奥多摩日原で美味しいごはんと一石山と金袋山と小野さんと登山。
ハーフのかわいい20歳の女の子と。
しばらく山は登らん、と思っていた頃小野さんから連絡があった。いや、たしか僕から数ヶ月ぶりのメールを返信したか。まあいいか。
内容は「丹沢にハーフのかわいい20歳の女の子と3人で登らないか」という刺激的なものだった。 丹沢は雨、というイメージがあるし3人だし夏で暑いし山小屋だし面倒だなとも思ったが、「ハーフのかわいい20歳」というキャッチーなフレーズは僕の心を掴んだ。
しかしそれはあっさりとなくなった。結局そのハーフのかわいい20歳が来られなくなったのだが、理由は怖いので聞いていない。おっさん2人と山に行くのはいやだ、という解答なら怖すぎる。
しかし後ほどで写メを見せてもらうと、小野さんの言う様にかなりの美女であった。残念だけれど、まあそれはそれでしんどい登山になったと思う。やっぱり山は気の知れた者同士が楽だ。
というわけで小野さんと二人の登山。
しかし、小野さんと登る山を選ぶのは難しいのだ。
僕の場合、最近は100名山に登っているので決めるのはたやすい。しかし、小野さんは基本的にそう言った山を好まない。いや、好むも好まないもどんな山か知らないし興味もないだろう。人が多い山が好きではないのだ。
それとバリエーションルートなどのアドベンチャーを好む傾向にある。ついでに、どんな山に登りたいとか、いやむしろ山頂に到達したいとかそんな感覚すら持っていない。本人はきっと、ただ踏み跡の少ない登山道でコンパスと地図を頼りに山中をウロウロしたいだけなのだ。どんなのに登りたいんすか?と尋ねると「楽しいとこ」と答える人なんだ。
そんなわけで、山登りに行くというよりは、冒険を1から作りあげるという様な感覚なので、小野さんとの山選びには時間と手間がかかる。
前日に2時間以上の議論をした結果、奥多摩の雲取山に行くことになった。お祭りのバス停から林道を自転車で走り雲取山の麓まで行くというテーマを考えた。過去に林道を自転車で走りたいね、とを話していたので、それをやってみようかということになった。
ちなみにいつも電話でどこの山に登るか相談するのだが、お互いに地図を開いてここはどうだ、無理か、なんて話しをする。その時はだいたい点線のバリエーションルートを探す。バリエーションルートなんて需要のないものを探して、しかもアクセスに都合が良いところなんかを探すからなかなか見つからないのだ。電話でひたすらあーだこーだなんて話す。だから2時間は軽く経ってしまう。
しかしその、「奥多摩の林道を自転車で走る」という案も出発の日になくなった。台風が来るとかなんとかで雨が振りそうだったのだ。そのためにチャリは邪魔だということになり、ついでに雲取山に登るという案も消えた。お互い特に登りたい山でもなかったから、簡単に意見を変えることができる。フレキシブルで融通がきくのは良いことだが、何でもありなので決断が遅い。
結局、奥多摩の「金袋山」という地図で目についた良くわからない山に行くことになった。タワ尾根という途中にある小さな山で、一応バリエーションルート上にある。どんな山でどんなコースだかさっぱりわからなかったけど、僕らにはそれ以外の代案もなくそこに行くことに決めた。
日原鍾乳洞の駐車場でキャンプ
奥多摩は日原鍾乳洞の駐車場に到着したのは夜8時頃だった。一車線の道路脇にある沢沿いの駐車場で、両サイドを山に挟まれた狭い場所だ。沢の音がよく聞こえる。目の前には神社がありやや雰囲気があるが、2つある外灯のおかげでそこまで怖くない。でも1人では絶対にいたくない場所だ。そして、星が良く見える。奥多摩でこんなに明かりがあっても星が見えるのだと感心した。
小野さんは面白い人だ。最近は登山よりむしろ、この駐車場でキャンプをするのが楽しみのようでテンションがあがっているのがわかる。
テントを張り地べたにマットを敷き僕らの宴が始まった。
夜ご飯のメニューは三元豚の焼き肉、野菜炒め、ツマミにはアジのみりん干し、フリーズドライの玉ねぎスープ、そしてご飯を1.5合炊いた。ほとんどの食材は福生で立ち寄ったスーパーで購入した。
ご飯を水につける間、スーパーで購入した網でみりん干しを焼いた。腹が減っていたのだ。ちなみにスーパーで売っている網は僕のお気に入りだ。アウトドアで魚を焼いたりパンを焼くことができる。値段も300円とやすい。
みりん干しは、期待したほど美味しくなかった。旅館などで出てくるものはもうちょっとさっぱりして美味しいと記憶していたのだが、購入したものは味気なくやたらみりんがネチョネチョして食べづらかった。小野さんがししゃもを推していたのでそれに従うべきだったと反省した。
そんな事をしながら僕らは酒を飲み、そして焼かれた魚の写真をパシャパシャと撮った。特に何でもない絵だけれど、きっと僕たちは魚が網で焼かれている姿に興奮していたのだろうと思う。奥多摩の奥の日原の暗い駐車場で、モクモクと白い煙を立てているのだ。それだけで面白い。
みりん干しを2枚ずつ食べ終えると、今度は三元豚をツマミに焼いてみることになった。バジルソースで味のついた三元豚だ。
ガソリンストーブの火力を上げ厚切りの三元豚を網に乗せるとジュワーという音が心を突き刺した。しばらくすると肉から油が滴り高い炎が上がった。香ばしい匂いをたっぷりに含んだ煙も高々と夜空に吸い込まれた。
肉を裏返すと程よい焦げ目がついていおり、僕らは声をあげて喜びそしてシャッターを切った。
こんなおっさん達だから他に人がいなくて本当に良かったと思う。周りに人がいたら萎縮してしまいここまで開放的にはなれなかったろう。
人のいないくらい沢沿いの道でおっさん二人が肉を焼いて喜んでいる。その姿を客観的に見てみるとすごく愉快な気持ちになれた。
三元豚のうまさには驚いた。バジルソールがかかった肉で柔らかく、焼肉屋で食べても良さそうなレベルだったろうと思う。しかし豚肉のパフォーマンスが良かったというのもあるだろうけれど、購入した網の良さもあるだろう。フライパンではこうはならない。もっと肉を買えば良かった、と僕らは反省した。
ご飯は美味しく炊け、肉のバジルソースを和えた野菜炒めもシャキシャキとして美味しかった。完璧な夜ご飯で幸せになれた。
小野さんとは今までに何度か夜ご飯を作った。焼きそばライス、肉野菜炒め、コンビニの肉じゃがを炒める、などなど。その中でも今回のご飯は群を抜いて美味しかったし、完成度も高かった。小野さんは今回の目的の7割は達成した、と言った。
食後は酒を飲みながら網でみりん干しを焼きながら、小野さんと色々と語り合った。いや、語り合ったと言うのは少しおしゃれ過ぎるかもしれない。お互い酔っ払って、恋話、音楽、そしてひたすらゲスな話しを好き勝手に話し合っただけに過ぎない。神社の前でひどい会話だ。
また小野さんと言えば、気を抜けばアニメの話しをしそうだったのでそれを僕は牽制していた。
小野さんはアニメが好きである。一般的には敬遠されていると思われる、目が大きくて女の子ばかりでてくるアニメが好きな様だ(目が大きい女の子ばかりのアニメだけではない、と後日連絡あり)。
なのでアニメの話しをしだすと尽きない。少しくらいなら特別につらいものでもないけれど、長くなるといささかきつくなるし、そうなった頃には小野さんはノリノリなので僕はもう流されるままでいるしかない。
でもこれはアニメの話しに限ったことではなく、例えば山の話しを延々とされたって、興味がなければ誰でも困るものだ。
付け加えておくと、僕はアニメに対して偏見を持っていないと思う。アンパンマンもジブリも目の大きい女の子達もアニメであることには変わりがないと思う。むしろアンパンマンの方が世界観的にはクレイジーだとも思う。そして小野さんの様に、他にもアニメ好きのナイスガイが僕の友人にはいる。
実際、彼らが薦めてくれたアニメをツタヤでDVDで借り家族にばれない様漫画喫茶で最後まで見たこともある。それだけ素晴らしいのであれば目を通さなければならないし、自分なりの意見を持たねばならない。初めは抵抗があったけれど、見続けるうちに慣れ、そして最後は号泣した。感動できるものは形がどうであれ感動できると学んだ。
けれど残念なことに、彼らの様にアニメにハマることができなかった。実は僕はオタクと言われる人たちが羨ましく思っていた。例えばアイドルの場合ならペンライトをふって思いっきり叫び、グッズを買い集める。それだけ没頭するものがあればさぞかし楽しい人生に違いないと思っていたが、どうやら素質がないようだ。というわけでそれ以来そう言ったアニメを見る機会はない。
小野さんは本当に見ていて楽しい。
奥多摩の奥の日原の暗い夜道で、スマホでアニメの音楽を流して歌って踊っている。ちょっとハゲているけれど少年を見ている様で嬉しくなる。こんなに無邪気な大人を僕は知らない。結婚はできないな、と思いながら酒をぐびっと飲む。
ちなみにこんだけ書くと小野さんの立場が悪くなりそうなので付け加えるが、僕が知る限り小野さんは頭が良く立派な人で、僕よりも遥かに大人で常識人で尊敬する先輩だ。そして音楽を作らせたら天才的だ。
そして僕らは三時半頃ねた。
が、結局その後2時間くらい眠れなかったし、小野さんも全然寝れなかったと言っていた。
一石山・金袋山登山
7時半頃に起きただろうか。旅の者がバイクで横を通る音で起きた。
朝ごはんはストーブでトーストを焼き、スーパーで買っておいたコロッケを乗っけて食べた。小野さんは大量のビールと芋焼酎を飲んでいたので、酒臭くてかなり老けた感じになっていた。
金袋山には神社の方へ階段を登っていくのが登山口になる・・・
と、いう感じでいつも通り登山の日記を書こうと思っていたけれど、特別に書くこともないので端折って書こうと思う。
神社からの登山道は、尾根への取り付きという感じでかなり荒れていた。道幅は細いし枯葉で埋もれた様な道、しかも傾斜もかなりあり踵が痛くなった。しかも脇道もちょこちょこあってバリエーション感はすごくてテンションがあがった。
しかし尾根に乗ってしまうと急に登山道は広く緩やかになった。よくある樹林の尾根だけれど開放感があって気持ちの良い尾根でどこまでも歩きたくなる。
いい山だ、なんて思っていたけど、どこまでも歩く間もなく飽きてしまった。歩けど歩けど絵変わりしないのだ。同じような樹林がずっと続いている。
という訳で、微妙なピークを3つほど登って下りることにした。余裕があればさらに先まで歩いてみるつもりだったけれど、これ以上歩いても景色が変わることはないだろうということになった。そして僕らは颯爽と山を下り、金袋山登山は無事、遭難することなく終わった。
あっさりと登山日記を終えてしまったけれど、前日のキャンプが一番盛り上がったし、登山はいたって普通。むしろ僕らの話題はスズメバチだった。
ハチ。スズメバチだろうと思うが、彼らがとても鬱陶しかったのだ。休憩をする度に大きな黄色いハチがブーンと嫌な音を立て寄ってきては僕らを調査する。いなくなるだろうと思ってもいなくならない。しょうがないから僕らはその場を立ち去って、また適当な場所を見つけては休憩をする。すると同じようなハチがやってきては僕らを調査する。
そんな事を休憩の度にされるもんだから昼ごはんも食べられなかったし、落ち着いて休憩をすることができなかった。ハチというのはどういう習性なのだろうか。ほっとけば何もしないなんて言うけれどそうもいかない。彼らは武器を持っているんだ。殺られる前に殺ってしまおうか、といい加減殺意が湧いてきてしまう。
下山後はせっかくだったので、山の中で食べる予定だった昼ごはんを作って食べた。トーストを焼き、生ハムと裂けるチーズと、そして焼いたサラミを乗っけて食べた。少し塩辛かったけれど、スペインで食べたボカディージョニを彷彿とさせた。そしてまたブーンと黄色くて大きいハチが飛んできた。僕と小野さんはごめんなさい、何もしません、許してくださいと言いながら逃げた。
一石山と金袋山。冒険的な感じではなかったけれど、
面白い小野さんと、美味しいご飯と、少しの山歩きと
とても充実した時間を過ごすことができた。
読み返すとお腹が空いてくる。