初心者のための登山とキャンプ入門

阿蘇山登山② 阿蘇に登り祖母山へ

阿蘇山の中岳の山頂から見た火口

あらすじ:九州の百名山、阿蘇山・祖母山・九重山・霧島山・開聞岳を一気に巡る旅に出ました。別府に到着した僕はレンタカーを走らせ、阿蘇山の登山口である仙酔峡駐車場へ到着しました。

阿蘇山登山 仙酔峡尾根を登る

2013年の4月16日火曜日。九州の百名山を巡る旅1日目。
ー 阿蘇山の仙酔峡尾根の駐車場 ー

仙酔峡駐車場からは2本の登山道が山頂まで伸びていて、一方はロープウェイ沿いの道。そしてもう一方は仙酔峡尾根を登る。「仙酔峡尾根はバカ尾根とも呼ばれ単調で急坂が続く」と山と高原地図にはある。確かに見上げると急な尾根が山頂まで続いている。僕は日本百名山登山ガイド(下)にしたがって仙酔峡尾根から登る事にした。登山開始。13時20分。

仙酔峡尾根の登山口付近では中国人観光客らしき人々がビニールシートを敷き宴に笑顔があふれていた。そんな姿をうらやましく思いながら取り付きの長い階段を登った。数時間後には僕もあんな笑顔になれるのだ。

そんな階段もすぐに終わりを告げ、その後繰り抜かれた様な登山道が続いた。道の感じもいつもと違うけれど、地面の色もいつもと違うところがあって面白い。九州にやってきた感があってすごくいい。楽しくなってきた。

仙酔峡尾根の掘られた様な道
繰り抜かれた登山道。雨の日はすごく汚れそう。

しかし焦っている自分もいて足早にもなっていた。だってこんな遅い時間から登リはじめる愚か者はいないだろうし、どっちかと言うと僕が着いた頃にみんな帰っていった。けれど焦れば疲れるだけで何も良い事はない。落ち着け落ちつけと言い聞かせ、ゆっくりと歩を進めた。

しばらくすれば掘られ登山道も終わり、すっきりとした尾根道になった。
振り返れば駐車場が小さく見える。誰かが僕の車にいたずらをしていたらどうしようか。タスケテー!と叫ぼうか、それとも山を駆け下りようか。変に駐車場が見えてしまうのであれこれとつまらない事を考えてしまう。

そんな風に、車上荒らしを目撃した場合の対策を考えながら仙酔峡尾根を登ってゆく。地面がでこぼこで歩きにくいけれど、ガレていない分歩きやすいと言えるかもしれない。ゴロゴロの石は尾根にしっかりとくっついているのだ。慎重にゆっくりと登っていけば疲れることは無さそうだ。

標高も上がり開けてくると、尾根の左右に広がる景色の力強さに驚いた。何と表現したら良いのでしょうか。とにかく大迫力の眺めに圧倒される。
そして振り返ると阿蘇のカルデラ。盆地の向こうにはテーブルの様な外輪山が広がっている。不思議な景色だ。

仙酔峡尾根から見る駐車場
仙酔峡の駐車場と奥にはうっすらと外輪山
仙酔峡尾根の様子
仙酔峡尾根の様子。黄色いマークがたくさんでわかりやすい。
鷲ヶ峰
左をみるとこんな感じ。鷲ヶ峰ってやつだと思う
阿蘇山の様子
右を見るとこんな感じ。

登りはなおも続き、標高が上がるに連れ地面の色や岩の姿形が変化していった。そんな様子を見ながら思ったことがある。

ディズニーシーの火山ってモルタルでできているけれど、あんなものは所詮作り物で実際のものとはかけ離れているんだろう、と思っていた。けれど阿蘇山に登り阿蘇山の岩を実際見ると、ディズニーシーのものと瓜二つということがわかり関心した。

やっぱりモルタル造形ってすごいな。思い出してみると、僕はモルタルを使ってモノを作る人になりたかったのだ。木とか岩とか家とか、その他何でもリアルに作れてしまう。モルタル職人になり、家の机や本棚やパソコンやライトスタンドや窓枠やら、気に入らない全ての物を自分で作ってやろうと考えていた。そんな夢を持っていた。たった半月くらい。

そんな事やあんな事を考え続け、長い登りに完全に飽きたころ仙酔峡尾根は終わり、そして高岳の火口壁に辿り着いた。

火口壁から見下ろした火口の姿はとても不思議で面白かった。火口と言うにはなだらかで、荒れた広い丘の様な雰囲気だった。その向こうにはもやっとして曖昧だけれど、南の外輪山が水平に線を引いていた。
風が強いけれど気持ちがいい。どこを見渡しても誰もいない。こんな複雑で豪快で淋しげな景色の中に僕だけが一人ぽつんと存在している。すげえ、とついつい声を出して喜んだ。

阿蘇山から阿蘇市の眺め
登山中唯一すれ違った登山者(外人さん)をこっそりと撮影。
仙酔峡尾根の分岐から高岳東峰方面を撮影
仙酔峡尾根を登り終えたあたりからみた高岳東峰方面
阿蘇山高岳の火口
高岳火口の様子。伝わりづらいけれどすごく広い。写真の中心付近に小さな月見小屋が見える。

高岳の火口壁一周の旅と月見小屋

元気だったので高岳東峰を目指して火口壁をぐるっとまわることにした。

火口壁を時計回に歩きながら、山の斜面の絶壁に驚いたり外輪山を眺めては関心した。しかしすぐ、時間がないのに僕は何をしているのだろうか、と思った。けれど進んだら戻れない。まわってしまおう。

高岳東峰辺りから見える根子岳の姿はものすごくかっこよかった。クライミングをする様な山だと何かで読んだけれど、そんな感じの険しく尖った山で惹かれた。
車や予定や荷物や疲れがなければこのまま向かって行きたいくらいの気持ちになった。ちなみに根子岳までの尾根は豪雨の影響で使用中止、と看板に書いてあった様な気がする。

阿蘇山の火口壁から阿蘇市の眺め
阿蘇市(北側)の眺め
高岳東峰から見る根子岳
根子岳。高岳の東峰方面まで歩かないと見れない。
阿蘇山高岳火口の様子
高岳火口を東からみた様子。右手のぼこっとしたのが高岳の頂上。
高岳火口の登山道の様子
こんなのが面白かったけれど現象を説明できないのが残念。

高岳東峰からは火口の中にポツンと立つ「月見小屋」を目指して折り返した。
本当に誰もいないし、自分が見ている景色も今まで見たことのないものだから、とても不思議な気分でふわふわとしていた。日本でもないし外国でもないし地球でもない。そんな地にワープした様な気分だった。

月見小屋に到着すると、辺りを眺めながらゆっくりと一服した。月見小屋は小さな避難小屋で中を覗くとじめっとしている。ここで一晩明かすのは嫌だなあと思ったけれど、月見小屋なんて素敵な名前じゃないか、と思う。この荒涼とした地からポツンと一人、夜な夜な月を眺めることができたらどれほど素敵だろう。別の星から月を見ている気分にならないだろうか。

その後は火口の底の部分を歩いた。底は広くてガスったら怖そうだった。また周辺には小さくて緑色のこんもりとした山がたくさんあって、それがちょうど人を埋めた様なサイズで墓場を思わせた。全滅した村を訪れた気分になった。

火口の底から火口壁に登りかえすと、そこからは中岳を目指して歩いた。縦走路みたいな道が火口壁上にずーっと続いて、それがすごく気持ちがいい。けれど風が強すぎてたまんなかった。だから走った。

煙がモクモクと吹き上がる火口に近づいていくと中岳の頂上に到着。でも風があまりにも強すぎてそこにとどまることができなかった。なので中岳の火口がどんな風になっていたかとか、あまり良く見れていない。火星に作られた基地みたいだな、って思った事を記憶している。

阿蘇山高岳の月見小屋
月見小屋と墓場
砂千里ヶ浜に続く登山道の様子
たぶん、砂千里ヶ浜へ続く登山道。人の横顔に見える。
阿蘇山 中岳の火口
中岳の山頂から火口を撮影。人型に繰り抜かれたみたいで面白い。

仙酔峡ロープウェイ沿いに下山

さて下山だ。中岳の山頂には看板があり「中岳からロープウェイの火口東駅までの道は使用禁止」とある。なので僕は迂回路らしき道を下って火口東駅を目指した。

迂回路は何かしらのパイプに沿って続いている。けれど一見登山道の様には思えない。パイプに沿って黄色いマークが確認できるくらいだ。
また急な斜面ではあったけれど仙酔峡尾根よりは下りやすいだろうなと感じだ。けれど起伏の無いだだっぴろい山の腹をトラバース的に下るので、ガスったら即迷いそうだ。パイプが向かう方向だけが便りになるだろう。

火口東駅を見下ろしながら迂回路を下り続けていると、火口東駅やそこから伸びる凛とした道路が秘密の施設の様にも見えてきた。そこに侵入する密偵の気分になれた。山を越え谷を越えとうとう秘密基地を見つけた。そんな気分になった。

迂回路から見下ろしたロープウェイ火口東駅。
迂回路から見下ろしたロープウェイ火口東駅。秘密の施設の様だった。

しかしそんなのん気な考えも、硫黄臭さと風にすぐかき消された。
火口東駅までは下り道だけれど最後は登り返さなければならない。下山では風下になって硫黄の匂いがきつい。特に登りでは空気を思いっきり吸うので、この硫黄臭さには苦しめられた。なんだか喉も痛い気がしてきた。

火口東駅からの登山道は固められ整備された道だった。登りに使っていたら超悲惨で泣いていた事だろう。めちゃくちゃ長い階段もあるしかなり急な坂道もある。
けど辺りの景色は相変わらず不思議で素敵だった。終末後の地球を、生き残った人を求めてさまよい続ける旅人の気分になれた。かつてここで休暇を過ごした幸せそうなファミリーの姿が思い浮かんだ。荒廃した火口東駅やロープウェイの橋脚はそんな気分を盛り上げた。革ジャンを着たモヒカンやスキンヘッドの凶暴な大男達が、車に箱乗りでやってくる様な気がした。

色んな気分になれる山なんだなあ、と関心しながらテッテと道を下った。
そして車が1台しか停まっていない寂しい駐車場に到着。17時10分、無事に下山だ。

短い登山になったけれど、阿蘇山はすごく楽しい山だった。山の斜面の力強い模様も、上から見るカルデラも外輪山も、そして中岳の火口の風景も全てが新鮮だったし、まるで火星にでも旅行に来たような気分になれた。違う季節の阿蘇山も見てみたいと思った。

そして旅の初日に九州百名山の1つを登れたので嬉しい。好スタートだ。

仙酔峡の駐車場
別府の西石油でレンタルしたHONDA ZEST!ただいま。

祖母山の駐車場「尾平」へ向かう

さて、これから僕はどうすべきか、どこに向かうか。祖母山へ向かうか九重に戻るか、それともここで夜を明かすか。

この仙酔峡の駐車場にはトイレも屋根もあるし、おまけに自動販売機もある。テントを張って一晩過ごすのもありかなと思う。けれど夜な夜な走り屋が遊びに来たらうるさくて眠れやしないだろう。駐車場にはドリフトをしたタイヤの痕跡がたくさん残されているのだ。

明日は雨のち晴れ。恐らく山に登ることはできないだろう。かと言ってこのまま阿蘇で停滞しても何もやる事がないし、 雨の中祖母山に向かうのもいやだ。
じゃあどうするかってことで、考えるのも面倒になって、祖母山の駐車場「尾平」まで行っちゃうかってなった。今夜は尾平の駐車場で寝て明日は停滞しよう。

阿蘇の東の外輪山を、軽自動車のエンジンを車をうならせて登り、そしてそこからさらに東に向かった。下山後の夕暮れ時のドライブはフワフワして心地良かった。

腹が減ったのでジョイフルでチーズハンバーグのごはんセットを注文した。
そしてジョイフルで完全に日は沈み辺りは闇に包まれた。

ジョイフルから少し走ると車は山中に入った。しばらくは連れ添う車がいたけれど、1つ道を曲がるとその道を走るのは僕だけになった。それ以来車の光を見ることはなくなった。

そして大変なドライブが始まった。夜の山道のドライブは恐ろしい。時間の間隔が長くなり何時間も運転し続けている気がする。外灯も少ないし、通り過ぎる村の家々の光ももはや消えていた。
また音楽もかけていないので聴こえるのはエンジン音だけだった。なので僕は、即興の「自分応援ソング」を歌いながら車を走らせた。この暗くて絶望的な山道で自分を勇気づけるために歌った。不思議と歌うと心が落ち着いた。単調なメロディだけどなかなか素敵な歌詞が乗っかった。

道に間違って同じお墓の周りを3周したり、変てこな小さな獣が道を横断したり、鹿が2匹現れて目を光らせながらこっちを見ていたり、モモンガ的な奴が飛んできたりしはじめると、僕はもう歌を歌えなくなっていた。舵取りに必死だった。
あまりにも山道が終わらなくてたまに鳥肌が立つ事もあった。生まれてから今まで夜の山道を運転し続けている人生の様な気がした。自分の頭が恐怖想像マシーンとなった。来なければ良かった、と心底思った。

阿蘇から祖母山へのドライブ

そしてついに尾平の駐車場に到着した。真っ暗な道を走り着いた先は真っ暗な駐車場だった。僕を迎えてくれたのはとぼけた顔をした2匹の鹿だった。手を振り上げて威嚇して追い払った。

どこか素敵な光りあふれるところへ向かいたかったけれど、それも面倒なのでテントを張って早々に引きこもった。そして長い長い日記を書いている。

目を閉じても開けても完全な闇だ。
まわりのちょっとした音が気になって仕方がない。

暗闇にいる時は、しばらくじっとして闇に目が慣れるのを待つしかない。
そんな話が村上春樹の本にあった事を思い出した。

少し僕はこの闇に慣れた気がした。
早く眠れると嬉しい。