トレッキング2日目 ミルフォードトラック日記 ⑨
2011年1月14日金曜日。ミルフォードトラックでのトレッキング2日目。朝は6時前に起きた。荷物のパッキングをさっとすませ、約束した時間の6時20分にジェームスに声をかける。あと10分寝かせて欲しい、というのが彼の答えだった。しょうがないので一人で先に食事を摂ることにした。
食事は毎朝食パンの予定である。ジャムなど何もつけない食パンで、暖かいコーヒーを浸して食べる。パンはなかなか美味しくて気に入った。せっかくの機会なので、昨日ジェームスが仲良くなった3人組の若者グループと食事を摂る事にした。多分みなオーストラリア人だろう。みな優しく僕に話しかけてくれる。男性のクリスは日本に4度も来て日本語を学んだ経験もあるという。ひらがなもいくつか知っていたし。「電波衝突」と書いた素敵なTシャツを着るほど日本が好きなようだ。もう一人の女性も数回日本に来ているという。仙台、東京、大阪、神戸、高山、など色々なところをまわっているようだ。彼女は家庭科の教師をしているようだ。もう一人とはあまり会話を交わさないが、いつも笑顔な素敵な女性である。そんな和やかな雰囲気の朝食を楽しんだ。
空は真っ青。しかし寒い。息が白い。今日は6時間も歩く予定なのでなかなかハードだ。日本人の6時間とニュージーランド人の6時間の差はどれくらいあるだろうか(登山の歩行予定時間)。
ようやく準備が終わったジェームスと一緒に歩き始めた。
良い天気だ。ジャケットを着て歩いても暑くないちょうどよい加減。川沿いの道をてくてくと歩いた。昨日ほどジェームスとの会話はない。質問に尽きたのだろうか、静かなウォーキングを楽しみたいのだろうか。
川の色は淡いグリーン。透明度も高くきれいである。大きな魚が捕らえてくれと言わんばかりにゆうゆうと泳いでいる。森は手付かずの自然で苔むしている。グリーンにまみれている。水が豊富な地域であることを思わせる。川の左岸に山が見える。切り立った山で、壁はすごい角度だ。
森に入ったり、山と山の間を歩いたり、そしてまた森に入る。そんなパターンを繰り返しながらどんどんをミルフォードトラックを進んだ。途中途中止まっては写真を撮りながら歩いた。ジェームスとちょこちょこ話しながら。
似たような変化の乏しい道が長く続いて飽きることもあるが、たまに素晴らしい景色に出会える。視界が開けて山が良く見える時だ。空が青く、広くて高い壁がみごとである。壮大というのだろうか、スペクタクルな景色である。こんなところでゆっくりとキャンプができれば最高、だと思った。
ミルフォードトラック2日目のこの道は、終盤になるときつくなり始めた。高低差はほとんどないのだが、なにぶん距離が長いので疲れる。しかもラストスパートに登りを持ってくるのでなかなか大変だ。登りのしんどさもそうだが、暑さが厳しい。歩く時間を間違えているようでお日様はちょうど真上にあるし、そして樹林帯歩きも減ってゆく。いつもの様に、この角を曲がればハットがある、ここを登ればハットがある、と常に希望を持ちながら歩いた。
ジェームスの顔は真っ赤であるが大丈夫だろうか。彼のために止まってあげたいが、暑いので進み続ける事を選んだ。そしてとうとうハットに到着。ミンタローハットである。Mintaro Hut。ここのハットも概ね施設は昨夜と同じである。若干形状は異なるが、クリントンハット同様にきれいにされている。ハットに到着すると、ジェームスはダッシュでトイレに駆け込んだ。30分くらいでてこなくて心配した。うんこをもらしたのではないか、という疑いが今も晴れない。水の飲み過ぎで腹をやったようではある。
夜飯まで時間があるので、一緒に歩いているトレッカーの人々の事を書こうと思う。
装備のこと。ほとんどの人は山のまともな装備を持っていないと思われる。ジェームスに関して言えばハイキング用の靴だし、あとは綿の上下である。バックパックと寝袋はあるようだが、それ以上の装備は持っていないようだ。米を持っているのに鍋は持っていない。 他の人は名もないザックか、一番めだつのはドイターのザック。しかし誰もまともに背負えているような人もいないし、そしてサイズもあっていない気がする。トレッキングシューズを履いている人も全体の半分くらいである。明日は雨が降るというが、みんな準備はあるのだろうか。
どこの国の人が多いのだろうか。ジェームスから話を聞いているとオーストラリア人が多い気がするが、スペイン語らしき言葉も聞こえるし、それ以外の国の言葉も聞こえる。日本人らしき男性はいるが、彼は日本人なのだろうか。中国人だろうか。
食後は昨日と同じ様にDOCのスタッフによる話があった。しかし今回は天候の話をするだけで短く終わった。理解はできなかったが、少しは理解しやすい英語を話している様な気がした。そう、スタッフの話の前には、オーストラリア人が僕に英語を教えてくれた。僕がWhat is this?と尋ねるとみんなが英語で教えてくれる。とても嬉しかった。その後はオーストラリア人と数人でミンタロー湖を見に行った。
サンドフライの数がものすごくて立ち止まっていることができなかった。立ち止まると40~50匹くらいが遅いかかってくるのである。 ミンタロー湖から見る山の斜面は壮観だった。クライミングで登る様な切り立った壁が視界の端から端まであり、ダイナミックだ。サンドフライさえいなければいつまでもここで楽しみたい、と思った。
ふと思うとすごく不思議である。夢の中にいるような気がする。外人達に囲まれて山の中にいるのだ。自分のいる状況に現実味がない。そして一日もえらく長く感じる。もう何年も同じ事を続けているような、そんな感じもする。 (1/14 end)