市のとある高校で西穂高岳登山が行われた。前日の7月31日に上高地で一泊し、1日朝から西穂高岳に登って翌日下山するという行程。メンバーは教員を入れて総勢55名。
1日、このうち46名が西穂高岳に登頂した。
その後、正午過ぎから天候が悪化し、大粒の雹(ヒョウ)が混じった激しい雷雨となったので避難を開始した。
そして下山途中の13:30頃、独標東側斜面を下っていたところに雷が直撃した。
落雷地点は岩尾根の上でノコギリの歯のように狭く、両側は深く切れ落ちていた。逃げ場はなく、一列になって下っていた。
8名が即死し、13名が重軽傷を負ったほか、3名が行方不明となった。3名は衝撃で飛ばされ、300m下のガレ場で遺体となって発見され、死者は11名となった。
この日の北アルプス一帯は発達した雷雲に覆われ昼の12:30頃から約1時間、激しい雷雨になった。松本測候所の観測では、「雷雲が常念岳から穂高連峰方面へ流れ上層に冷たい空気がはいって雷の発生しやすい状況だった」という。
そもそもこの登山は、個人で山に登るのは危険なので、という理由で学校側が企画し希望者を募って行ってきたもので引率の教員は下見もし事故の無いよう気を配ってきたという。
これは1966年、約50年前の事件です。
集団登山のあり方を問いかけた有名な事故であると共に、現在でもまだ胸を痛めている方々がいらっしゃる非常に辛い事実です。
当時は引率側の責任についても議論がありましたが警察は責任を問いませんでした。
しかし落雷のメカニズムがわかってきた現在の落雷人身事故は 「人災」 としての認識になっています。
つまり、雷について正確な認識をもとに事前に準備しておけば事故が起こる可能性は充分に回避できるもので、特に落雷に遭う危険性の高い登山については雷の発生が少しでも予想されたなら迷うことなく中止判断されるべきである、というのが落雷事故に対する認識となっているのです。
雷が発生しやすい気象条件
- 登山では4月から10月、特に夏季
- 寒冷前線が現れた時
- 積乱雲が発生した時
- 夏なのに秋の空のように澄んでいる時
- 夏で空気が濁って湿気が多い感じがした時
雷に会わないために
- 夏季ならなるべく早朝に出発し、13時ころには行動を終えるようにする。
- 夏の夕方に起こる雷は同じ時間に起こることが多いので、山小屋や気象情報をチェックしておく。
- 事前に雷注意報が出ている場合は入山しない。
雷が落ちやすい場所
- 山頂・尾根などの、まわりより高いところ
- 河原のように開けたところ
- 水場
雷が聞こえた時の対応・避難方法
● カサをさしていたらたたみ、ザックにトレッキングポール、ピッケル、テントポールなど飛び出たものがささっていたら、外して手に持つ。
● 上記の、落ちやすい場所にもしいたら、姿勢を低くして、なるべく低い場所に素早く移動する
● 逃げる時は、みんなで固まらずに離れて逃げる
● 雷と雷の間の5~10秒の隙に、姿勢を低くしてより安全な場所に移動する
● 近くに山小屋があったら山小屋に避難する(内部では電気機器、壁から1m離れるとなお良い)
● 姿勢を低くし、ザックの上に座って待つ。地べたに這いつくばったり直にすわると 地面を伝った電流を受けることがある。
● 稜線に居たなら、窪地やハイマツ帯の中に逃げこみ姿勢を低くして待つ
● 鎖場や鉄のはしごなどから離れる
● 木の根本で雨宿りを兼ねて待つと側撃を受けることがあるので避ける
● 近くに安全な空間がない場合は、木など高いもののてっぺんを45℃以上の角度で見上げる範囲かつ木の幹や枝から2m以上離れたところが保護範囲となる
もし落雷にあったら
万が一直撃した場合の死亡率は30%と言われています。心停止による即死がほとんどです。
直撃さえ免れればそれほど大きな損傷は与えず、たとえ心停止しても心臓マッサージで蘇生する可能性が高いです。
ショックを起こしているだけの事も多いので人工呼吸や心臓マッサージを行います。
電撃が走った部分は皮膚がやけどするので、ヤケドの処置(冷やし、ガーゼや包帯で保護)をします。
高圧電流は体の内部もヤケドさせるので、被雷した場合は即座に下山して医療機関でチェックを受けましょう。
天気予報情報の入手
「山の天気は変わりやすい」と昔から言われるように山ではコロコロと天気が変わります。
また地形など局地的な状況で大きく変わるため、実際に何時に雨が降るかなどを知ることはほとんどムリだと思います。
実際私は7年間登山のたびにHNKのラジオを聞いて天気図(地上天気図というテレビの天気予報で映るもの)を作成していましたが、いくら書けても読むのはサッパリでした。
さらに詳しく知るには高層天気図を合わせて見る必要があり、また数日間の推移も必要になるとも聞きました。
しかし最低限「天気が荒れるかどうか」 は一般的な下界の天気予報を聞くことで誰もが知ることができます。
「低気圧が近づいて荒れ模様」ならば山もほとんど荒れ模様です。
バッチリ予報が当たるかどうかが重要ではなく「こういう可能性がある」ということは山でも当てはまるので用心しておこう、というのが天気予報の利用の仕方です。それは雷においても同様です。
出発前に情報を入手する
● テレビなど
天気予報を確認し、「雷を伴う」という表現があるかに留意。
● インターネット
- 雷ナウキャスト(気象庁) 1時間先までの予報を提供、雷の大きさ別に地図上に色で表される
- 山の天気 (日本気象協会)
- 山麓の天気 (Mapion)
- 山の天気予報((株)ヤマテン)
- てんきとくらす(日本気象(株))
- 山小屋のブログ
- ライブカメラ(観光地なら)
● 電話
今日・明日・明後日の天気予報を電話(自動音声)で聞くことができます。下界用のものですが参考になります。
● 市外局番+177
例えば上高地なら 0263177 で長野県中部気象台発表の天気予報が流れます。 注意報・警報、天気、降水確率、予想気温 等が順番に流れます)
山中で情報を入手する
● 携帯電話のアプリ
(電波の入りやすいところでは有効。事前に使いやすいものをインストールしておく)
● 山小屋や自然センター等に張り出してある天気図
● AMラジオ
山中で積極的に天気情報をゲットするにはラジオが手軽です。携帯電話より電池のもちが良く電池の予備も持って行きやすいですし、人気の無い登山道では熊よけとしてつけながら歩くという人も居ます。
こちらの商品は登山者専用に開発されたもので、山の名前から周辺の放送局を手軽に選べるようになっています。
正直、普段ラジオを聞かない人にとっては、ラジオを山に持って行ったところで使いこなしにくい感があったと思います。
72gと軽量、名刺サイズと小さく、ザックのショルダーベルトにつけられるようになっています。
単4乾電池一本で、イヤフォンでAMを聞くなら72時間電池が持つというのも助かります。
雷の接近を感知出来ると言われている合図
これは雷の放つ電気に依るものですが何度も経験していないとサッパリ分かりませんよね。
もし実際の登山で、これらがわかるという人に運良く居合わせたら、ぜひ実際それが起こっている時に教えてもらいましょう。天気予報情報と同時に気象変化に敏感になる習慣をつけられたらそれは大きな財産になります。
- 積乱雲の接近
- パチパチ、ブーンという音が聞こえる
- 髪の毛が逆立つ
- AMラジオにガリガリという雑音が入る