登山をはじめる 4 -登山の準備-
「登山をはじめる」シリーズでは仲間の見つけ方から始まり、山選びと下調べ、計画の立て方と計画書の書き方について書いてきました。
そしてこの「登山をはじめる 4」では登山の準備について書いています。用意する装備や服装のこと、食料のこと、登山当日までにやることをまとめたページになっています。
必要な装備・登山用品を用意する
「登山用品と持ち物リスト」で用意する装備の一覧と解説をしていますので、このページでは簡単に書きたいと思います。
なぜ専門の装備が必要なのか
登山では用意しなければならない装備、登山用品がたくさんあります。普段生活している場所とは全く異なる環境で一日を過ごす訳ですから、何があっても困らない様相応の準備が必要になってきます。何もない大自然の真っただ中で登山を楽しみ、そして無事に帰って来るための十分な備えが必要なのです。
そう言った厳しい環境で登山者を守ってくれるのが登山の装備です。登山靴は急な斜面や岩場から足を守り、レインウェアは雨から登山者を守り、ザックは登山者を守る装備を運ぶ大切な道具です。
普通の靴とリュックとかと何が違うの?ということは他で詳しく書いていますが、例えば登山靴はサッカーのスパイクシューズみたいなものでしょうか。スニーカーでもサッカーは出来ますが転びやすいでしょうし、また地面を掴んだ力強いシュートは打てないでしょう。それに、スパイクを履いた人と同じ様なプレーが出来ず、楽しめないのは間違いありません。
登山もサッカーと同じでスニーカーで楽しめます。しかしサッカーと違うところは、登山で怪我をすると自力で下山をしなければならないと言うことです。
買う時は必ず試着し、身体にあったものを選ぶ
登山靴、ザック、レインウェア(カッパ)。これらの装備の共通点は「常に身につけるもの」ということです。レインウェアは天気次第になりますが、登山靴とザックは常に登山者の体に接している装備なので、もしここに問題があれば一日中山中でその問題を抱え続ける可能性は高いです。歩きはじめは大丈夫だったけれど、山頂に着いた時には足が痛くて下山できない、と言う事は良くある話しです。
なので、これらの装備を揃えて登山をする予定の人は、購入する際には必ず登山用品店に出向き、そして試着をしてから買いましょう。
人の身体の形や大きさがそれぞれの様に登山の装備にもそれぞれあります。繰り返しになりますが、
身体に合わない装備は怪我の原因になり得ますので、ネットで評価等を見て買うのではなく直接お店に出向いて買いましょう。店員さんは適切な物を選んでくれるでしょうし、正しい使用方法も教えてくれます。
予算がなければ、とりあえず代用品で
長々と登山の装備の重要性について書きましたが、しかし全ての装備を揃えるのはお金がかかって大変です。それに、せっかく登山をしたいと思ったのに二の足を踏んでしまうかもしれません。
なので上で書いてきた事と矛盾する様ですが、それらのことを踏まえた上で代用できるものは代用してしまいましょう。
登山をするルートや時間にもよりますが、散策路とか遊歩道、良く整備された登山道等ならスニーカーでも有りだと思います。例えば東京の高尾山の様な山であれば、万が一の時でもリフトを使って下山もできます。
ザックも、荷物の少ない短時間の登山なら普段使いのリュックでも大丈夫でしょう。ザックを雨から守るザックカバーもビニール袋を代用できますし、夜道を照らすヘッドランプ(頭につけるライト)も懐中電灯で良いと思います。
レインウェアはちょっといい物を
しかしレインウェアだけは少し良い物を用意してください。登山用の高額なものではなくても、ホームセンターの作業着コーナーや釣具屋等に置いてある、上下に別れた「防水透湿性」と書かれたレインウェアであれば大丈夫です。
「防水透湿性」とは外の雨は防ぎ中の水分は逃がす、という特徴を持った生地ですが、登山中に汗で身体を冷やさないために重要な性質です。最低限、こういった特徴が書かれているレインウェアを用意してください。
ちなみに、コンビニのカッパは登山では役に立ちません。また自転車を乗る際に使用するレインコート等も山歩きには向きません。
装備について詳しく書いたページ
下記のリンク先では、登山に必要な装備の一覧、そしてそれぞれの装備の選び方を詳しく解説しています。登山の準備をする際にお役立てください。
また登山靴、ザック、レインウェアに関しては一つ一つより詳しく解説しています。
料理道具・テント泊の装備について
登山でカップラーメンが食べたい、料理を作ってみたい方は下記のリンクを参考にしてみてください。またテント泊に挑戦するぞ、という人はテントや寝袋などの解説や選び方も詳しく書いていますので、時間があれば読んでみてください。
装備と持ち物のチェックリスト
こちらは登山の持ち物のチェックリストです。PDFファイルなので、プリントして登山の準備の際にお使い頂けたら幸いです。
登山の服を用意する
「登山の服装」のページで服について詳しく書いていますので、ここでは短くまとめたものになります。
とりあえずスポーツウェアでOK
登山もスポーツ同様に汗をかくので、身体を冷やさないため速乾性の素材の服を用意しましょう。肌着にはポリエステル、ポリプロピレン等の素材表示があるものが適しています。スポーツで使用する衣服と同じ素材です。
綿(コットン)は乾きにくいのでやめましょう。綿混紡も避けたほうが良いです。
ズボン、上着はにジャージが伸縮性もあって動きやすく登山に向いています。シャカシャカのナイロンのジャージではなく、体育で使う様なジャージです。ナイロンのジャージは、風が出た時にウインドブレーカー的な使用方法が向いています。
防寒着は必ず用意する
標高が高かったり風が吹いたり、夏でも山は寒くなるので防寒着は必ず用意してください。ウールのセーターやダウン、フリースなどの素材が防寒着には適しています。コンパクトに収納できるダウンジャケットは荷物にもならないのでオススメです。
重ね着をするイメージで揃える
山を歩いていると暑かったり寒かったりを繰り返します。休憩中や歩きはじめ、山の影に入った時や風が吹いた時には冷え込んだり、稜線に出ると日が当たって暑かったり。
そういった温度の変化に対応するため、登山では上着を脱いだり着たりして歩きます。例えば夏の登山なら行動中の肌着は長袖シャツ、休憩中には薄手のフリースを着て、山頂が寒ければレインウェアの上着を羽織る。万が一の予備として薄手のダウンジャケットも用意しておく、と言った感じです。
シャツ一枚と防寒着に分厚いダウンジャケット一枚、の様な感じだと微妙な温度調節が出来ませんので、重ね着をして暖かくする、というイメージを持って服を揃えてください。
登山靴の慣らしと調整をする
登山靴を買ったら事前に履いて歩く
登山靴を購入した場合には、登山靴を履いて慣らす作業が必要になります。ならしの作業は平地を歩くだけではなく、階段や坂を登り降りします。
また登山靴を履いて歩く作業は、慣らし以外にも履き心地のチェックにもなります。アウトドアショップで履いた時には問題なくても、自宅で履くと違和感がでることもあります。登山当日までに出来るだけ登山靴を履いて歩き、問題点があればそれを見つけ、なるべく早く解決しましょう。
登山靴を持っていて久しぶりに登山をする人は、経年劣化でソールが剥がれないかどうかよくよく確認しましょう。
靴紐の結び方を確認する
靴紐の結び方によっては登山靴の履き心地がかなり変わります。履き心地が悪かった靴も、靴ヒモの締め具合だけで変わることもあります。色々と試してベストな状態を作れるようになっておくと安心です。
インソールと靴下
愛用しているインソール。姿勢が変わってバランス良く歩ける様になる
靴の中で足が動きやすい等の問題があれば、靴下もしくはインソールを交換する方法もとれます。登山用の靴下には厚さの種類がいくつもあるのでフィット感の調整は簡単にできます。2枚履きも全然有りです。
インソールを変えるとフィット感というより、立ち方が変わる、と言った印象です。登山靴、特にソールの硬い登山靴はスニーカー等に比べ歩きづらいので、どこかしっくりこないと感じている人はインソールの交換も試す価値はあります。
不具合があれば購入店で尋ねる
散々試着して選んだ登山靴も、購入後はどこかに違和感は見つかるものです。そんな時は購入店に行き色々と聞いてみてください。靴紐の結び方、靴下を使った調節、インソールのこと、全て教えてくれると思います。靴の内部がきつければ拡げる作業をしてくれるショップもあります。
気軽に、些細なことでも尋ねてみましょう。
食料(行動食)・水を用意する
登山のエネルギー消費は膨大。いっぱい食べよう!
行動食とは登山中に食べる食料のことで、昼ごはんもそれにあたり、全てをひっくるめて行動食と読んでいます。登山には「シャリバテ」と言う言葉もあります。これはお腹が減ってバテて歩けなくなる、と言う意味の言葉になりますが、お腹が空いて動けないと言うよりもフラフラで気持ち悪くて動けなくなる、という症状に近いです。しかもこうなると食事も食べられなくなってしまうのです。
これを防ぐために、登山中には頻繁なエネルギー補給が欠かせません。ちょっとした休憩中にチョコレートを食べたり、歩きながら飴をなめたり。ガソリンを空にさせてしまう前に、ちょくちょくエネルギーを補給していくスタイルで、常に間食をしているイメージです。お腹が減ったと感じなくても食べることが大切になります。
登山は激しいスポーツではありませんが、実は一日の消費熱量は膨大です。ですので、食べてエネルギーを補給することはとても大切なのです。
食べやすくて、レパートリー豊富な行動食を
カロリーもあるし、非常食としてもおすすめのえいようかん。
歩き続けていると口に物を入れる行為がしんどくなるので、自分が好きで食べやすいお菓子が行動食に向いています。中でもみずみずしいゼリーのお菓子や飲料、羊羹、ドライフルーツなんかは食べやすいのでおすすめです。飴も気軽に食べれるのでいいですね。
なお登山だからと言ってミックスナッツのみを大量に持ち込んだりすると、後半は飽きたり口の中がボソボソとして嫌になったりするので、なるべくレパートリー豊富に用意しましょう。
ガッツリな行動食も用意する
ちょこちょこ食べる行動食だけでは足りないので、ガッツリお腹を満たすものも持っていきましょう。定番はやっぱり腹持ちの良いおにぎり、次に菓子パンなどになります。ストーブ(バーナー)を持っていてお湯を沸かせる人は、カップラーメンやフリーズドライのご飯が温かくて最高ですね。
コンビニのお弁当は雨風が強い時は食べにくかったり、弁当箱のカラが邪魔だったり汁がこぼれたりして登山に向いているとは言えませんが、おかずも多くて食べやすく山の上では嬉しくなります。
非常食として行動食は余分に用意する
怪我をしたり迷って下山が遅れたり、予想外のアクシデントで予定通りに登山できないこともあります。そのことも考え行動食は余分に持っていく様にしましょう。下山後におにぎり一つ余っているくらいのイメージです。スニッカーズなんかは潰れても美味しいので、ザックの奥底に2,3本入れておくと良いと思います。
水は最低1.5リットル
エネルギー補給と同じく水分補給も大切です。登山をするコースの水場の場所や数、季節によって用意する水の量は変わりますが、1.5リットルは用意したいところです。特に夏場の低山は暑くて喉が乾くので1.5リットルはあった方がいいと思います。
水は2箇所に分けて持ち運ぶ
予算があれば、2リットル入るソフトボトルがおすすめです。
熱射病にならないためにもこまめな水分補給が必要なので、水は2箇所に分けて持ち運ぶのがおすすめです。一つは行動中の水、もう一つはザックに入れ行動中のボトルへの補給用、とする方法です。
ザックに入った1.5リットルのボトルを毎回取り出して飲む、という行為は面倒かつそのうち飲まなくなってしまうので、取りやすい場所に500mlのボトル、ザックに1リットルのボトル、という具合です。
ドリンクホルダーがないザックの場合、外付けのものを利用する方法もあります。
ザックのパッキング、バランスの調整をする
事前に必ずパッキングする
パッキングとは荷物をつめることを言います。装備と防寒着、水と食料が揃ったら、全ての荷物をザックにパッキングして登山本番の状態にしましょう。そして背負ってバランスの確認をしたり、よく使うものが取り出しやすいかの確認をします。
パッキングのポイント
- 左右の重さを対称にする
- 背中に近い方に重いものを、遠いほうへ軽いものを配置する
- 良く使うものはザックの上部へ配置、もしくはアマブタに入れる
などです。荷物の配置が悪いとバランスが悪くなって疲れやすくなったり、足場の悪い場所での行動が不安定になったりもします。あれこれと配置を変えてみて、一番軽く感じるバランスを探してみてください。
無駄なものは置いていく、極力軽くするよう努める
登山に持っていくもの全てをパッキングし終わると、予想以上の重さに驚くかも知れません。 こんなに重くて大丈夫かな?と不安になった人は、いま一度荷物をチェックし必要のないものは置いていきましょう。 例えば電車で移動中に読む小説だったり、分厚いガイドブックだったり、下山後の汗拭きシートだったり。車に置いていける荷物があったら、出発前に忘れない様ザックから取り出しましょう。
ザックを背負って調節する
普段遣いのリュックなら特別な調整方法はありませんが、街で背負うみたいに肩のストラップを長く伸ばすのは良くありません。きつすぎも良くありませんが、背中にぴったりとくっつくくらいに調節しましょう。
リュックの腰にストラップがあるタイプは登山に最適です。細いストラップでも腰で荷物を背負えて楽になるので積極的に使用しましょう。この場合、まず腰のストラップを留めてから次に肩のストラップを調節します。
登山専用のザックの場合、下記のリンク先で詳しい調節方法を載せていますので参考にしてみてください。
登山前の運動とトレーニングについて
体力はあった方がいいけれど、山に行ってしまうのもあり
登山を楽しむためにはそれなりの体力があった方が良いでしょう。体力があればより安全に登山が出来ますし、同行者がいる場合には「遅くて迷惑かけてしまってないかな?」と心配することなく登山を楽しめます。
また体力に余裕があれば山で景色も楽しむゆとりも持てますし、疲れて判断力がにぶって簡単なことで怪我をしてしまったり、そういったリスクも減ります。
なので登山をするのに十分な体力があった方がいいのですが、トレーニングをして体力がついてから登山をしよう、と考えるといつまで立っても始められないと思います。なのでまずは出来る範囲で事前に運動をして体を目覚めさせ、そして登山当日の体調を万全にすることを心がけてください。
また、急な登山で運動をする時間がとれない方もいるかもしれませんが、いきなり登山をするよりも事前に運動をした方が登山当日は体が楽になります。出来る限り普段の生活の中で体を動かす様にして、登山前に体を目覚めさせましょう。
体力より体調
でも実際、体力のあるなしより登山当日の体調の方が疲れ具合を左右するのではないかと思います。疲れが溜まっていたり、寝不足だったり貧血気味だったり、この様な状態で登山を始めるとすぐに疲れてしまいます。
登山前に体調を整えることはもちろん大切ですが、もし歩き始めて不調を感じたら、ひたすらゆっくり歩くことを心がけてください。
階段の登り降りとウォーキング
日常でできる一番効果的なトレーニングは階段の登り降りです。階段の登り降りで使う筋肉は登山で使う筋肉とほとんど同じなので、直接的な効果があります。自宅や会社、駅の階段ではエレベーターを使わずに、階段を使って登り降りをすると良いでしょう。地味かもしれませんが続けると力になります。
ジョギングは心肺機能を高めるために有効なトレーニングですが、しかし急にジョギングを始めると疲れすぎて体の調子が悪くなったり膝を痛めたり、また中高年の方には心臓への負担が強すぎます。なのでまずはウォーキングから始めてみましょう。
ウォーキングは大きく体を使い、早足で歩きます。心肺機能を強化し、全身に効率よく酸素をを送り込める疲れにくい身体を作りましょう。
もう少しできそうだと思ったら
ウォーキングからスロージョギングに変えてみたり、ザックに荷物を詰め、登山靴を履いて階段を登り降りしてみたり、より身体に負荷を加えて実践に近い形のトレーニングをしてみましょう。腹筋、背筋などの筋トレも有効です。
安全な登山のための 体力と運動では、登山で体力はなぜ必要なのか?実際に付けたいと思ったら何をしたら良いのか?体力がないことと登山の安全がどう関係するのか?などについてより詳しく書いています。お時間ある方は読んでみてください。
以上、登山初心者の方に向けた「登山をはじめる」シリーズも終わりです。このサイトでは登山に関する情報をたくさん用意していますので、お時間があれば見てみてください。