登山の食糧計画の立て方
二人以上で泊まりの登山に行く場合、ぜひ食糧計画を立ててご飯を作る事をおすすめします。
このページでは登山の料理メニューと普段のメニューの違い、どのようにメニューを考えたら良いのか、その手順などを紹介します。
食料長を決めよう
泊まりの登山や日帰りでもお昼ご飯に簡単な料理を作ろうかな、と思ったら、まずは食料長を決めましょう。例えば経験の長い一人がリーダーとなって計画を立てたとすると、もう一人が食料長を担当するとよいでしょう。
登山では忘れ物の一つが大きな失敗につながってしまいますので、何事においても担当をしっかりと決めておくことが重要なのです。
食料長のしごと
- メニューを作る。メンバーに確認。
- 調理器具の確認(予定していたクッカーで間に合うか)
- 買い出し
- 事前準備
- 登山前の食料配布
- 調理の準備や指示、ゴミの管理
- 精算
このように、食料長の仕事は意外とたくさんあります。実際の料理だけではなく、登山全部においての食料関連のすべてになります。あいまいにしておくと「あれ、油は持ってきてくれるのかと思ってたよ!」なんて事になってしまいます。
少ない調理器具と重すぎない食料でおいしく栄養のある食事を短時間で作れたら、それこそ食料長のテクニックなのです。
メニュー表を書こう
メニューを考えていく時には、まず次のような表を書いてしまうのが便利です。
この図では、タテに朝ごはん、昼ごはん、夜ご飯。ヨコに1日目、2日目、3日目としています。
そしてまず、考える必要のない箇所に斜線を入れます。1日目の朝は各自家で食べてくるから要らない、3日目の夕方に下山するので夜ご飯は要らない、というふうです。
そうすると、どの食事が何回必要かハッキリしてくるので登山行程を考えながらメニューを埋めていきます。この表が完成した後は、他のメンバーに食事について知らせるのにも役立ちます。
これを見てメンバーは、自分自身で用意をしなければいけないのはこれだ、と間違いなく確認をすることができます。
昼ごはんとレーション(行動食)
昼ごはんというのは、お昼付近にどこか休みやすい場所で少し長めに休憩を取り(大休止といいます)、みんなでいっしょにまとまった量の食事をすることです。
「え?なぜそんな説明を?」と思うでしょうが、登山ではとくに昼ごはんを設けない事も多いからです。
昼ごはんを設定するパターン
昼ごはんを設けるかどうかは好みにもよりますが、時間に余裕のある場合は設定しておくと楽しみの一つになります。初日なら各自が持ってきたお弁当を食べ、皆で一つお湯を沸かしてコーヒーや粉末スープを入れるだけでかなり豊かなお昼ごはんになり、満足度もアップします。
ただ、荷物を出してお湯を沸かして飲んだあとはカップを回収してコンロが冷めるのを待って再びパッキングするということがあるわけですから、少なくとも40分以上は時間を確保しておく必要があります。
お弁当の他には、カップラーメンや簡単なスープだけを作るというのもオススメです。あずきをお湯で溶かすだけのおしるこにお餅を入れたり、生野菜の入った餃子スープも塩気があって汗をかいた体には美味しく食べられます。
他には生野菜たっぷりでマスタードなどを塗ったサンドイッチなどは常に喜んでもらえます。
お昼ごはんを設定しないパターン
基本的には、登山では特にお昼ごはんを設定しないパターンも多いと思って間違いはないかと思います。
ではどうするのかというと、レーションと呼ばれる行動食を10分などの休憩の間にチョコチョコと食べ続けるのです。
登山の時間あたりの消費カロリーは他のスポーツに比べると少ないのですが、休憩を含めた一日の行動時間は8時間だったりと、他のスポーツに比べてとても長いのです。ですので、こまめにエネルギーを補給して行くのが効率的と言えます。
また、登山日数が多い時は必然的に荷物が多いので、このようなときは昼の大休止を取らないことも多いです。荷物が重いと、カタツムリのようにとにかくゆっくりゆっくりと歩みを進める事になります。登山初日に無理をしてしまうと翌日以降に疲れが残ってしまうからです。
このような状況の時は、思っていたよりも歩くペースが遅くなって予定より遅くなってしまうこともあります。そんな時に火を使って調理するような昼ごはんを設定していたとすると、場合によっては食べられなかった、という事にもなってしまいます。
また、ハードな日においては、長時間休憩が歩くリズムを崩すと感じることもあります。ジョギングと同じで、長時間走りたいときに途中で1時間座り込んでしまうと休憩後の走り出しがとても辛のと同じことです。
このように、辿り着くことを再優先したいような荷物の重い日や行程の長い日はお昼ごはんを予め設定しておかずに、当日のペースを見て大休止を取るかどうかをリーダーが決め、粉末スープなどを用意しておいて余裕があったらお湯を沸かす、という程度がよいでしょう。
レーションは常に必要
気をつけたいのは、お昼ごはんがあるときでも常にレーションは各自で用意しておく必要があるということです。
たとえば、朝ごはんを食べたあと朝7時に歩き出して、昼の12時まで水しか飲まなかったとします。日常生活ならそういうこともあるかもしれませんが、登山ではその間の5時間歩き続けているわけですから、かなりの空腹を覚えます。場合によってはエネルギー不足になってシャリバテを起こしてしまうかもしれません。
炭水化物から摂ったエネルギーは1~2時間歩けば使いきってしまうので、残高不足にならないように常に先回りしてチャージするような感覚が必要です。「お腹が減ってからでは遅い」というのが登山の常識です。
最近では持久力を必要とするようなスポーツ選手も、試合の数日前から徐々に炭水化物を増やしていって体内に貯蔵するエネルギーを増やすという調整を行っていますが、それくらい影響が大きいのです。
また、就寝直前に「お腹が減って眠れない」と感じてもコンビニに買いに行くこともできませんし、今からお湯を沸かしてスープを飲もう、という自分本位な行動もできないことが多くあります。そんなときにも各自がレーションを持っていればそれで補うことができます。
また、「1個のにぎりめしと1杯のお茶」と習ったのですが、下山した時にザックの中にはレーションと飲み物が余っている状態であることを心がけて下さい。
もちろん別で非常食を携帯していればそのほうが良いのですが、登山では何があるかわかりません。「あと2時間でバス停」というところで道を間違えてもう一泊するハメになったり、捻挫して動けなくなったりということもあります。
そのようなケースを常に想定して、下山する前にレーションが尽きてしまわないように心がけます。
このように登山全体においてレーションは重要なのです。
このような観点で、まずは上で作った表のお昼の欄を埋めていきましょう。
登山行程とメニュー決め
行動に影響される
昼ごはんのところと考え方は同じですが、メニューは登山行程と大きく関係します。
例えば初日で、その日は歩く時間も短くて早くにテント場に着くという行程なら、生肉を使った料理やゆっくりおしゃべりしながら食べる鍋料理などもできるでしょう。しかし長く歩く日の夜ご飯となれば別です。遅く到着する事も考えられますから、水に浸しておく時間や野菜を皮から向く必要のなくサッと作れるようなメニューを持ってくると安心です。
朝も同様で、ゆっくり出発できるなら食パンのトーストなどもよいでしょう。しかし最短で出発したいなら、1つの鍋で一気に作れるメニューにしたり、前の晩に完成させておいて温めるだけとか、場合によっては持ち出せるように作って置いて、甘い紅茶だけを飲んで出発、というパターンも考えられます。
夜ご飯の特徴
登山では一日合計すると膨大なカロリーを消費するため、夜ご飯はそれを補うという重要な役割があります。さらに日中はレーションなどで手軽に済ませ、パンや甘いものばかり食べることが多いので、夜ご飯ではなるべく野菜や海藻を取り入れたりして栄養や食感の変化を持たせたいところです。
じっくり時間を掛けて作って食べられるのは夜しか無く、一番手軽にボリュームを取れるのが白米です。これにお米が進むようなおかずを組み合わせていきます。
朝ごはんの特徴
登山では、朝起きた直後に食べることが多くなります。というのは、お湯を沸かした後はコンロが冷めるのを待ってパッキングし、食器を拭ってゴミを片付けるなどの作業があります。そのためにイチ早く食べ終わって片付け始めないとその荷物をしまう人がいつまでも待たされてしまうことになります。なので究極の場合は、朝は火もたかずに出発する人もいるくらいです。
しかし、起きた直後は体を目覚めさせるように温かくて甘い飲み物をまず飲むのがおすすめです。そしてメニューには汁気があってノドを通りやすいもの、かつ調理の時間がかからないものを持ってきます。定番はインスタントラーメンや雑煮です。
考えておきたいのは前日の夜との関係です。前日の夜ご飯でお米を炊いたなら、いっしょに炊いておいて、朝は水と粉末スープを足して雑炊にするなどができます(これは食糧のカサも抑えられる登山後半に適した朝食です)。朝は野菜を切るような作業は避けたいですが、前日の行程に余裕があればまとめて作っておいて、朝は温めるだけというようにもできます。
このように、目覚めきっていない体に急いでムリヤリ流し込むイメージの強い朝食ですが、少人数であればトーストとウィンナーなどの優雅な朝食にもできるでしょう。
以上をイメージして、次に具体的にどんなメニューにするか考えていきましょう。
登山の料理とは
短い登山や涼しい時期の登山なら、街と同じように豪華に食べたいものを持って行けば良いのですが、そうではなく、長期や暑い時期となってくると登山料理のテクニックが必要になってきます。
登山の料理に必要な条件は
- 軽い
- カサが小さい
- 日持ちする
- ゴミが出ない
- ボリュームと栄養がある
- 短時間でできる
- パッキングしやすい
1. 軽い
軽いということは水分を含まないということです。そこで利用できるのはなるべく乾燥した食材を用いて、調理の際に水で膨らむものです。便利な食材には次のようなものがあります。
メイン、メインディッシュになるもの
お米、乾麺、こうや豆腐、乾燥わかめ、乾燥ひじき、切り干し大根、乾燥ごぼう、春雨、マロニー
アクセントになるもの
かつお節、のり、乾燥ネギ、ごま、ハーブ
乾燥させて粉末にしてあるもの
顆粒だし、コンソメ、うどんスープ、すしのこ
このように、調味料もなるべく液体を避けれると荷物を軽くしていくことができます。
これらは軽いだけでなく、日持ちもします。乾燥系食材をどれだけ有効に使えるかというところで、料理のバリエーションが変わってきます。最近ではフリーズドライご飯だけでなく、フリーズドライキャベツなどの素材もインターネットで販売されています。
2. カサが小さい
ザックの容量に限界があるので重さだけでなくカサも重要です。袋ラーメンなら棒ラーメンに代えるとか、パスタなら真っ直ぐなスパゲティにするとか、パンはなるべく減らしてお米に代えるとか、どうしてもパンを入れたければ潰してスープに浸して食べるとかの方法もあります。
事前準備のところでも説明しますが、なるべく空気を抜いてカサを減らすのも重要です。(1)で挙げた乾燥系のものはカサも小さくなっている点でも優れています。
3. 日持ちする
一番の問題はお肉で、これも季節などにより段階があります。
- 凍らせた上に、凍らせたペットボトルで保冷をして持っていく
- 焼き肉のタレや塩麹などに漬け込んだ上に凍らせていく
- ペミカンにしたり、火を通して味付けして凍らせて持っていく
- ベーコン、ウィンナー、ハム、などの肉加工品を利用
- 調理済みハンバーグのパウチなどを利用
- 常温保存可能な、焼き鳥缶、スパムなどを利用
- 常温保存可能なシーチキン、魚肉ソーセージなどで代用
家を出る直前にザックに食糧を詰め込んだら、その後はずっと常温で肉や野菜を持ち運ぶことになります。車でのアプローチならクーラーボックスなどを利用して歩き出すギリギリまで冷やしておくことができますが、電車やバスを使ってのアプローチならかなり早い段階から常温保存が始まることになります。
また、真夏か涼しい季節かによっても大きく変わります。
ある年の11月、朝5時に冷凍庫から取り出した生肉をビニール袋とタオルに包んで保冷し、奥多摩に登りに行ったことがあります。テント場に着いて4時に調理しようと取り出したらカチンコチンのままで、解凍するのに時間がかかってしまい逆に困ってしまったことがありました。途中で一度でも確認したら、日の当たるザックの外にぶら下げるなどの対応ができたのに、と反省しました。
このように、寒い季節や登山の前半には生肉を利用し、暑い季節や登山後半日程には肉加工品で代用したりと工夫して取り入れるのが登山の料理と言えます。
他にも味噌漬け肉など、冷蔵庫の無い時代から行われてきた保存のテクニックはいろいろありますが、あまり利用していません。
というのは普段味噌漬け肉を食べないので、実際に山で調理しようとした時に「これはもしかして腐っているのか、食べられるのか」が良くわからなくて困った経験があるのです。腐っているからといって捨てるわけにも行かないし、無理に食べてお腹を壊したらトイレの少ない山では致命的です。
そういう知識を持っているお年寄りに出会ったら技を伝授してもらい、日常でもできるようになってから山で活用してみると良いでしょう。
4. ゴミが出ない
これも短期間なら気になりませんが長期になると問題になってくる点です。
例えば(あまりありませんが)、骨付き肉などはどうしても骨のゴミが出てしまいます。あと大きいのは果物で、スイカ、バナナ、グレープフルーツなどは食べた後の皮がかなり重くなります。料理に入れることは滅多に無いと思いますが、これらが初日にあると大変です。特にバナナの皮は数日後には真っ黒な汁になって、敗れると悲惨です。
つけ麺のような、汁を最後に余らせるようなメニューも避ける必要があります。余らせるなら要らないペットボトルに入れて持ち帰るか、少量ならティッシュゴミに吸わせて持ち帰ることもできます。
また、缶詰を多用すると缶ゴミがかさばってしまいますので、缶詰よりもパウチ食品を活用するようにしたほうがよいでしょう。コーン、シーチキン、ひじき、魚の煮物・・・様々なパウチ食品が発売されています。その中でも汁気の少ない物を発見できたら登山の料理に大活躍すること間違いなしです。
5. ボリュームと栄養がある
30代で体重60kgの人が休憩を除いて6時間歩いたとすると、一日で3660キロカロリーを消費するというデータがあります。
じつはレーションや夜ご飯でこれだけを補うのは難しいことです。なのでメニューを考えるときは「栄養過多かな?」と思うくらいでちょうど良いのです。
さらに飽きの問題として、日中食べるレーションはパンやカロリーメイトだったりと味気のないものを食べることが多くなりますので、夜ご飯では生野菜や海藻などの食感が異なるものをいろいろ取り入れる工夫が明日への活力につながります。
6. 短時間でできる
メニューを考えるとき、基本的には煮込み時間は少なくて済むものを考えます。標高が高い所で料理すると、沸点(お湯が沸騰する温度)が低くなるので野菜などに火が通りにくくなる上に、調理するクッカーは薄いのですぐに熱が逃げていってしまいます。
さらに調理に時間がかかるとガスなどの燃料が無くなってしまいます。そのために野菜は薄く切ったり家でできる部分は済ませてくるという工夫をしたりします。
これは特に冬場で重要です。冬はテントの中も寒いので鍋から熱が逃げるだけではなく、ゴボゴボと煮立てた湯気はテントの内側に水滴として付いて衣服を濡らしたり夜間には凍ったりしてテントをびしょ濡れにしてしまいます。そのため、温めるだけのペミカンなどが活躍するわけです。
7. パッキングしやすい
ここで問題になってくるのは野菜です。
葉っぱ系の野菜は常温保存でも良いのでしょうが、圧迫されるとすぐにダメになります。
ある年の夏、パックに入ったカイワレを持って行きました。少しは気をつけていたはずなのにやはり一部が潰されていて、青い汁になって猛烈に臭くなっていた事がありました。たった1日で、です。生き残っている部分もありましたが臭いがついていますし、水道が無いので洗うこともできません。
レタスやブロッコリーなどのグリーン系が食べたければ登山前半メニューに持って来た上で、パッキングに気をつけたいところです。
登山料理のレシピでも多用していますが、登山の料理のエース野菜は、1位.玉ねぎ 2位.にんじん 3位.じゃがいも だと思います。これらは圧迫に強くパッキングしやすい上に、常温で日持ちします。
さらに玉ねぎや人参は生でサラダにできますので、登山の上では得難い生野菜となります。しかも、疲労回復の栄養がいっぱい入っています。
これらをうまく使いまわして、味付けや調理方法を変えるとバラエテティに富んだメニューが出来るでしょう。
次に問題になるのは、生卵です。
生卵は常温保存できます。例えば夏場なら、27.5℃で16日間生食できるとあります(日卵協HPより)。ですので問題は割れとカサということになります。
料理に卵が使えるだけでバリエーションはものすごく出ますが、休憩の時にザックを下ろしたり座ったりする度に気を遣わなければ行けないのは大変です。しかも割れるとベタベタになって大変だし使い物になりません。ですので私は、基本的に生卵を使うのは登山の料理とは考えないようにしています。
使うとすれば初日のみ。豪華にすき焼きをしようという時などです。あとは、コンビニの温泉卵をトッピングに使うこともあります。これもパッキングはしにくいし、パックやら殻やらやはりゴミも出るので短期間の登山だけですがすごく豪華になります。
以上を参考に、朝ごはんと夜ご飯の欄を埋めていきます。レシピ集も参考にして下さい。