低体温症の症状と対策
私自身は体が冷えることに対して特に気を遣って来ました。
しかし一度だけ「ちょっと危なかったかも」ということがありました。
それは冬の日光でのことで、私にとっては久しぶりの冬山で感覚も鈍っていたのでしょう。
学生時代の時の過去の記憶を頼りに装備を準備し重登山靴で向かいました。
その時は地形図やGPSを使って名も無きピークを探そうというイベントだったので体があたたまるほどガシガシ歩き続けるというより止まったり歩いたりという感じで、油断していたのか気がついてみれば体がものすごく冷えきっていました。
体の動きの鈍さも感じつつなんとか下山し、温泉の熱湯が出る付近で20分ほど温まってやっと震えが止まりました。
その後は体に力が入らず壁を伝って歩くほどで、下痢もひどく何とか帰路に着きました。
低体温症の症状
疲労凍死
体温は34℃を下回るともはや震えすら起きなくなり、悪条件下では3-5時間で死亡するケースがあります。
震えるエネルギーすら作れなくなっているのです。
さらに”疲労”という要素が加わると負の相乗効果で、熱を生産しにくく低体温症を悪化させます。夏山の遭難での死亡事故の多くは疲労凍死によるものです。
体温の低下による体の変化
登山ではイチイチ体温計を取り出して体温を測ることは少ないと思いますが、体温低下によって体に現れる症状の目安を知っておくと参考になります。
特に症状がバテた時とほとんど同じなので、周りが注意してみていることが重要です。
37℃
- 正常な場合の口の中(舌の下)の温度
下がってくると・・・
- 強い疲労を感じ始める。バテた時や体調不良とよく似ている。
- 周囲に関心が無くなり、記憶力が低下してくる。
- 思うように歩けず、ついていけなくなる。
35℃
- ここまでは体の震えが見られる(体が震えているということは熱の生産が追いついていないことに対して筋肉が勝手に反応しているということ)。
- 思考能力も低下してくる。
- 立てなくなる。
34℃
- これを下回ると震えも起きなくなるので体温はさらに低下する。自力回復は困難。
33-31℃
うとうとして意識朦朧
悪条件下ではその後、意識がなくなる、筋肉硬直、呼吸や脈拍が弱くなる、つねっても反応が無い・・・などになり20℃になると心臓が止まります。
低体温症の対策
「濡れ」への対策
濡れても冷えないために
山の上で直接雨に打たれながら歩くなんて無謀なことはしないと思いますが、気をつけたいのは汗による濡れやレインウェアやジャケットを着たことによるムレで濡れることです。
これは通気性の良いレインウェアと吸汗速乾性のある肌着を用意することで軽減できますからぜひ準備しましょう。
最近では濡れのリスク認識が高まって来たため、汗冷えを意識した商品がいろいろ開発されています。
こちらは速乾Tシャツなどの下に着て汗をかいても雨で濡れても肌をドライに保つという商品だそうです。
レインウェアについても、ゴアテックスだけでなく汗を逃がすタイプの素材がいくつも開発されています。
ムレによる濡れを防ぐためにもこのような装備を準備しましょう。
濡れないために
良い装備を準備したら、あとはこまめな気遣いでなるべく濡らさない努力をしましょう。
- 雨が降ったら面倒臭がらずにレインウェアを着る
- 暑くなったら面倒臭がらずに一枚脱ぐ
- ジッパーの首もとを開けたり袖まくりをして熱を逃がす
- 小雨になったらフードを外し頭と首から熱を逃がす
「風」への対策
風にさらされない努力
登山中の風は体力を奪います。かと言って風があるからといって休憩していては前に進めません。風が強い稜線などを歩く時は知らずのうちに体が冷えていることがあるでしょう。
「あぁ、あそこの尾根からは風が強そうだ」と思ったら事前にレインウェアやウィンドブレーカーを着てからその場所に行くことが大切です。
気づかなければ、気づいた時点で早めに岩の陰や尾根の反対側の風が強くない所に隠れ、荷物を飛ばされないように気をつけながらサッと着ます。
体感温度
風は体温を奪います。風速1m/秒で体感温度は1℃下がると言われています。
風速、というのは、1秒間に風がすすむ早さです。50m走を10秒で走る人がいたとしたら1秒間に5m(5m/秒)ですね。イメージするとけっこうゆっくりですね。
風速の目安は、こんな感じです。
- 10m/秒 カサが壊されることがある
- 20m/秒 風に向かっては歩きにくく、子供は飛ばされる事がある
- 30m/秒 屋根が飛ばされ電柱が倒れる事がある
- 40m/秒 体を45度に傾けないと倒れる。小石が飛ぶ
- 50m/秒 たいていの木造家屋が倒れ、樹木は根こそぎになる
こう見てみると、カサが壊れるくらいの風の中を普通に歩いた経験のある人は多いんじゃないでしょうか。
その時、もし半袖短パンのまま風にさらされたならば感じる温度は約10℃も低くなってしまうということです。
実際には、太陽の光があたっているかとか湿度とかいろんな条件が組み合わさってくるので一概○℃とは決めつけられないようですが、とにかく体を冷やしたくない登山においては風にさらされることは大きなダメージとなるのです。
早めにレインウェア等を着て肌を隠しましょう。濡れた服を着ている場合に風にさらされるとさらに体温を奪います。
着替えられる環境なら着替え、着替えられないなら防風だけでも急ぎます。
休憩時の風対策
休憩時は無風でも汗が冷えて体が冷えたりします。そこでリーダー格の人は当たり前のようにされている休憩時の工夫についてかいておきます。
- 「もうそろそろ休憩だな」と思ったら風の当たらない場所を探しながら歩く
- 風が一方向から吹いているなら、反対側の尾根の尾根や岩の陰に隠れる
- 風を防げるものがなければ、場合によっては立ったままの小休止で食べ物を口に放り込んだり、ポケットに入れて食べながら歩く
ツエルトやテントのフライシートを使った休憩の仕方
メンバーの中に初心者が居て、風の吹きすさぶ稜線を歩くことのある行程ならばリーダー格の人にはぜひ覚えておいて欲しいテクニックです。
- ザックから飲み物・食べ物を出し、ザックを丸くくっつけて地面に置く(イスになります)
- ツエルトの角を各々が持ち、いっせいのせ~で自分達が中に入りツエルトをおしりの下にしき、ザックに座る(自分たちだけくるまれる)
- 頭と背中で柱にして中に空間を作り、食べ物を食べて休憩する
これは本当に温まります。「天国だ!」と思うくらいです。
10分でも体を休め温めることが出来る
もし強風ならば、10分であってもやったほうが体を休め温めることが出来ますし、なによりも冷静にメンバー同士の健康状態(元気ぐあい)を確認することができます。
これは意外に大切なことで強い風の中を歩いていると会話もできず、顔の表情もレインウェアのフードで隠れていてよく見えなかったり、また風に気を取られいろんなことに鈍感になるのでお互いを気にする余裕もなくなったりしてしまうからです。
このような状況が予想される日は、出発時にツエルトやフライシートをザックの一番上に入れておくようにしましょう。
また、各々が持ったツエルトの角は絶対に死守し、離してはいけません。「誰かが掴んでいる」と思うと風に飛ばされてしまいます。
酸欠やツエルトを燃やさないように注意しながら、中で短時間でガスコンロの火を灯すこともできます。
ずっとくるまっていると酸欠になりますから、体が温まって来たら顔を出してカップラーメンや暖かい飲み物を食べるのもよいでしょう。
「低温」への対策
体は常に熱を作っています。熱を作るのを助けるのと、熱を逃さない工夫が低温対策になります。
- エネルギーを作る行動食を積極的に食べる。暖かい飲み物で水分補給をする。
- 脱水にならないよにする。脱水状態は熱の生産能力が落ちる。
- 防寒着(基本的には行動中には着ない予備的な一枚)を用意しておき、状況に応じて早めに着る。
- 帽子を被って頭から熱が逃げないようにする。なければフードでもOK。
- 疲労しないように、歩くペースを調整する。汗をあまりかかず体は適度に暖かく、できれば鼻呼吸出来る程度が良い。疲労し過ぎると熱の生産能力が落ちる。
レイングローブはおすすめ
あとは、細かいことですが私は手が濡れると夏山であってもとても体が冷える感じがしています。
雨用のグローブ等も売っており、屋久島など多雨な場所での雨中ハイクも前提にしている場合は便利かもしれません。
そこまでしなくても100円ショップの化繊の伸びる手袋程度であっても役に立ちます。
もちろんすぐに濡れてしまいますが、何もしていないよりはだいぶ良いですよ。
濡れてかじかんだ手では、とっさの時に枝や岩も掴みづらくなってしまいますしケガをしかねません。
ザックに1つ放り込んでおくことをオススメします。
さらに子供と高齢者は体温調節能力が低いので、周囲が配慮することも重要です。
低体温症が見られた時の対応
まだ震えが起こっている段階
- テントやツエルトの中に入れ、温める。火も炊く。
- 服が濡れていたら素早く着替えさせ、帽子や防寒着を着せて保温する。
- 暖かい砂糖水を飲ませる(カフェインは血管を収縮させるのでダメ)。
- シュラフに入れ、温める(他の人が温めた後に入れると良い)。ない場合はレスキューシートを使う。
- 食べられるようになってきたら暖かい食べ物も食べる。
既に震えもなく意識朦朧・・・などの重症な場合
- 上記の保温を維持しつつ(意識障害の人に食べ物飲み物は厳禁)、搬送か救助要請をする。
- この場合、決して本人に歩かせてはいけない。筋肉を活動させると冷たい血液が心臓に流れ込んで心停止を引き起こしてしまう。
- 搬送する場合は水平に慎重に行う。心臓が停止した場合は心臓マッサージを行う。
心臓は停止して3分で50%が亡くなりますが、2分以内に開始すれば90%が助かるそうです。
多くの登山者にとって本場の心臓マッサージは初めてであり 「間違ってたらどうしよう」 と不安になると思いますが、心臓マッサージは非常に有効です。
学校や運転教習で習ったんだから大丈夫!と自信を持ち行いましょう。
下界では救急車が来るまで続ける、と言われますが山では救助はそんなに早くは来ません。
素人の私達は「いつまでやったらいいのか?」と疑問に思いますが、「○分以上やってはいけない」ということは無い、というのが1つの答えです。
医療現場でも、長い場合は3時間や5時間という話も聞きます。
自分で判断するのは難しいので、救助がこちらに向かっているのなら「救助が来るまで」と割りきって行うのが良いかと思います。
低体温症・対策グッズ
エマージェンシーシート
災害時、寒い避難所や車内などでも役立ちます。最近ではもしもの時の備えとしてではなく、富士山のご来光待ち時間などに積極的に利用する人も多いそうです。
重さ55gですのでテント泊でない人は常備したいものです。
ツェルト
雨や風の休憩時だけでなくビバークの時などにも使えます。
この商品は重さ280gと小さい缶コーヒー程度の重さです。単独行や、テント泊でない場合のリーダー格の人には所持して欲しい装備です。