祖母山登山② 祖母山を登りそして九重へ
あらすじ:九州の百名山、阿蘇山・祖母山・九重山・霧島山・開聞岳を一気に巡る旅に出ました。阿蘇を登り祖母山へ到着するも雨で1日停滞。そして翌日、駐車場で出会った藤井さんと祖母山を登り始めました。
祖母山の山頂と下山・ドラマチックなコース
2013年の4月18日木曜日。九州の百名山を巡る旅3日目。
ー 祖母山の九合目 ”あけぼの山荘” ー
祖母山の九合目にある山小屋 ”あけぼの山荘” に到着した。中を覗くと薪ストーブやらコタツがあってすごく快適そうだ。週末は管理人さんがいるが平日は無人で営業しているらしい。今の季節は2300円と料金表にある。こんな素敵な場所で1日を過ごしてみたいものだ、と思う。
水場も小屋から近く大量の水を汲むことができた。これで水不足は解決された。
そしてあけぼの山荘から15分ほど熊笹をかき分けて登れば祖母山の山頂に到着。やっと山頂だ。でもやっぱり、ガスが出てきて何も見えない。あと1時間早く山頂に着いていれば眺望を楽しめたかも知れない。残念。
藤井さんは山頂に到着する登山者みんなに話しかけていた。年配夫婦の奥さんには「今日僕がみた笑顔の中で一番でしたよ」と話しかけていた。本当に人と話すのが好きなんだなあ、コミニュケーションをとるのが上手だなあ、と関心した。そして僕に温かいコーンスープとコーヒーをふるまってくれた。安いパンをひたすらかじり続ける寂しい昼飯だったのでありがたかった。
「黒金山尾根を下りますか? 私も黒金山尾根の方に下りたいんだけど、道が急だからどうやって下りるか見せてくれませんか?」と、あるおじさんは僕らに尋ねた。黒金山尾根への分岐は山頂から出ているが、見ると確かに崖を下る様な感じになっている。むしろ本当に登山道か?と疑ってしまう様な崖だ。おじさんが不安になるのもうなずけた。
そんな彼に見守られて僕らは下山を開始した。
僕は壁をクライミングしながら下り、藤井さんは巻いたような道を選び下った。壁のような斜面は短い間だったけれど、それでも下りはかなり危険だ。この道は登りに選ぶべきだったんじゃないだろうか?下山開始から先行きが不安になった。
そしてその後も危険な箇所はいくつかあった。はしごやロープもあった。ほんとに険しい登山道だ。
そして岩場が終わると恒例の熊笹ロードが始まった。しかも今回は、登りより熊笹の密度が濃く道が細い。すぐ先にいるはずの藤井さんの姿も見えない。そんな道が長いこと続いた。道にせり出している熊笹がバチバチと顔に当たった。
今日は2人だからいいけれど、ここを1人で歩いていたらものすごく寂しい思いをしたに違いない。しかも雨なんか降っていたら悲しくて悲しくて仕方がないだろう。昨日登らなくて本当に良かった。
縦走路から黒金山尾根に入ると熊笹ロードは終わる。そして巨木が立ち並ぶ尾根を下った。黒金山尾根。細くて急な尾根だけれど、とても気持ちの良い尾根で気に入った。ツガなんかの針葉樹の巨木もかっこいいし、ところどころ眺望を楽しめる場所もある。僕らがぐるっと歩いてきた尾根を見渡すこともできる。そしてこの時期、アケボノツツジや椿の花も美しい。時折の風も心地良い。
しかしそんな素敵な黒金山尾根の下りは長く続いた。そしてこっちを下って正解、という結論に至った。
山頂付近では黒金山尾根を登るべきだったかなあ、なんて考えたけれど、これが登りだったらかなりしんどいに違いない。だってこの長い急な尾根を登り、終わったと思ったら熊笹ロードが続き、そして最後にはあの岩場だ。山頂ではげっそりだろう。ハードなコースと書かれていただけはある。よかった。
ゴウゴウと大きな音が聞こえ始め、尾根が急激に沢に落ちると黒金山尾根は終わる。そして”川上渓谷”に辿り着いた。
川上渓谷。ここらは ”森林浴の森100選” という良くわからないものに選出されているらしいが、確かにものすごくいいところだ。水がきれいで緑が生き生きとしている。半分に切ったレモンを思いきり握りつぶした様なフレッシュ感。ぜんぜんうまく表現できないけど。
しかし今回歩いた祖母山のコースはなんてドラマチックなんだろう。激しい登山のラストにこんな癒しの空間が用意されているなんて。なんというか、ものすごく上等なフルコース料理を味わった様な気分だ。もうこれ以上は何もいらない。満足感がすごい。
尾平から登る祖母山のコースはきついけど素敵だった。駐車場に向う道すがら、そんな話しを藤井さんとした。
特に僕らの頭から離れなかったのが馬の背から眺めた祖母山の姿だ。馬の背の岩壁にアケボノツツジ、その向こうには青空と祖母山。考えると、その最高の瞬間を味わうためだけに祖母山に登った様な気もしてくる。
祖母山は他の九州の百名山に比べると、遠くてきつくて地味で特徴もなくてハイカラさもないと思う。2回は登らなくていいなあと下山後は思った。けれどあの馬の背から見た景色は時間が経っても頭から消えることはなかった。そしてそれを思い浮かべる度、不思議とまた祖母山に登りたくなった。祖母山はそんな山だった。
このあと九州の百名山、宮ノ浦岳以外は全て登ったけれど、その中で一番印象に残ったのはこの祖母山だった。
そして駐車場に到着、14時。
駐車場に到着するとサササと着替え、藤井さんと連絡先を交換して尾平をあとにした。僕はこれから九重にむかう。
九重への旅、キャンプ場探しに苦戦
昼間の山道のドライブは優しかった。ウネウネと上り下りを繰り替えすので集中はするが、それでも穏やかに、むしろ気持ちよくドライブができる。墓を見て鳥肌が立つことも、そしてムササビもシカもいない。ハッピー。全ては夜に運転したのがいけなかったのだ。
途中、道の駅 ”原尻の滝” がなにやら賑わっていたので立ち寄った。チューリップ・フェスティバルなるものをやっているらしい。大きな観光バスも停まっている。
しかし特別にやることもなく、のんびりするには時間もなく、チューリップの写真を2枚撮るだけで去った。それにしても天気が良くて暖かくて気持ちがいい。それに1日と半日くらい祖母山にいたから、ひらけて開放感のあるこの世界が最高に気持ち良くて嬉しくなる。溶けてしまいそうだった。
くじゅう連山の南、久住高原の牧場辺りだろうか、その辺りからはくじゅう連山が良く見渡せて、車を降りては何枚も写真を撮った。 その後ナビに導かれるまま”久住高原ロードパーク”という名の500円もかかる有料道路を無駄に走った。悪くはないけど500円は高いなあと思う。九重山も近すぎて良くみえないし、効率で言えば下道の方がいい。また展望が良い駐車場に降りたものの、ゆっくりすることも出来なかった。僕はこれから今日の寝床と飯と温泉を探さなければならない。豪華なご飯を食べ温泉に入る、これが今日の課題だ。
やまなみハイウェイ(無料で素敵)を登り、しばらく迷ってお目当てのキャンプ場”くじゅうやまなみキャンプ村”に到着。管理所に行き料金を尋ねると「4200円です」と受付の人は言った。「じゃあいいです」と僕は言い返した。
なんてことだろう。持ち込みのテントで4200円なんてありえない。4200円も払ったら駅前のビジネスホテルで一泊できるし、田舎に行けば温泉と1食付いてくる場合もある。こんな屋根もない寒空の下で寝かせといて4200円はないだろう。しかも僕の場合は山岳テントだ。キャンピングカーで来て巨大なタープを広げ、その下にゴージャスなリビングダイニングを作り無駄にでかいテントを張る。おまけにキッチンも作る。そうやって坪数を使っているのなら4200円もまあ許せることなのかも知れない。けれど僕のテントは畳1.5枚分くらいなのだ。料金表に「山岳テントで野営、800円」と入れてくれないものか。
ひとしきり文句を頭に思い浮かべ終わると、気を取り直して登山口である”長者原”の駐車場に向かった。キャンプ場は諦めて駐車場でテン泊だ。
しかし長者原の駐車場には”テン泊禁止、火気もだめよ”と大きな看板が立っていた。まじか。さすれば飯でも食って一旦落ち着くか、と駐車場に隣接している食堂に行くも営業時間は終了。寝床も温泉も、そして豪華な夕食も食べられずひどく惨めな気分になった。祖母山を下りてから間食をせず我慢をしていたので悲しくなった。
無人の九重グリーンパーク泉水と露天風呂
再度気をとりなおし、少しだけ離れたオートキャンプ場 ”九重グリーンパーク泉水キャンプ村”に電話をかけた。すると営業していると言う。料金は2700円、そして露天風呂もついていると言う。今から行きます、と興奮して電話を切った。4200円のあとの2700円は安い。豪華な晩御飯は諦めてまた自炊だ。
初のオートキャンプ場。受付時間的なものは終わっていたが入れてくれた。しかも客は僕一人。その僕一人のために受付のラグビーシャツを着たおじさんはあれこれ良くしてくれた。温泉も夜10時まで入りたい放題。僕一人のために鍵を開け、僕一人のために締めてくれる様だ。感激。
受付が終わるとテントを張る場所を決めるためキャンプ村を車で走ったが、あまりの広さに驚いた。どこにテントを張ればいいのか迷ってしまう。そして周りを見渡してもやっぱり誰もいない。テッテッテと変な歩き方のタヌキと、首をカクカクさせながら歩いているキジの様な巨大な鳥しかいない。思わず、超ウケるんですけど、と言うフレーズが頭に浮かんだ。
お米を水につけると暗くなる前に温泉へ急いだ。そして温泉は本当に露天風呂だったので笑えた。湯に足を入れると気持ちが良くて震えた。下山後の温泉は素晴らしすぎる。無駄に平泳ぎをしたり浮かんだりした。空には半月が浮かんでいた。
ついでに5日間くらい着続けた服とパンツを洗った。姉にもらった固形石鹸は驚くほど汚れを落とした。
しかし露天風呂で裸で服をゴシゴシと洗っている僕は男らしく見えるに違いない。しかも誰もいない九重の広大なキャンプ場でだ。そんな姿を客観的に空から見てみると面白かった。
そしてまた湯に浸かり、出ては頭を洗ってまた湯に浸かった。自由だ。誰もいない。楽しい。一人にも慣れたもんだ。
何かと忙しい。風呂から戻るとテントの中で米を炊いた。今日こそは美味しい米を食べるぞ、と本気になった。
1時間は水に浸けたし、目を逸らさずに火の加減を見守った。そして寝袋の中で保温した。完璧の調理だ。そして出来も85点くらいで満足。米がうまく炊けると僕は幸せになる。僕が幸せになれば世の中が平和になる。これは何度も米を炊いて思ったことだ。
夜ご飯のメニューはラーメンライス。米一合とカップヌードルのビッグは量があり大変だったけどなんとか平らげだ。全ては米なんだ。誰も推奨していないけれど、米だけはテントの中で炊かなければならない。
食事が終わると食器を洗って歯を磨いた。そしてその後はゴミの片づけをした。受付でゴミ袋をもらったから、今まで所有していたゴミを全部入れた。キャンプ場のゴミ箱に捨てることができるのだ。素晴らしい。そしてパソコンで日記を書いている。忙しくてゆっくりする暇なんて全然ない。
今日の最後に、九重は本当に良いところだと書かなければならない。
久住高原ロードパークが500円で高いとか食堂がやってなかったとかキャンプ場が4200円で高いとか色々書いたけれど、それらは事実だけれども、九重は本当に良いところなんだ。歩いても止まっても、車を運転しているだけでも気持ちがいい。ひらけているし、いつでも雄大なくじゅう連山を眺めることができる。正直バカンスに来ている様な気分にもなっている。
休みの日、九重は駐車場を探すのが大変なくらい混んでいるという話しを聞いたけれど、それが事実だとわかった。こんな素敵なところならみんな来るだろう。
というわけで、そんな素敵な九重の地で僕は眠る。
そして明日は九重山に登る。晴れるといい。
おやすみなさい。