北アルプス 西穂高岳~槍ヶ岳縦走 -コースや装備・危険箇所のこと-
登山の計画とコース
今回の登山は3泊4日、予備日が1日の計画だった。
コースの予定は
- 1日目 新穂高温泉からロープウェイで新穂高口、その後西穂山荘へ
- 2日目 西穂山荘→穂高岳山荘
- 3日目 穂高岳山荘→槍ヶ岳山荘
- 4日目 飛騨沢から槍平小屋経由で新穂高温泉へ下山
としていて、計画通り進み下山することができた。
1日目 新穂高温泉→西穂山荘
なんと、初日の参考タイムは1時間30分。早朝出発であること、体力の問題、難路への不安、使えるものは使う、というイメージで、ロープウェイを使い西穂山荘に行くことにした。
おしゃれなのは上高地から西穂山荘まで登るか、中の湯から焼岳を通って西穂山荘へ、というような感じだと思うが、他の人はどのようなコースを計画するのだろうか。すごく楽な感じがしてしまうが、できれば空を飛んで下山したいと思っている僕としては、ロープウェイは最高の移動手段だった。
またロープウェイでの入山は、遠方の人におすすめ。ロープウェイは季節によって運行時間が異なるが、16時頃の便に乗ってしまえば夕方には西穂山荘へついてしまうのである。(日暮れの登山になるので注意)
2日目 西穂山荘→穂高岳山荘
この区間の参考タイムは10時間。点線ルートの難所なので一日の行程時間を減らしたいところだが、途中に山小屋がないので穂高岳山荘まで一気に行くしかない。
この区間を安全に越えるためには、早起き早出がおすすめ。時間に余裕があればあせらず余裕を持った登山が楽しめると思う。さらに言うと、岩場があまり得意でない人やゆっくり進みたい人は、あたりが明るくなると同時に出発してもいいと思う。朝ごはんも簡単にパンやオニギリで済ますのもいい。危険箇所は下にて説明。
ちなみに穂高岳山荘に到着しても、まだ体力や時間に余裕がある人は、あと3時間がんばって北穂高小屋に行くという手もある。そうすれば翌日の歩行時間をずいぶん短縮できるのだ。もちろん僕達はそんな体力は残っていなかったが、そのようにしている強者も中にはいた。
3日目 穂高岳山荘→槍ヶ岳山荘
この区間の参考タイムも10時間近くと長い。しかしこの区間には山小屋がたくさんあるので、寝坊してしまった人や、疲れが溜まっている人は南岳で一泊というのもありだと思う。しかし、南岳まで行ってしまえばもう難所はない。槍ヶ岳まではゆっくりと歩きやすい道が続くのだ。またがんばって槍の肩まで行ってしまえば、翌朝槍からのご来光を拝めるチャンスがある。
なおこの区間も、大キレットに備えて早起き早出がいい。
4日目 槍ヶ岳→新穂高温泉
苦しい4日目も参考タイム7時間以上、距離も長い。前半はガレた道を、中盤は樹林帯で岩の上を歩き、終盤は平らな林道をひたすら歩き続ける。難しくない登山道だけど、4日目ということもあって一番しんどかった。長い長い下りでは膝とモモがやられるので、この時のためにストックを持っていても良いかもしれない。
予備日
予備日は雨の日のために用意した。雨の日に難所を通過する勇気がなかったので、停滞用として一日用意した。今回初めて予備日というものを用意したが、意外と便利なものとわかった。飛騨沢に残雪があるとの情報を得た時、槍沢経由での下山や、はたまた中房温泉まで行ってしまおうか、など予備日を使ったコースを考えめぐらすことができたのだ。結果的に飛騨沢に残雪はなく予定通り下山したが、雨に降られた時用、アクシデント用として予備日があるととても安心、と学んだ。
危険箇所と装備
危険箇所
馬の背
西穂から槍ヶ岳間の危険箇所は、山と高原地図を見るとざっと7箇所ある。しかし特別に怖いところをあげるとすれば、間ノ岳あたりの傾斜のきついスラブと、ジャンダルムの後の「馬の背」と呼ばれるところだった。スラブは飛騨川に面していたので風が強く、気を抜くと飛ばされてしまうように感じた。「馬の背」は稜線がかなり細く高度感があるが、他の箇所同様慎重に進んでいれば問題ないように思う。逆に槍方面から「馬の背」を下るとなると怖いかもしれない。
飛騨泣き
また北穂高岳から南岳への大キレットには「飛騨泣き」と言われる難所があるが、信州側に大きめのステップが3つほど取り付けてあったのですんなりと通ることができた。この時他の登山者数名も飛騨泣きをすんなり通過し、ひょうし抜けしている様子だった。しかし風が強い時はより慎重に足を進めた方がいいと思う。
ジャンダルム
ジャンダルム頂上へは、ジャンダルムの肩から5分もあれば行けると思う。ほぼ垂直の壁を登ることになるが、クサリもついているので難しくはなかった。ただし頂上へのコースがわかりづらいので間違って難しいコースで登ってしまわないよう、しっかりと道を確認しながら登った方が良いと思う。
残りのコースも全て難所であることに変わりはないと思うが、どこも同じ様な感じで印象にない。穂高岳山荘から奥穂高岳へのピストン、槍の穂先へ行った事があれば、そのような感覚で行けるコースではないだろうか。
ただしどこにでも言える事だが、全てのコースは天候によって難易度が大きく変わる。天候と相談しながら進まなければならない。
ガレ場と落石
落石を起こしやすいガレ場は、西穂~槍間に無数にあった。特に西穂からの点線ルートはガレ場のオンパレードだ。「罠だ!」と思うほど、どこを踏んでよいかわからない道もたくさんあった。実際僕も一緒にいったK氏も数回落石を起こしている。
ガレ場では大きく動かなそうな石を選んで足を置く、足で地面を蹴って登らない。石に乗った瞬間に「やばいな」って思ったら無理に進まず乗った足を戻す。何も考えず普通の登山道の様にズンズン進んで行くのは避けた方がよいだろう。もしかして、と考えて、ガレ場では慎重に慎重に足を置くのを心がけた方がいい。
どこもそうだと思うが、特に落石で危険な箇所は、北穂から大キレットへの急勾配と、南岳への急勾配だろう。ほぼ垂直の登山道を行くので、落石は止まることを知らずどこまでも落ちてゆく。自分より遙か下の見えないところに登山者がいる場合も考えられるので、誰もいないからと言って注意を怠ってはいけない。
ヘルメットやロープ
落石や滑落の事を考えればヘルメットをしていくのは当たり前のことだ、と思うのだが僕とリュウイチ氏はしていかなかった。荷物を減らしたかった、って言うより買うのもなあ、なんて感じだった。ちなみに他の登山者の様子をみると、西穂高~奥穂高の点線ルートをゆく登山者は、ルメットを装着している人は多く、大キレットをゆく登山者はほとんどヘルメットをしておらず、いつも通りの登山の格好だった。外人にいたってはタンクトップにハーフパンツだった。
まとめると、非常にバラバラだったと思う。スリングやロープを持った重装備で望んでいる人達もいたし、ビレイをしながらの人もいた。なので何とも言えないのだけれど、点線ルートを行く場合なら、やっぱり最低限ヘルメットはあってもいいと思う。より安全なことは間違いないし、あのコースにはヘルメットがしっくりとくる。それくらい岩だらけの山なのだ。
食料、水、行動食など
今回は3泊4日のテント泊で予備日が1日、という山行予定だったが、食事はほぼ自炊にした。1泊や2泊ならまあフリーズドライやラーメンでも我慢できるが、3泊も4泊もそのような食事では耐えられない、と思ったからだ。1人での登山ならもっと簡単な食事にしたかも知れない。参考までに、食事のメニューを。
29歳男性、大食いの例
1日目 家~西穂山荘
- 昼 新穂高ロープウェイ駅にてラーメン
- 夜 マーボーナス(挽肉入マーボーのもと1、ナス×2、ピーマン×1)、ご飯
2日目 西穂山荘~穂高岳山荘
- 朝 雑炊
- 昼 パンと行動食
- 夜 シチュー(具材は”ペミカン”で用意)、ご飯、海藻サラダ
3日目 穂高岳山荘~槍ヶ岳山荘
- 朝 雑炊
- 昼 パンと行動食
- 夜 レトルトカレー、ご飯
4日目 槍ヶ岳山荘~新穂高ロープウェイ
- 朝 フリーズドライのピラフ
- 昼 行動食とパン、カロリーメイト
お米は毎夜、コッヘルの限界である2.5号ずつ炊いた。二人で約0.8号ずつ食べ、残りは翌朝の雑炊用となる。4日目の朝食に限っては、前夜のカレーで米を食い尽くしてしまったため、予備日用の食料に手をつけることとなった。また朝夕全体的に食事のボリュームが減ってしまうので、その分は行動食や大量に持ってきたパンでカバーした。
昼飯は全てパンである。8個入のロールパンやレーズンパン的な奴を4袋も持っていったが、ボリューム的にはちょうど良かった。味が飽きてしまった時のために、小型のツナマヨボトルを用意して味に変化を加えた。
ペミカン
2日目のシチューの具材は、「ペミカン」と言われる具材を油まみれにしていく方法で用意した。姉に簡単に教えられただけなので、正しい「ペミカン」の方法は知らないが、僕の場合は、鶏肉、人参、しめじなどをいつも通り炒め、最後にバター(本来はラード)を大量に投入した。投入するバターの量がナゾであったが、姉にきくと半分入れる、とのこと。なのでスーパーで売っているバターのブロックの半分を投入した。バターが溶けたら袋につめて凍らす。これだけである。
投入したバターの量は適切であったのだろうか。未だにどれくらいのバターを入れるのかはナゾであるが、中の具材は全く傷んでいる様子もなかったし、何よりも美味かった。なので成功と言えたのではないだろうか。
山小屋での食事
お金をガンガン使っていけるのであれば、山小屋での食事を計画の中に入れてもいいと思う。荷物を大幅に減らせるので有効だ。
多くの山小屋は14時までカレーやラーメン、丼物などを販売しているし、高くはなるが宿泊者と同じ夜ご飯をだしてくれるところもある。また翌日の朝食や弁当も用意してくれる。自炊によって荷物があまりにも多くなりそうなら、できる範囲で山小屋での食事を組み込むと良いだろう。そのためにも早出をし、余裕を持って山小屋に到着するのがいいだろう。
行動食
行動食はナッツとアーモンドチョコ。それらを4袋に小分けして、1日一袋ずつ食べていった。短い休憩では行動食を、長めの休憩ではパンをつまんで昼飯をやりくりした。こまめに食べることを忘れてしまうと、急に動けなくなるので注意が必要。
水
水は毎日、最低でも2リットル持ち歩くようにした。天気が良ければ大量の水を飲むし、事故があった時のことを考えると水は多く持っている方がいい。また山が渋滞することも考えなければならない。山が渋滞して時間を食うとその分水を飲んでしまう。少しでも水を減らして荷物を軽くしたいなら、天気や山の込み具合をみて調節すべきである。
装備と持ち物
登山靴
僕の登山靴はたしか、アルプス歩きを推奨されていない軽登山靴と言われるものだったと思う。涸沢から穂高岳山荘にあがって来た人はバスケットシューズのような人もいたが、西穂から奥穂間、大キレットをやる人はほとんど革張りの重登山靴だっただろう。その中で僕の登山靴は一番しょぼかったかもしれない。しかしもうこの靴で慣れてしまっているのでどんな岩場でもいけると思うが、でもやっぱりもっとアウトソールが硬い登山靴の方がいいと感じた。細かいエッジに立てれば立てるほど、より簡単に岩に登れて疲労を減らすこともできるし、より軽快な岩登りを楽しめると思う。僕はボルダリングを経験していたので小さなエッジで立つこともできたけれど、それでもアウトソールが負けて「べにゃ」ってなることが何度かあった。なのでもう一度あのコースを行くとするなら、今度はもうちょいアウトソールの硬い登山靴で岩場を楽しみたい。
また下り道でも、足首がしっかりときいた重登山靴がいいと思う。登山靴に足首をまかせることができれば、長い下り道でも疲労を軽減できるし、怪我をする確率も減るだろうと思う。ちなみに僕の登山靴は足首がぐにゃぐにゃなので、体重を登山靴にあずけることができない。もっと登山靴がしっかりしていればなあ、と何度思ったことか。
服装
僕らと同じ様に7月下旬に北アルプスに行くのなら、シャツ、防寒着、アウター、この3つあれば寒さをしのげるだろうと思う。ただし、いくら天気が良くてもTシャツのみでの行動は避けた方が良いと思う。と言うのも、寒暖の差がとても激しいからだ。特に思ったのは大キレットで稜線上を歩いている時、信州側を歩くと汗が出るほどめちゃくちゃ暑いのに、飛騨側は強風で鼻水が出るほど寒いのだ。そんな事の繰り返しなので、腕をまくったり胸を開けたり、温度の調節がきくジャンパーやシャツを羽織るのがおすすめだ。
ストーブ
3泊4日で自炊、男2人での登山なので、今回はガソリンストーブ( MSRのドラゴンフライ)を用意した。ガスカートリッジのストーブの場合、一缶で何回お米を炊けるかがわからなかったし、数個のカートリッジを持ち運ぶのがすごく面倒だったのだ。今回の登山では最低でも9回は火を使うし、そのうち3回は米を炊くので、ガソリンストーブの方が荷物が少なくて済むのではないか、と思ったのだ。ちなみに自宅で、325mlのガソリンボトルでお米を何回炊けるか、をテストしたが、少なくとも10回は米を炊くことができた(1合もしくは2合)。ちなみにガソリンは、あとお米を3~4回炊けるくらいあまった。
コッヘル
ふたり分ご飯を炊いておかずをつくる、ということでコッヘルはトランギアのメスキットを用意した。640グラムと重いのだが、フライパンもプレートもセットになっている優れものだ。特に好きなのがナベで、とてもご飯が美味しく炊ける。2.5合も炊けるので嬉しい。料理をがっつりつくりたいのならおすすめ。
寝袋
寝袋は イスカのエア450 を持っていった。ねる時から起きるまでジッパーを開けっ放しだったので、もうちょい暑くない寝袋でもよいかもしれない。ただ僕は暑がりなので、人によってはこれくらいが丁度よいかも。
欲しいと思ったもの
あと欲しいなあと思ったものはサングラス、あとはヘルペスができやすいのでマスク。残雪が残っているところがいくつかあったので軽アイゼン、それと長い長い下山時のためにストックなんてあると嬉しいなあなんて思った。ちなみにリュウイチ氏は手が凍えて岩が掴みづらいので、グローブが欲しいと言っていた。