朝日連峰縦走日記 ②
仕事を終えて、どたばたと出発~
8月9日の金曜日、クリケンが集合地点として指定してくれた赤羽駅に向かった。22時34分の東京行きに乗る予定で徒歩で駅に向かったら、アウトレットを過ぎたあたりでものすごい人の流れにぶつかった。サマーソニックがメッセで行われている事を思い出した。始めて見るくらいのたくさんの人がゆっくり駅に向かって流れていた。軽量化のためにJRのスイカを持ってこなかったことが悔やまれた。でも少し早めに出たおかげで予定通りの電車に乗り赤羽に着いた。
沢子はお姉さんの彼氏に車で送ってもらっていた。ガスを2本買ってきてもらっていたが、荷物がだいぶ重くなったといっていた。食料は4人で分けるつもりだったけど私のすき焼きもだいぶ重くなったのでクリケンと2人で分けてもらおうと思った。でも結果すべての食料とお酒を北尾君1人が担いで持っていくことになったんだけど。
クリケンとも無事合流したがこの時になってクリケンの車にはETCの機械が無いことがハッキリした。私はETCは付いていないんじゃないかと思ったから北尾君にそれを確認したときに北尾君は「機械はついているよ」と言い切ったのに、電車の中でふと、「ETCは付いていないんじゃないか」と思い始めたらしい。計画書にはETC割引を適用しての予算が乗っているから、「もし付いていないんならクリケンがそう言ってくるだろう」とか色々予測して赤羽に向かったのだった。案の定ETC読み取り機はついてなくて北尾君を責めていたところクリケンが、機会が無くてもETCカードがあれば一般レーンを通って割引を受けられる、自分は仕事のときそうやって割引を受けたことがあると力説してくれた。よかったー、じゃあそれで行けるねと思ったらクリケンはカードを持っていないとの事で、他のだれも持っていなかった。出発前にクレジットカードのポイントを溜めるために自分のETCカードを持ってこようかとちらっと頭に浮かんだだけに、とっても悔しかった。よく考えたらお酒も海浜幕張から重い思いをしてもってこなくても赤羽のコンビニで好きなものを買えばいいじゃんとかそのほかにもいろいろ思いついて、あんなに準備してもいろいろあるもんだなぁと思った。赤羽には水商売の女性がたくさん立っていて北尾君はちょっと歩く間に3人から声を掛けられたらしい。
沢子がDVDを持ってきたんですよーと買ったばかりでまだ見ていない安室奈美江のPVが入ったDVDと松本人志のすべらない話を持ってきていた。彼女は「これを持ってくるって超頭良くないですか!」って自分で言ってたけど、本当にいいアイデアだと思った。運転手も画面を見ないで楽しめるからっていうことらしい。でも散々自画自賛したあとに、本編じゃなくて特典映像のオマケを持ってきてしまったとだいぶ後悔をしていた。とりあえず行きは安室奈美江のDVDを掛けた。これは沢子以外だれも興味がなさそうだったし、当の本人はガンガンに鳴る音楽の中で寝ていた。是非次のロングドライブの時にDVDが見れる車だったら、レンタルして何本も持っていこうと思った。
5号線が通れないので浦和から高速に乗ると、沢子は即行寝るスタイルに入った。なので私も持ってきていた首枕を2「つ出した。クリケンは盛んに「お菓子を買っておいたよ」「お茶と紙コップを買っておいたよ」といろいろ出してくれた。聞いてみればその「お菓子」とはクリケンの4日間の行動食だった。それをなぜ提供してくれようとしたのかはわからなかったが、こういった「カラムーチョあるよ」「源氏パイあるよ」「○○あるけど食べる?」という食べ物を勧める言葉を何十回と聞く事になった。
まずはクリケンが運転手をし途中のサービスエリアで北尾君に代わった。クリケンの運転は車の持ち主ということもあり安心できた。沢子が「高速は時速80キロで走るのが燃費が一番いいとテレビで言っていた」といった事から、クリケンはずっと80キロで運転をしていたらしい。北尾君に代わってからも助手席にはクリケンが乗った。北尾君に代わってからハンドル操作やブレーキが急で私はしばしば目を覚ました。クリケンが言うには北尾君は眠気でカクカクしていたという。次は寝れるはずのクリケンはきっと北尾君を見張って一睡もしなかったんだろう。
朽木さんとの出会い
予定通り5時過ぎには寒河江のICを過ぎた。ICを降りたけど、朽木さんに電話するには少し早かったのでコンビニで朝食をとって6時半に電話をして7時に合流することにした。
朝日町の国道は道路も駐車場も広々としていてすぐに気に入った。天気は曇っていたが、窓を開けると木や田舎のいいにおいがして早朝と言うこともあり風が本当にさわやかだった。みんなでいいにおいだと口にしながら桃の木だとかラフランスがあったとかいいあった。途中にあったローソンプラスで止まって朝食と昼食を買った。私は初めて入ったけどローソンプラスと言うのは食事コーナーがついているものらしく朝ごはんを買ってそこで食べた。コーヒーも飲んで優雅な朝ごはんだった。北尾君はカツ丼、クリケンはカツがある弁当、沢子は納豆とネギトロの巻物、私はチキンのパスタを食べた。昼ごはんは沢子と散々まよった挙句、時間もあるから途中の水場か小屋で味噌ラーメンを作って食べることにした。100円のしいたけとシメジと6個入りの生卵も買ってすき焼きに使うことにした。
6時半まで1時間弱時間があったので、先に行ってもよかったけど運転してきた二人に寝てもらう時間にした。私と沢子は外でのんびり準備をしていた。この頃になると何台もの車が集まって「ここは一大社交場ですね」と沢子が言っていた。
6時半に朽木さんに電話して、自宅前の朝日町役場についたらまた電話すると伝えた。40分に出発して7時5分前に朝日町役場についた。駐車場に入って電話すると私たちが駐車場に入るのを見ていたらしく、そこで待っていてください、すぐ行きますと言った。助手席を空けて待っていると手ぶらの角刈りっぽい黒いランニングのおじさんが前方から歩いてきたのを誰かが見つけた。朽木さんには前日車を変更したクリケンの車種とナンバーを伝えておいたのだが、迷うことなく車に向かってきた。私の第一印象としては、声よりもすごく若いと思った。ランニングを着ていた腕が日焼して働き盛りな感じがしたからかも知れない。朽木さんが運転してくれると言うので心の中でクリケン良かったね、と思った。私は6月位から何回か電話でやり取りしているけどその間お互いの電話番号と苗字しか知らないでいたからいろんな聞きたいことがあったけど、寝ていなかったみんなは即行眠りに入った。しばらくはずっと無言で過ごしたあと、朽木さんがなにかを私に質問したのをきっかけに、みんなが急に話し出した。特にクリケンは朽木さんが気に入ったのか知らない人に対する心遣いなのかわからないけど、帰りの時なんかも朽木さんとは積極的に営業トークのような世間話を繰り広げていたように思った。
朽木さんは天然のきのこ採りを本業としているらしい。毎日山に入り、料理屋に下ろしたり自分の家で出したりしている。家は居酒屋もやっている。山形生まれで就職で数年間鶴見で自動車関係の会社で働いた後山形交通で観光バスの運転手をしていた。18歳の時から山を始めきのこ採りが大好きだったことから40歳の時にサラリーマンを辞めきのこ採りを本業にした。採ったものを店に出すためにちょっとした居酒屋をしているらしい。現在60数歳で、山を始めてから40年の間に熊には7回会ったらしい。他に2回死に掛けたことがあり、それはスズメバチに刺された時だ。7箇所刺され、朦朧としながら山を下りて運転をして家に戻ってきた。よく事故にも会わずに戻ってきたものだと行っていた。スズメバチに刺されたらとにかく走ったり焦ったりしてはいけない、脈が上がるとすぐに毒が回って心臓とかが止まってしまうんだって。野生の熊は目つきも毛並みも全然違うらしい。目つきは鋭く、毛並みは「べがべが」しているんだって。そういう、熊や蜂という危険といつでも直面しているということから「きのこ採りは自分との勝負だ」と言ったことに、沢子がすかさず「かっこいー!」と褒め称えた。このフレーズが相当気に入ったらしい。沢子に限らず、短い間での朽木さんとの質疑応答で、素朴な人柄をみんなとても気に入ったらしかった。
最近あった東北での地震の関係で道を迂回して石ころの林道やコンクリートの道を走っていった。どおりで運転が上手なわけだ。細い道のすれ違いもクネクネ道もすっごくスムーズで運転が上手だなと思っていた。私はおじいちゃんだと思っていたのでクリケンの8人用の車が運転できないと言ったらどうしようと心配したりもしたが、朽木さんはどんな車が来てもだいたい大丈夫と言っていた。観光バスを運転していたなら安心だ。
朝日鉱泉には予定通り8時ごろ着いた。天気はさっきの曇りから晴れて、明日泊る大朝日小屋が見えると朽木さんが教えてくれた。待ち合わせの時間を15時から14時に変更して別れた。朝日鉱泉のご主人は、うちの宿に泊まらないなら車を移動してくれと柔らかいけど冷たい感じで言った。駐車したまま入山したわけじゃなくて代行でもってってもらうから今止めただけだから、と私に説明する隙も与えない感じで。その後奥さんらしき人が、代行で来たのね、とフォローしていたけど。沢子が見ていたところによると、朽木さんが隣に止めていた車の入山者に代行しますよと営業していたという。私は名刺など作ってあげたいと思った。