初心者のための登山とキャンプ入門

雪山登山とは?魅力と技術、装備と服装

雪山登山

登山の種類を分けるなら、雪がない時期の登山(無雪期登山)と、雪がある時期の登山(積雪期登山)という大きな2つに分けることも出来ます。
2つは、必要な装備や技術もガラっと違ってきます。 かんたんに言えば雪山のほうが大変です。装備も重いし、準備の手間もかかります。

それでも行きたくなる雪山の魅力ってなんでしょうか。登山初心者の方にも雪山のことがざっと分かるように説明しています。

雪山の魅力は

自分でルートを作って山頂を目指していける

雪山登山 登山道見えない

雪山の一番の魅力は「自由度」があることだ、といった登山家がいます。一面雪ですっぽりと覆われた山は、どこを歩くのも自由。夏山では植物の保護のために決まった登山道を歩かないといけませんが、雪山なら決まった道はありません。

多くのルートは夏と同じ登山道を歩くことになります。その方がだんぜん歩きやすいからです。
でも、雪がたくさん積もってスッポリと山を包んでしまえば、ゴロゴロの岩が多すぎて夏道の登山道自体が無い山や、藪がすごいから夏にはとても歩けなかったような山にも入ることができるのです。 湿原なんかも大雪原に変わります。
地図で大体の方角を確認したなら、自分で歩きやすそうな場所を選んでルートを作って山頂を目指していく。こういった冒険心は夏山の登山では得難い経験です。

無雪期に比べて登山者も少ないので、その分、自らにかかってくる責任も重く感じます。万全の調査と準備をした、限られた人だけが行ける場所。同じ山であっても全く別物だと考えて良いと思います。

神々しさだけでない静的な美しさも

雪山登山 森を歩く

あとは、スキーなどでも感じることがあるかもしれませんが、一面雪に覆われた山はやはり雪がないときのそれとはまた違った存在感を感じさせます。
真っ白な岩山は神々しさを感じさせるものとしてポスターなどでも見かけますが、しんと静まり返った雪山の森もまた、人を原始的な心にさせるような不思議な力をもっています。

好みにもよると思いますが、そういった「活動的」な無雪期の山に比べて「静的」な面を感じさせてくれる力があると思います。

雪がある時期の登山に必要な技術

では具体的に、雪山(積雪期)に必要となる技術とは、たとえばどんなものでしょうか。

たとえば歩行技術では…

いろんな雪のタイプを歩き分ける歩行技術が必要になります。凍って滑りそうな雪面なら、早めにアイゼンとかクランポンなどと呼ばれる金属の爪を靴の裏に装着し、凍った面に食い込ませて歩きます。
しかし便利な爪は同時に、岩やズボンの裾に引っ掛けたりして転ぶ危険も生み出します。 また、足が重く歩きづらくもなります。

GRIVEL / エアーテック・ニュークラシック
GRIVEL(グリベル) / エアーテック・ニュークラシック

多くのタイプのブーツに合わせられる、12本爪のアイゼン

履かなくて済むならその方が楽ですが、強風の狭い場所にやって来てから「ここで履きましょう」というのでは遅すぎます。しょっちゅう付けたり外したりは時間が取られるので、その着脱タイミングの判断も技術といえます。

●ツボ足(キックステップ)

雪山登山の技術 キックステップ

それに比べ、靴底に何もつけないで歩くことを「ツボ足」と呼びますが、このときは「キックステップ」という、靴底を雪面にキックして固定させるような歩き方をしたりして、ズリズリ滑り落ちないように歩きます。

ツボ足では埋まって大変なくらいの深い雪ならワカンと呼ばれるカンジキやスノーシューを靴につけて少しでも沈み込が少ないようにして歩きます。

MAGICMOUNTAIN(マジックマウンテン) アルミわかん
MAGICMOUNTAIN / アルミわかん
MSR スノーシュー EVO
MSR スノーシュー EVO

ラッセル

腰や胸まであるような新雪をかき分けて歩くことを「ラッセル」と呼びますが、これにも少しでも効率よく進めるために先人たちが考えた知恵があります。

先頭の一人は自分のザックを置いて身軽になって、体の重みと足とでガシガシ雪を潰して進みます。雪山で汗をかくのは汗冷えがして良くないことですが、このときばかりは激しいスポーツのように汗をかいてがむしゃらに道を作ります。
「もうだめだ~」となったところで次の人に先頭を譲り、荷物を取りに戻ります。

こんなふうに交代しながら道を作るのはひと苦労で、だれかが既につけた道(トレース)があればそれを使うのがラクなのですが、その苦労がたまらない達成感に変わります。

また、重い荷物を背負いながら深い雪の中を歩くにはバランスが必要です。深い雪だけでなく、岩や木の根が隠れた場所、表面だけがカリカリ、カチカリ、ツルツル、シャーベットのようにベチャベチャ…いろんな雪質の上を歩くには常に注意しながらバランスを取ってその時々の工夫をしながら歩きます。

地図とコンパスを使って地形を読む技術

雪山では吹雪けばかんたんにホワイトアウトになり何も見えなくなります。さっきまで誰かがつけた道(トレース)があったのに風で見えなくなったり、戻ろうと思ったら自分たちの足跡も風に消されて見えなくなった、ということがあります。

なので目に見える目標や目印が無くても、地図とコンパスを使って自分たちの居場所と行く先を見定める技術が必要になります。
同時に、夏道をただたどるのではなく、地図とコンパスで道を探して目的地にたどり着くことは高い技術を要する雪山ならではの楽しみでもあります。

たとえば危険に対する技術では…

雪庇を見抜く技術

雪山の事故といえば滑落(かつらく)という言葉が思い浮かぶと思います。その原因の一つとして「雪庇を踏み抜く」ということがあります。

雪庇(せっぴ)というのは風下側に雪がせり出して大地に見える部分です。これに誤って乗っかってしまい、落ちてしまう事故がよくあります。
雪庇は大きいものでは10mも張り出すことがあります。雪がないときの地形を知り、風向きや雪の性質などを熟知し安全なルートをとる技術が求められます。

ピッケルで止まる技術

ピッケルで止まる技術 イラスト

また岩にアイゼンの爪を引っ掛けたり、不安定な雪面の上で突風に吹かれてバランスを崩し、雪の斜面をあたかも滑り台のように滑り落ちることもあります。
そうならないように常にピッケルというツルハシ状の道具でバランスをりながら歩く技術や、万が一滑り落ちてしまったときにピッケルの先を地面に打ち付けて止まる技術があります。

ブラックダイヤモンド(BlackDiamond) レイブンプロ
ブラックダイヤモンド / レイブンプロ

ロープで安全確保する技術

滑落の危険が高まるため、ロープを固定して安全確保することがあります。特に危険な箇所を通過するときや、弱って足元のおぼつかないメンバーをサポートするときに使うこともあります。

万が一誰かが滑ってロープに重さがかかったときにロープが抜けないよう、しっかりと雪面に固定します。近くに太い木でもあれば良いですが、無いときは適切な雪面を選んで、斜面に対して最も力が効く角度でスノーバーと呼ばれる大きめのペグのようなものを打ち込んで支点を作ります。

適切な雪面を選ぶことは高度な技術を要します。

たとえばテント技術では …

整地と雪専用ペグ

テントを建てる時、テントを広げる前に、まず地面を踏んで平らにするところから始めます。この整地をしないとそのうち溶けた雪がボッコンボッコンになって、寝るときに背中が痛くなります。
そして、夏なら地面にペグを打ってテントが風で飛ばされないように固定しますが、フカフカの雪の場合にそんな小さなペグだと刺さらないので竹の棒と麻のロープなどを使い横に埋めてペグ代わりとします。
撤収の時に雪が固まって抜けないときは、そのまま麻ロープから下を切って置き去ります。

結露対策

テント内では料理の湯気をあまり出さないようにし、テントの内側が水滴だらけにならないようにします。
でも工夫しても水滴だらけになるので、服などを端っこにおいて濡らさない工夫をします。

登山靴はテント内に

雪山ではテントの中に靴を入れる

湿ってしまった靴はテント内に入れ、眠るときは寝袋に入れるか寝袋と寝袋の間に置くなどして凍らないようにします。

撤収時のポイント

翌朝の撤収時はアイゼン以外は全部身につけてから外に出てから撤収します。そのとき、片付けの最中にうっかり雪の上に小物を落としたりすると行方不明になるので、雪面に何も置かないように荷物を詰め込むのも一苦労です。

このように無雪期のテント生活ではなかったような技術があります。
これらは一例で、このような雪山ならではの技術が他にもたくさんあります。雪の性質や雪崩、冬の天気、凍傷など低温に対する知識…雪山に限ってのことなので、いくら夏山登山の経験を積み重ねても身につくものではありません。

雪山に興味を持った場合は、やはりはじめは雪山入門講習などに参加して、経験者に教えてもらいつつ体験してしまうことが、手っ取り早く学べると思います。

初心者が始めやすい雪山・冬山は?

雪の八ヶ岳
八ヶ岳

上にあげたような雪山の知識や技術の例には、難しいレベルのものもありました。しかし、木も生えていない、風が強く吹き付ける真っ白な険しい斜面を登るだけが雪山登山のすべてではありません。夏山にもハイキングから数日に渡るハードな縦走までいろいろあるように、冬山・雪山にもいろいろなレベルがあります。

初心者が始めやすい雪山登山は次のようなコースです。

● コースに樹林帯が多く、夏道を歩くルートで、ルートを見失いにくく、雪崩の危険がなく、滑落しにくく、突風など強風からある程度守られているルート

● 冬の間も営業している山小屋に宿泊したり、営業している山小屋のテント場にテントを張って、荷物を置いてピストンができるコース

●人気のルートで他の登山客でにぎわっており、トレース(雪道についた足跡)もついて道を見失いにくいコース

八ヶ岳は雪山入門者に人気

八ヶ岳山荘
冬でも営業している赤岳山荘

八ヶ岳にはこういったルートが多く、雪山入門者の講習なども多く開催され、交通の便や山小屋の環境なども良く整っていて人気があります。
そして入門コースに飽きたら、アイスクライミングができる滝や本格的な雪の岩稜のピークなど様々な要素とレベルのルートを持ち合わせている山域です。

滑り落ちたら死にそうな所だけが雪山ではなく、スノーシューハイキング、クロスカントリースキー、アニマルトラッキング(動物の足跡を探して森や野生動物をたのしむ)などさまざまな楽しみが積雪期にはあるのです。

雪山登山の服装

滑落や雪崩の心配のない初心者向けの雪山であっても、やはり雪があって気温も低いとなると、無雪期では使わなかったいくつかのウェアが必要になります。

アンダーウェア(ベースレイヤー)や中間着

smartwool(スマートウール) M's メリノ250
smartwool / M's メリノ250ベースレイヤークルー

メリノウールで着心地が良く暖かいアンダーウェア

肌に触れるものは、汗をかいてもヒンヤリせず、汗を乾かして保温してくれる化繊素材のものを全身に身に付けます。

昔は全身ラクダ色の毛のチクチクしたモモヒキのようなものを着ていました。今は化繊の肌触りの快適な製品があります。その上にやはり化繊か毛の素材の薄手のシャツやフリースなどを重ね着することで保温と汗をかかないように体温調整をします。

スキーをする人は手持ちのアンダーウェアが代用できるかもしれませんので確認すると良いでしょう。

アウター(ハードシェル)

finetrack(ファイントラック) エバーブレスグライドジャケット
finetrack(ファイントラック) エバーブレスグライドジャケット

生地強度とストレッチ性を両立した防水透湿アウターシェル

風が強すぎない樹林帯の中を短時間歩くとか、そんなに厳しい雪山というわけでもなかったら、ゴアテックスのレインウェアを一番外のアウターとして着ることもできます。服に雪が付いて濡れるのを防ぐのと、防風・防寒の役割もあります。
昔は「ヤッケ」と呼ばれるナイロンのものを来ていましたが、これは防水の機能がなかったので、万が一雪がみぞれや雨になったときに染み込んでいました。

雪山用のジャケットやパンツは、ゴアテックスのような蒸れない防水素材を軸に、生地を厚くして防寒機能を高め、さらにひっかきや滑った時の摩擦などに強く、かつストレッチが効いているなどの優れものもあります。
歩くと汗をかくのでダウンのようなワタ機能は無いものが多いです。

脇の下に熱気を逃がすベンチレーターと呼ばれるチャックが付いていたり、パンツのサイドのチャックが上の方まで大きく開いて靴を履いたまま脱ぎ気ができるとか、全部を脱がずにトイレを済ませられるなど、いろんな工夫があります。

登山靴

雪山登山靴 コバ
ワンタッチアイゼンを使用するためのひっかけ部分「コバ」

昔ながらの皮の重登山靴なら専用の油を塗って水が染み込んで凍らないようにしていきます。
軽い雪山なら、ゴアテックスなどのトレッキングシューズと軽アイゼン(簡易的なアイゼン)で行くこともあります。
本格的なアイゼンが必要な雪山なら、靴底の硬さやアイゼンを装着するための形なども重要になるのできちんとした雪山用登山靴を履くことになります。(※ アイゼンを引っかけるための「コバ」と呼ばれる箇所が必要になりますが、コバがなくても使用できるアイゼンはあります。)

雪山用登山靴は、やはり保温の面で大きく優れています。末端である足先はとても冷え、雪山ではジンジンと冷え汗で濡れた靴下を履いたままだと凍傷になりやすく、気をつけたい部分なのです。
冷たさの感じ方や冷え方は体質による部分も大きいかもしれません。

ゲーター(スパッツ)

ISUKA(イスカ) ゴアテックス ロングゲイター
ISUKA(イスカ) / ゴアテックス ロングゲイター

雪山登山に最適なロングゲイター

足の甲からひざ下までを覆い、スネを包むようにして靴に雪が入るのを防ぎます。雪山ではロングタイプのものを使います。
雪山用のパンツにはスキーのパンツのようにインナースパッツがついているものもあり、雪が少ないときはそれで済んでしまうこともあります。

ショートタイプは夏場にズボンすその汚れ防止や、砂や小石が靴に入ることを避けるためにも使われたりします。

手袋(ミトン、グローブ)

一番外側にはナイロン生地の「オーバーミトン」というものをはめて、インナーには分厚い「バージンウール」と呼ばれる油を抜いていないウールで作った手袋をはめる、というのが伝統的スタイルでした。
これに見られるように、外側は雪をはじき風をさえぎるものをはめ、内側で保温するのが基本の考え方です。
内側用は予備を持参します。

最近では3層に重ねる人も多く、一番肌に触れる手袋はスマホ操作もでき、手軽に洗濯できるものをはめたりします。

ブラックダイヤモンド(Black Diamond) ソロイストフィンガー
ブラックダイヤモンド(Black Diamond) / ソロイストフィンガー

インサレーション付属のオーバーグローブ

ブラックダイヤモンド(Black Diamond) ソロイストフィンガー
finetrack(ファイントラック) / パワーメッシュインナーグローブ

汗冷えなどを軽減するインナーグローブ

一体型は着脱のしやすさとフィット感が利点ですが、汗で濡れたら乾きにくいことや洗えないデメリットもあります。
ロープを操作するかどうか、などでも選び方は変わってきますが、登山用品店に行くととにかく手袋の種類がたくさん売っています。

目出帽(めでぼう、めだしぼう、バラクラバ)とゴーグル

finetrack(ファイントラック) メリノスピン バラクラバ
finetrack(ファイントラック) / メリノスピン バラクラバ

ゴーグルが曇らない様、呼吸を下に逃がす作りになっている

銀行強盗の目の部分だけ丸い穴が2つ開いているもののイメージですが、登山ではゴーグルの形全体に空いているものを使います。
ネックウォーマーとニット帽でも良い気がしますが、耳、鼻などの末端は気づかないうちに凍傷や雪焼けしやすく、ほっぺたも風に吹かれればヒリヒリと痛くなってくるので覆う必要があります。

歩き続けるとずれてくるので、やはりずれないでフィットしてくれるバラクラバは快適です。
かつてはウールで分厚くチクチクしたものが一般的でしたが、最近では最新素材の軽くて暖かく肌触りが良い機能的なものがたくさん売られています。

ゴーグルやサングラスは雪目になるのを防ぐために重要です。これはスキーと同じです。

その他の装備として、先に上げたアイゼン(靴の裏にはめる滑り止め用のツメ)、ワカン(足が雪に埋まりすぎるのを助ける輪かんじき)、ピッケルやストック、もう少し厳しい雪山になってくるとヘルメットや雪崩ビーコン等が必要になります。