南アルプス 甲斐駒ケ岳登山の記録と日記
2012年7月の28日と29日。仙水小屋にテント泊をした1泊2日の甲斐駒ケ岳登山。距離はありませんでしたが、縦走スタイルでの1000メートル以上の登り下りになかなか疲れました。このページでは登山コースやアクセス情報と駐車場、コースタイムや用意した装備の事などを紹介しています。
甲斐駒ケ岳登山の情報
- 所在地:山梨県北杜市、長野県伊那市
- 山域:南アルプス
- 標高:2967m
- 百名山No:77
甲斐駒ケ岳登山の概要
日付 | 2012年7月28日(土)、29日(日) |
---|---|
日程 | 1泊2日 テント泊 |
登山コース | 北沢峠 - 仙水峠 - 甲斐駒ケ岳 - 双児山 - 北沢峠 |
宿泊場所 | 仙水小屋テント場 |
距離 | 8.4km |
北沢峠の標高 | 2030m |
甲斐駒ケ岳の標高 | 2967m |
累積標高 | (+)(-) 1168m |
駐車場 | 仙流荘駐車場(無料) |
水場 | 仙流荘、北沢峠、北沢駒仙小屋、仙水小屋 |
トイレ | 仙流荘、北沢峠、北沢駒仙小屋、仙水小屋 |
北沢峠へのアクセス
- 中央自動車道「諏訪IC」→ 国道152号 → 仙流荘からバス → 北沢峠
- 中央自動車道「伊那IC」→ 国道361号 → 国道152号 → 仙流荘からバス → 北沢峠
登山バス料金、テント場代
- 南アルプス林道バス(仙流荘~北沢峠)片道:1100円+200円(荷物代)
- 仙水小屋テント場代:1人400円
甲斐駒ケ岳・周辺の天気
リンク
北沢峠~甲斐駒ケ岳往復の参考タイム(山と高原地図より)
登り | 北沢峠 | 0:00 |
---|---|---|
北沢駒仙小屋 | 0:10 | |
仙水小屋 | 0:40 | |
仙水峠 | 1:20 | |
駒津峰 | 2:50 | |
甲斐駒ケ岳山頂 | 4:00 | |
下り | 甲斐駒ケ岳山頂 | 0:00 |
摩利支天 | 0:20 | |
駒津峰 | 1:20 | |
北沢峠 | 3:10 |
甲斐駒ケ岳登山の参考地図・資料
甲斐駒ケ岳登山日記
テラピーによる登山計画変更の申し出
2012年7月27日金曜日。首都高の渋滞にはまった東京発のJRバスは22時過ぎに御殿場駅に到着した。テラピーとの待ち合わせ。静岡に住む彼女と御殿場駅で待ち合わせをし、ここから車で南アルプスは仙流荘に向かう。仙流荘は南アルプス林道バスの発着所となっているし、規模の大きな駐車場もある、南アルプスの玄関口の1つ。僕らはその仙流荘の駐車場に車を停め、そこからバスで北沢峠に向かう予定だ。
そう、今回の登山の予定は、南アルプス林道バスで北沢峠に到着したのち、40分歩いて仙水小屋に行く。そしてそこでキャンプをする、というのが一日目の予定で、二日目は仙水峠から甲斐駒ケ岳に登り、双児山経由で北沢峠に下山をする、という1泊2日の登山の予定になっている。
テラピーと合流をすると、御殿場駅近くのジョナサンで晩飯を食べた。そこでは思いがけず翌日の登山の予定の話しになった。そしてテラピーは「なんで1日目は40分だけなの? もったいなくない?」と言う様な事を言った。
どうやらテラピーの所持しているガイドブックには、甲斐駒ケ岳と仙丈ヶ岳を1泊2日で登山をするコースが載っていて、それをやろうじゃないか、1日目の歩行時間がが40分なんてもったいないじゃないか、と言う事らしかった。
僕はカチンときた。なぜ今頃ジョナサンでそんな話しをするのか。前もってちゃんと予定を知らせているし、今登山の計画を変更してしまったら色々と面倒な事になる。登山届も書いてきたし、装備も計画にあわせて持ってきている。それに僕はテラピーの事を考えてこの計画を練った。初めてのテント泊で荷物も増えて大変だろうから余裕のあるプランで、そしてなおかつ喜んでくれそうな山にしようと。
僕は仙丈ヶ岳と甲斐駒ケ岳を1泊2日で登るプランの大変さを、出来うる限りアピールした。1000メートルの登り下りを2日連続はちと厳しいぞと。それでもテラピーは「大丈夫だと思う」と引かない。
彼女もそうだが、僕も負けず嫌いである。しかもこんな風にあっさりと「大丈夫」と言われると、逆に僕が怖気づいているようではないか。
よし、こうなったらやってやろうじゃないか。テンションも上がってきたさ。でもなテラピーよ。あとでヒイヒイ言わしてやるからな。あとで自分の発言をタンと後悔するがいい。そこで僕は言うだろう。「寺田よ、だから言っただろう」と。
そして僕らはジョナサンを出て車を走らせた。テラピーは夜道を軽快に飛ばした。少し急がなければならない。明日の最終までに仙流荘から林道バスに乗れば良い、と言う余裕のプランが、明日の朝イチのバスに乗らなければならない、に変わってしまったのだ。
しかし、しばらく車を走らせて話しあった結果、どうやら今夜、僕らはほとんど寝れないだろうと言う事がわかった。そしてあっさり「じゃあやめよっか」って事になり従来通りの予定に戻った。そして僕らは諏訪辺りで車を停め車中泊をした。今までのくだりは何だったのだろうか。
仙水小屋でテント泊
7月28日土曜日。仙流荘の駐車場には12時に到着した。諏訪からそこまでは国道152号で一本。テラピーがネットで調べてくれたように50分ほどで到着した。ちなみに諏訪から仙流荘へ向かう場合、諏訪から離れるとコンビニがなくなってしまうので早めに立ち寄っておくことをおすすめする。
仙流荘の駐車場はとても大きかった。バス乗り場横の小さな第1駐車場と沢沿いの大きな第2駐車場があったように思うが、どちらも一見満車であるように思えた。登山シーズン中でしかも週末と言う事もあるだろう。そこまで混むことはないだろうと予想をしていたが、駐車場に停められないなんて事もあるかも知れない。
バス乗り場で登山届を提出すると、北沢峠行きのマイクロバスは12時45分に出発した。15人乗りくらいだろうか。青空の沢沿いの道を、登山者を乗せたバスは走っていく。
過去に北アルプスの上高地へのバス、室堂へのバスなどの登山バスを利用した事はあるけれど、今回利用した南アルプス林道バスはすこぶる楽しい。男性の運転手さんが運転をしながらガイドをしてくれるのだけれど、その調子がすごく心地が良い。旅情緒とでも言うのだろうか。彼の声を聴きながら景色を眺めていると、遠くに来たもんだ、とついつい嬉しくてニヤニヤしてしまう。天気が良かったせいもあるだろう。昨晩そこそこ眠れて調子が良いと言うのもあるだろう。
そうやって1時間ほどのバスの旅を楽しむと、我々一行は終着駅の北沢峠に到着した。仙流荘の標高が860メートルくらいだから、1200メートル近くも上がった事になる。素晴らしい。
北沢峠。道路が一本走っているだけのまさに峠と言ったような場所で、道路の両脇にはバス停のベンチ、公衆トイレ、長衛荘(北沢峠こもれび山荘)がある。そして仙丈ヶ岳や甲斐駒ケ岳への登り口もあり、多くの登山客で賑わっていた。バス待ちをする登山客の黒くなった顔からはエネルギーの全てを使い果たした様な、疲労感とか達成感とか何とも言えない表情が伺えた。下山後に輪になって体操をするお年寄りのグループにも表情がない。なんとなく、仙丈ヶ岳も甲斐駒ケ岳も楽じゃないんだろうな、と感じた。
北沢峠からは本日の目的地である仙水小屋に向かった。
しばらく林道を歩くと、現在休業中の「北沢駒仙小屋」に到着した。この北沢駒仙小屋でテントを張るというプランもあったのだけれど、地図には休業中とありそのプランをやめていたのだが、休業中は山小屋だけでテント場の営業はしていた。ここにテントが張れるのなら仙水小屋まで行く必要もないなあ、テントを張りっぱなしで甲斐駒ケ岳に登れるなあ、と少し考えたけれど、北沢駒仙小屋のテントの数はものすごい。こんなに騒がしいのなら、あえて仙水小屋に泊まるのも良いだろうと思った。無駄にテントを担いでの登山は疲れるだろうけど、まあ修行だ。遭難したら役にも立つ。
ざわざわと人で溢れる北沢駒仙小屋を後にし、北沢を北東に登って行った。大した登り道でもないのだけれど、久々に10キロほどのザックを担ぐと体が重い。汗もだらだらと出てきた。北沢を下山してくる人は誰もが軽装備である。失敗したかなあ、いやいや修行だ、と思考があっち行ったりこっち行ったりした。
北沢駒仙小屋から30分沢沿いを登った頃だろうか。本日の宿泊地である「仙水小屋」に到着した。仙水小屋は沢からはずれ若干登った場所に位置し、こじんまりとした山小屋だった。小屋の前のテーブルでは登山者が楽しそうに何やらわいわいとやっている。テント場も小さい。南アルプスNETにはテント11張りと書いてありほんとうか、とかんぐっていたが、確かに11張りが限界なのかも知れない。開放感はないけれど、しかしこじんまりと静かで、一晩ゆっくりと過ごすには良いだろうと思う。料金は1人400円。
もう1つ、仙水小屋の情報をプラスすると、仙水小屋の水場は2箇所。1つはひたすら水が流れ出ている登山者用の水場で、もう1つは蛇口のついた洗面に適した宿泊者用の水場。鏡もあってなかなか使い心地が良さそうだ。トイレもひたすら水が流れているパターンのもので、とても綺麗で臭くない。 紙もついている。
仙水小屋はポンプで沢水を吸い上げているだろうから、とても水が豊富だなという印象。豪快に使いまくっても苦しくない。
テントを張り荷物を軽く整理し、ぼんやりすると16時前。我々は食事の準備にとりかかった。我々、と書いたが僕はほとんど何もしていない。テラピーが食材を持ってきてくれ作ってくれた。トマトソースのリゾットだ。ソースはレトルトのものだけれど、ピーマン、ベーコン、きのこ、ニンニク、玉ねぎなどたくさんの具が入ってとても美味しかった。今度からテラピーを料理担当にしてしまおうと考えた。達人になってもらおう。
美味しい夕食でお腹がいっぱいになると僕らは寝る事にした。まだ日も暮れず寝られるわけはないけど、最近始めた飲めないウイスキーをストレートで飲み、テントに寝転んだ。暑い。標高2200メートルくらいある仙水小屋だけれど、僕が唯一所持する-4度まで対応の寝袋は少し暑すぎた。夏用に薄いダウンの寝袋があったらなあと思う。シュラフカバーも持ってきたけれど、こんな暑いんじゃカバーなんてかけられやしないなと思った。
テントの中でウトウトとはしていたけれど、熟睡はできなかった。テラピーは寝ているようだったが、何度か起きていたらしい。外は真っ暗で、5分に一度くらい雷で外が光った。音がない雷だ。沢の流れる音が唯一聞こえる音だった。
僕は明日以降の予定をひたすら考えていた。甲斐駒ケ岳を登り終えたらテラピーと下山するか、それとも1人残って仙丈ヶ岳に登って帰るか。しかし僕はそれのための十分な食料がない。どこかで食料は手に入るのだろうか。飯さえあればいくらでも旅を続けられるのだけれど。タバコもない。一度戻って体制を整えてから来るべきかどうか。
そして僕はテラピーの事も考えていた。もう少し優しくならなければならないな、と自分のした発言を思い出し後悔していた。地図を買ったのなら読んでこい、とか、ザックのウエストベルトをしろ、とか、買った装備を未開封のまま持ってくるな、とかうんぬん。テラピーは僕のためにドリップコーヒーを持ってきてくれたり、膝のテーピングテープを持ってきてくれる様な優しい人なのだ。僕はもう少し広い心を持たなければならない。眠れないテントの中で、ひたすらそんな事を考えた。そして1日目は終えた。
仙水峠から甲斐駒ケ岳を登る
7月28日、日曜日。4時頃に起きた。先ほどやっと眠れたばかりだったが、iPhoneは「トゥルルルルルル!」とマリンバを連打した。朝から耳元でマリンバを連打するなんて非常に迷惑だ。というかバイブレーションになっていなかった。しかもこんな時スマホでアラームを止めるのは難しい。ひたすら画面にシュッシュと指をスライドさせ、5発目くらいでやっと止まった。周りに迷惑をかけた。
朝飯はテラピーが昨日の残りご飯で雑炊を作ってくれた。ヒガシマルの雑炊の素に乾燥ネギと鰹節を入れてくれとても美味しかった。
準備ができると5時頃テント場をあとにした。当初はこんなに早く出発する予定ではなかったけれど、昨晩寝ながら、早朝出発する事を決めた。なんとなく甲斐駒ケ岳を登るのに時間がかかるような気がしたし、最低でも僕らは北沢峠から16時のバスに乗らなければならない。
北沢から離れテント場の脇にある登山道を登っていく。そして10分も薄暗い樹林帯を歩けば岩がゴロゴロとしている場所へと出た。右手が栗沢山、左手が駒津峰、その間の沢を仙水峠を目指し、東から登る太陽に向かって登った。日を遮るものはなく、空は真っ青で気持ちの良い朝だ。
そんなゴロゴロ岩の登山道を、前を進むテラピーは足取り軽やかに歩いていた。僕は少し嫌な予感がしたがそれは当たった。テラピーが後を振り向き「ゆるいね」と僕に言ったのだ。そして僕はイラッとして文句を言った。ゆるい場所を歩いている時にゆるいと、さも余裕そうに言うのはどうにも納得がいなかい。どうせあと30分も登ればヒイヒイ言う事になるのだ。だからそんな事を今言わないでくれ。
そして僕は荷物が重いのでさほどゆるいとは感じていない。そんな風に「ゆるいね」としれっと言われると、このやろうとついムキになってしまう。なんならペースを上げて潰し合いをしようじゃないか、とも思ったが、それは先日の八ヶ岳で懲りたからやめた。
そう思いつつも、僕は昨晩考えた事を思い出していた。もっと優しくせねばならない。そして僕の心はなんて狭いのだろう。「ゆるいね~、そうだね~」とかなんとか言って流せばいいのだ。もっと大きな人になりたいものだ。
そんな岩がゴロゴロした場所も30分歩けば仙水峠に到着し、そこからは迫力ある摩利支天を見上げる事ができた。
そしてここから駒津峰までの登山道は様子が変わり、急勾配の樹林帯歩きとなった。暑くて水をがぶ飲みしてしまう道だ。そして登り始めて5分後くらい、「さっきの発言を消去する」とテラピー言った。
僕らも、そして僕らを追い抜く登山者もみんな汗だらだらだ。山と高原地図には樹林帯の急登とある。仙水峠から駒津峰までの参考タイムは1時間30分。暑い。水を3リットルは持ってきたけどもつのだろうか。
しかし単純な樹林帯歩きではあるけど、とちゅうとちゅう南の眺望を楽しむ事ができた。そして1時間も登れば高い木はなくなり、振り返れば南アルプスの山々を見渡す事ができた。一番近いところに栗沢山、その奥には北岳と間ノ岳か。右手には双児山と仙丈ヶ岳、左手には鳳凰山、地蔵ヶ岳のオベリスクが見える。そしてこれから登る甲斐駒ケ岳も見上げることができる。
しかし見たい山は全部見えたけれど、山の東面から湧き出ているガスが気になる。日中はガスが湧いて眺望を楽しめないとガイドにあったが、このことだろう。早めに甲斐駒ケ岳の山頂に辿り着いた方が良さそうだ。
そして仙水峠から1時間30分登った頃、駒津峰に到着した。駒津峰は双児山への分岐点にもなっていて、広くて休憩にも良い場所だった。
駒津峰からはやせた尾根歩きになった。甲斐駒ケ岳の山頂を眺めながら進む、とても気持ちの良い道だ。しかしこの尾根は岩場道だから渋滞が起こりやすい。段差の大きい場所ではしばしばしば渋滞が起こって歩を止めなければならなかった。
30分ほどやせた尾根を歩くと「六方石」と言われる場所に辿り着いた。これ、日記を書く今まで気が付かなかったんだけれど、僕は「六万石(ろくまんごく)」だと思っていた。なぜ六万石と言う中途半端な数字なのだろうか、どうせなら十万とか百万石にしたら良いのに、と思っていたのだ。恥ずかしい。ちなみになぜ六方石なのかというと、「六面体」だからと言うのがネットの答えだった。
そうそれでこの六方石は分岐点になっている。どちらも甲斐駒ケ岳の山頂へと向かうのだが、右手は摩利支天経由の巻道コース、道なりは直登で山頂へと向かう。僕らは直登コースを選んだ。下山時には摩利支天経由の道を利用する予定だ。
さて直登コース。いきなりテトラポットのような巨岩越えが続いてかなり面倒だ。高度感も恐怖感もないけれど、手を使わないと越えられない岩場が多くて時間がかかる。そんな巨岩越えに「ザックがあるから」とどうしようもない言い訳をテラピーがして、それに対してもまた文句を言ってしまった。テラピーは文句の1つも言わず、登山の時はいつも運転してくれているとても優しい子なのだ。もっと大人になりたい。百名山登山は僕を大人にしてくれるだろうか。
山頂への直登コースは上りにくくはあるけれども、目印もあるから迷いやすいと言うことはない。まあこれは晴れていたからで、ガスってしかも下山なら迷っちゃうかもしれない。
頂上付近、岩場が終わると花崗岩のザラ場の急登になった。登りにくい事はないけれど、なかなかの角度なのでゆっくりと登らなければならない。巻道から登っているおばちゃんグループの「がんばってー」の声援を受けながら、よいしょよいしょと登った。
直登コースは他の登山者もいないし、岩だらけの景色や、遠くの山を見渡せたり、なんとなくそんな感じが自然と自分が向き合っている感じでとても心地がいい。息を切らさない様に丁寧に一歩一歩、足を出していく。あー気持ちがいい。
9時30分、僕らは甲斐駒ケ岳の山頂に到着した。テラピーが道標の前で一緒に写真を撮ろうとしたけれど、いやだと断ってしまった。そしてすぐに後悔した。
僕らは山頂でしばらく休憩をした。リッジレストを敷いて昼食をとり、そしてテラピーは僕に簡易ドリップのコーヒーを入れてくれた。少しガスが出てきたけれど、それでもまだ沢山の青空が見える。気温もちょうどいい。気持ちの良い山頂だ。
下山。摩利支天、双児山を経て北沢峠へ。
下山は摩利支天経由。その後は駒津峰の分岐から双児山経由で北沢峠に下りる。
摩利支天を見下ろしながら砂礫の斜面をジャクジャクといわせ下る。甲斐駒ケ岳でここらが一番の見所だろうか。丸く削れた大きな不思議な形をした花崗岩と、それが削れてできた南の島のクリーム色の砂浜の様な斜面と、そしてガスがあたりを包み込んで異様な雰囲気を作っている。人といるからのほほんとしていられるこの景色も、もしここに全くの1人だったら、色々な事を考えさせられるかも知れない。
そんな景色を楽しみながら20分ほどジャクジャクと音を立てて下ると、摩利支天への分岐に到着。そこを左に折れ、僕らは摩利支天へと向かう。そこから10分も歩けば摩利支天の登り口に到着した。
摩利支天の登り口は2つあって、僕らは右の道を選んだ。右の道を進んで5分後くらいにはこの道失敗したな、あってるのかなと思った。道はあるのだけれどハイマツをかき分けて進まなければならない狭い道だった。
摩利支天の頂上はこれまでの登山道と同じ様な感じで真新しさはなくて、しかもガスで景色は見えなかったが、石仏や石碑、神社などが置いてあった。ゆっくりする予定もあったけれど、何も見えやしないので僕らはすぐに摩利支天を下りる事にした。
下りはもう一方の道を利用するつもりだったが、ガスで発見できなかったので同じ道を使って下った。そしてその道を下っている途中に道を見失った。すぐに気がついて登り返したから良かったものの、あのまま強情に下り続けていたら面倒な事になったと思う。山と高原地図には「沢に迷い込みやすい、とくに濃霧時には注意」とあるが、まさにその通り。濃い霧の時は慎重に行先を吟味した方が良さそうだ。
12時には六方石に戻ってきた。ぐるーっとまわって「六万石」と勘違いしている場所にやっと戻ってきた。そしてちょっと疲れた。朝5時に登山をし始めて、現在は12時。7時間も行動しているとさすがに疲れてくる。ほとんどの人が登山経験が少ないような服装やら装備やらをしているけれど、みんなタフだと思う。すごい。僕もがんばらねば。
登りですいすい歩けた、六方石から駒津峰までのやせた尾根歩きも、復路では少々しんどくなった。と言うのもこの間は甲斐駒に向け下りの道が多いから復路では登りの道になってしまう。さっきとは打って変わってなかなかに厳しい道だ。僕らのそばを行く登山者も、一山越える度に「まだか~」と言っていた。顔もみなしんどそうだ。
駒津峰に到着すると分岐を双児山を方面にとった。広々とハイマツが茂った、晴れていたら気持ちのよさそうな道を20分ほど下った。そして樹林帯に入りしばらく歩くと、今度は双児山への登りとなった。
しかしここに来ての登りは厳しい。下りで冷えた体に活を入れて、シャクナゲとハイマツで視界が遮られた細い道を、独り言をぶつぶつと言いながら登った。でも楽しい。やっぱり僕は登りが好きだ。
13時20分。汗だくだくで双児山の山頂に到着。双児山の山頂は小さい。眺望が楽しめそうな山頂なものの、相変わらずのガスでほとんど何も見えなかった。またここではおばちゃんグループが休憩をしていたが、キャッキャと元気で楽しそうだった。僕も負けてはならないなと思った。
そこからは北沢峠に向けて、長い長い下り道。樹林帯の、よく見る、よくある登山道だ。登りでは絶対に利用したくないような登山道。
3リットル持ってきた水も、残り500mlばかしとなった。テラピーの水も僕の水も同じ様に減っている。他の登山者はどれくらいの水を持ってきているのだろうか。きっとみんな水が足りなくなっているに違いない、と想像する。
この頃から、いや下山を始めた頃からか、僕の精神年齢はテラピーと並んだ。テラピーと同じ様に歌を歌い踊りを踊った。全く似てないモノマネもした。脳みそは完全に溶けていたし体もかなり疲れていた。不安だった膝の痛みは全くないけれど体全体の疲労感が激しい。重い荷物を背負っていたと言うのもあるけれど、1泊2日で甲斐駒ケ岳と仙丈ヶ岳を登るのはハードに違いない。このまま残って仙丈ヶ岳を登ろうかなと考えていたけれど、今日は帰る。絶対に帰る。テラピーの広くて、涼しい車で、足をダッシュボードに投げ出して。そしてテラピーの運転で。
下山も後半になると、駆ける様に道を下った。それまで膝にダメージを与えない様丁寧に着地していたけれど、延泊しないと決めたらもう関係がない。下るのだ。
そして15時前、僕らはやっと北沢峠に帰ってきた。10時間行動の長い長い1日だった。バス停のベンチに座るも下山で集中しすぎてテンションがおかしい。さっきそこで人を殴ってきたばかりの様な、獰猛なテンションだ。おかしい。
それから僕らを乗せた南アルプス林道バスは、昨日登ってきた道を仙流荘に向かい走った。日曜だからか、南アルプス林道バスは臨時バスを出していて、人数が集まれば出発と言う形をとっていた。
僕らがさっきまでいた双児山を眺めながら、バスは戸台川沿いを走ってゆく。小さな山頂だなあと思っていた双児山も、下から眺めるとすごく大きくて立派なお山だ。
甲斐駒ケ岳も鋸岳も、いまじゃもう雲の中だ。
うしろの席では、若い女の子がカーブの度に頭を窓ガラスにゴンとぶつけていた。隣のテラピーも気持ちよさそうに眠り首がカクカクしている。僕もスッと眠りに落ちそうだったけれど、白目になりながらこらえた。寝たら負けだ。なぜだかわからないが。
楽しい登山だった。登山をしたなあと言うちょうど良いくたびれかただ。今回は甲斐駒ケ岳1つしか登れなかったけれど、沢山の情報を得ることができた。
さあ、また近いうちに戻ってこよう。次は仙丈ヶ岳に登って、北岳と間ノ岳か、それとも鳳凰三山か、いっその事全部登ってしまおうか。楽しみだ。
仙流荘の駐車場に着くと、僕らはテラピーの運転で、伊那の穏やかな街並みを眺め諏訪へ向かって走った。そしてその後、テラピーは東京まで僕を車で送ってくれた。テラピーありがとう。次回は僕はもっと大人に、そして優しくなる。