DAY2:トレッキング開始!シバラヤからバンダーラへ
2014年10月10日。
朝5時頃に起きただろうか。
宿の周囲が生活の音で騒がしくなると同時に、「パラリラパラリラ」とバスの派手なクラクションが聞こえてきた。
夜中、寝袋を使っていなかったので頭が寒くて目が覚めた。ベッドが狭くて寝返りができなかった。
荷物をパッキングして外にでると、昨晩ホタルがきれいだった沢で水を汲んだ。アイルランド人のジョンとウォーリーは浄水フィルターを持っていて、僕のぶんの水も作ってくれた。ちなみにこのフィルターを使い、飲んではいけないカトマンズの水も飲むことができたらしい。
朝食はチャパティの上にヤクのチーズを乗せたものと茶を飲んだ。そして昼ごはん用に、ひとり一枚ずつのチャパティを焼いてもらった。ジョンが商店で大きなヤクのチーズを買ってきたので、それをのっけてチャパティを食べる予定だ。
エベレストトレッキングはじまる
シバラヤの村から南東に向う橋を越え尾根にとりつく。
日本と同じで尾根のとりつきはきつい。ジョンとウォーリーのペースは速いが、僕は気にせずゆっくりと登る。彼らは少し登っては止まって休憩するので、ゆっくりとマイペースで登っていても問題がない。かなり暑く汗が噴き出る。荷物も少し、自分の許容範囲よりも重い。でもこれくらいならなんとかなるだろう。
山の上や斜面で暮らす人が多く、そのために細かい道が多い。地図にない道だらけだ。都度立ち止まって住民に「~カハチョ?」と尋ねる。地図を見ながら自力で進むのも良いけれど、思うに人に聞いた方が早い。ルート沿いには民家も多くそこで働く人も多いし、みな親切に教えてくれる。「バンダーラカハチョ?」もしくは「デウラリカハチョ?」と覚えておけば、シバラヤからの道は問題ない様に思う。
尾根の急登が終わると道は歩きやすくなる。石が敷かれている歩きやすい道が続く。反対側から歩いて来てすれ違う人もたくさんいた。そう、この道はいわゆる「登山道」ではなく、彼らの日常的に使っている道路なのだ。使わせてもらえることに感謝せねばならないなと思いながら、すれ違う人々に「ナマステ」と挨拶して進んだ。シバラヤの谷の景色が素晴らしかった。
歩きながら出会うほとんどの子供たちは「フォト~」もしくは「ペン~」とかわいい声をかけてくる。フォト、は単純に写真を撮って欲しい場合。撮った写真を見せると「サンキュウ」とまで言われてしまう。かしこい子はサンキュウの代わりに「ペン~」と言ってくる。
「ペン~」はそのままでペンが欲しいということ。忘れていた、あと「スイーツ~」や「チョコレート~」とも言われることが多かった。スイーツはどこまでがスイーツなんだろうか、と考えさせられた。僕がシバラヤで買った安くてまずいクッキーをあげたら喜んでくれるだろうか。がっかりされるだろうか。
しかし「フォト~」と言われはじめは写真を撮っていたが、そのうちに面倒になり「ノーフォト~」と返事をする様になった。いちいち足を止めるのが面倒なのだ。しかしここいらの少年少女らはガツガツしていない。すごく控えめに「フォト~」と言ってくるのがかわいい。たとえ冷たくしても、去り際に罵声を浴びせられることはまずない。
DAY2
また道中で嬉しかったのは、どこからか忘れたけれど、犬が僕らのあとをしばらくの間ついてきたことだった。ついてきたというか、もう仲間みたいな顔をして僕らと共に彼は行動していた。僕らが休憩すれば寝そべって休憩したし、歩き出せばムクッと起きてついてきた。食べ物を欲しがると言う感じでもなかった。ジョンは彼の名を「DAY2」と名付けた。
しかし悲しいことに、ある民家を過ぎた頃から「DAY2」とは別の道を歩むことになった。その民家にも同じ様な犬が居て吠え散らかし、DAY2の通過を許さなかったのだ。しかし諦めないDAY2は、別ルートからの突破を試み、草むらを必死に駆け抜けた。それを民家の犬が吠えながら追った。
うまくいけば後々DAY2と合流できるかもしれない。そう思っていたけれど、どうやら彼は突破できなかった様だった。僕が抱きかかえてでも連れて行ってあげるべきだったと後悔した。毛むくじゃらで小汚い犬ではあったがかわいかった。
バンダーラの「ANG DAWA LODGE」一人勝ち
デウラリの村は峠にあり、そこからしばらく下ると今日の目的地のバンダーラに着いた。宿は「ANG DAWA LODGE」を選んだ。選んだ、というかそこはバンダーラに入った辺りの一番近いロッジで、疲れていれば必然的にそのロッジを選ぶことになる。
面白かったのが、道中挨拶をしたり会話をした全てのトレッカーがそのロッジを選んでいたことだった。窓から顔を出して「ハーイ」と挨拶する人、表のベンチで茶を飲む人、靴を乾かす人、顔を知っている外人さん達がみなそこにいたことが衝撃的だった。バンダーラには他にもいくつかのロッジがあるのだ。他のロッジがかわいそうじゃないか、不公平じゃないか、とすら思った。
しかしこのロッジはロケーションが良く、庭も広く、入り口の花々が非常にウェルカムなのだ。それゆえに皆が吸い込まれる様に入ってゆく。一人勝ち。このロッジの店主は他のロッジの人たちと仲良くやれているだろうか。妬まれて村八分にあいはしないだろうか、と色々なことが気になってしまった。
シバラヤもステキなところだったけれど、バンダーラもステキだ。穏やかな野が広がっていて開放感がある。
僕らは夜ご飯までの間、野原でジャグリングを楽しんだ。僕はジャグリングが初めてだったので、ジョンが厳しく教えてくれた。彼は僕がジャグリングを練習する姿をずっと見ていた。そして失敗する度にヒントを与えてくれた。こんなに厳しく教えんのかよ、めんどくせえ、と心の中では思っていたが、そのおかげかそこそこジャグリングができる様になった。
ロッジでは主人が料理を作る。電気の必要のない時間、暗いキッチンの中で、入り口から入る光を利用して食事の準備をしている。彼は僕らと話す時、ニコニコしてすごく愛想がいいけれど、料理の時は真剣で表情がまるっきり違った。嫁さんにも厳しい。
僕はシバラヤで携帯灰皿をなくしてしまったので、その代わりにコーラを注文した。空のペットボトルを携帯灰皿の代わりにするのだ。150ルピー。
今日も僕のベッドは小さい。