常念岳・蝶ヶ岳登山の記録と日記
2012年9月の2日と3日、テント泊で蝶ヶ岳から常念岳まで縦走してきました。穂高を眺めながらの縦走路は本当に気持ちが良くて、穂高を縦走するよりも穂高を眺めながらの縦走の方が気楽で楽しいかもな~なんて思いました。雄大な景色についつい足を止めてしまう、最高の縦走路の一つだと思います。
このページでは登山コースやアクセス情報と駐車場、コースタイムや用意した装備の事なども紹介しています。
常念岳登山の情報
- 所在地:長野県松本市・安曇野市
- 山域:北アルプス
- 標高:2857m
- 百名山No:65
常念岳登山の概要
標高差や距離はカシミールを使って計算しています。
日付 | 2012年9月2日(日)、3日(月) |
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日程 | 1泊2日 テント泊 |
登山コース | 1日目:三股の駐車場 - 蝶ヶ岳 - 常念岳 - 常念小屋 2日目:常念小屋 - 前常念岳 - 三股駐車場 |
距離・累積標高 | 1日目:三股駐車場 - 常念小屋 / 11km(+2000m, -820m) 2日目:常念小屋 - 三股駐車場 / 6km(+360m, -1500m) |
宿泊場所 | 常念小屋テント場 |
駐車場 | 三股駐車場(無料)/ 70台 |
水場 | 三股登山相談所手前、力水、蝶ヶ岳ヒュッテ、常念小屋(蝶ヶ岳ヒュッテ、常念小屋ともに有料) |
トイレ | 蝶ヶ岳ヒュッテ、常念小屋 |
三股駐車場へのアクセス
- 中央自動車道「豊科IC」→ 県道25号、495号、林道
(平成24年10月7日から豊科ICは安曇野ICに名前が変更されます。)
テント場、水の料金
- 蝶ヶ岳ヒュッテのテント場と水:1人500円、水1リットル150円
- 常念小屋のテント場:1人600円、水1リットル200円
常念岳・松本・安曇野のお天気
リンク
三股駐車場から常念岳登山の参考タイム(山と高原地図より)
1日目 | 三股駐車場 | 0:00 |
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三股分岐 | 0:20 | |
まめうちだいら | 2:50 | |
蝶ヶ岳 | 5:10 | |
横尾への分岐 | 5:40 | |
蝶槍 | 6:05 | |
常念岳山頂(三股への分岐) | 9:35 | |
常念小屋 | 10:20 | |
2日目 | 常念小屋 | 0:00 |
三股への分岐 | 1:00 | |
前常念岳 | 2:00 | |
三股 | 6:00 | |
三股駐車場 | 6:20 |
常念岳岳登山の参考地図・資料
常念岳・蝶ヶ岳登山の日記
三股駐車場でみた怖い夢
2012年9月2日の未明、北アルプス三股の駐車場。僕とテラピーは車中泊をしていた。そこで僕は恐ろしい夢を見ていた。3年に一回みるかどうかのひどく恐ろしい夢で、僕は最後に「テラピー!!!」と叫んだところで目を覚ましたのだ。話しを全部書くと面白くもならない上に長いのでやめる事にする。とにかく夢の中でテラピーがまずい事になった。
目を覚ますと体は半分ほど金縛りにかかりかけていた。金縛りをほどくのは簡単だったけど、その後はなかなか寝付けなかった。今さっき見ていた夢をありありと思い出し、恐怖でぶるぶると震えていた。やめようやめようと思っても映像が頭から離れない。こんな時に限って頭のキレは良く、さらに恐ろしい妖怪をクリエイトしてはそれに怯えた。脳の怖いスイッチが入ってしまったようだった。
そしてふと今日の登山が不安になった。テラピーに何か不吉な事が起こるんじゃなかろうかと。
しかししばらくすると、テラピーに何か不吉な事が起こるんじゃなくて、僕に何か起こるんじゃないだろうか、と考える様になった。実は僕は夢の中でテラピーに助けを求めていたのではないだろうか。「テラピー!!!」と大声を叫んで。そう思うとさらに怖くなった。
三股の水場が見つからず力水へ
6時前に目を覚ました。空を見上げると真っ白で、細かくてしつこくてくどそうな雨がパラパラと降っている。
さて今日はどうするかな、この天気で登山は嫌だなあと思った。スタートから雨だし、天気予報は言っている事がバラバラだからどれをあてにして良いのかわからない。テラピーの教えてくれた天気予報のサイト「てんきとくらす」では、常念岳は昼ごろに晴れると言っているけど、それだけをあてにするわけにもいかない。先ほど到着した隣の車の男性も、車内から空を眺めて測りかねている様子だった。
今日登るのはやめてぇなあ、ほとんど眠れてないし夢の事もある。大人しく帰ってふかふかの布団で平和に寝たいなあ、とぼんやり曇空を眺めていると、テラピーが「着替えなきゃ」とか言いながら準備をしはじめた。それを見て諦めて僕も準備を始めることにした。テラピーが「やめようか」と言えば「やめよう」と即答するつもりでいたが、彼女にその気はないようだった。もちろん僕からは何があっても言わない。
7時前、雨が止んだタイミングを見計らって僕らは登山を開始した。僕は登山をする覚悟は決めたがえらくテンションが低かった。悪夢と睡眠不足、そして雨だ。
今日が日曜日と言う事もあるだろう、三股の駐車場はひどく混雑していて、ありとあらゆる隙間に車が駐車してある。三股の駐車場は70台駐車できるようだけど、明らかにそれ以上の車を停めてあるし、昨夜は駐車場手前の林道にも20台ほど駐車してあるのを確認した。みんなやるなあと感心。しかし夏の北アルプスの週末に来るのは危険だなあ、と改めて思った。本沢から登る人は少なかろうと思っていたが、やっぱり北アルプスはどこも人気だ。
駐車場を過ぎるとゲートを越え、林道歩きが始まった。そして林道を15分ほど歩いて「三股登山相談所」に到着した。と言っても無人で、もっと早い時期には誰かいるのかも知れない。またここは登山届を提出する場所でもあるので、用意されていた紙に登山届けを記入して提出した。
困ったことには、ここにあるはずの水場が見つからなかった。テラピーは家から水を持参したけれど、僕はこの水場をあてにして来てしまった。なので所持している水分は0だ。5分ほどあたりをウロウロしてみたものの結局水場は見つからず、諦めてこの先の「力水」に行く事にした。常念岳ではなく蝶ヶ岳へ向かってしまうけれど、ざっと地図を見たところ距離は300メートル。なので水を汲んで戻ってくれば良いと考えた。
それから目を凝らしながら進むも力水は現れなかった。
諦めて、テラピーの水をやり繰りしてなんとか進もうか、と話しあった頃、突如「力水」は現れた。三股から30分も経つ頃だから、やっぱり地図と見比べても遠い気がする。場所が変わったのだろうか。まあとにかく水が汲めて良かった。水が汲めなければさらにテンションが低くなるところだった。
予定を変更してまずは蝶ヶ岳へ
当初の予定通り常念への登山道に戻りたいところだけれど、もうかれこれ30分も歩いてしまったから面倒になった。という訳で僕らは戻らず蝶ヶ岳に向かう事にした。蝶ヶ岳ヒュッテで一泊し翌日に常念岳に登って下山をする、というプランに変更した。こうなると本日の行動時間が5時間ばかしと短くなってしまうが、悪い夢を見て眠れてないし、体を休めるためにもその方が良いかもしれないな、思う様になった。
力水からは本沢の音を聴きながらゆっくりと登った。それからしばらく進むと急登が始まった。
まめうち平までの登山道は尾根を直登するからなかなか厳しい。と言っても完全に真っ直ぐ登るわけではなくウニョウニョしてるから比較的登りやすかった。先日の辺見岳のバリエーションで直登を繰り返していたのでキツく感じる事はない。それよりも下山者とすれ違う事が多いのには参った。譲ったり譲られたりでペースが少し乱れてしまう。日曜日の午前中から登り始めるなんて、何も考えてなかったなあと反省。みんな下りてくる時間帯なのだ。ものすごい勢いで。
9時に「まめうち平」なるかわいい名前の場所に到着した。7時過ぎに蝶ヶ岳から下山を開始した人達だろうか、まめうち平では多くの下山者が休憩をしていた。皆ザックにはザックカバーをかけ、レインウェア着込んでいる。上も雨なのだと思うとがっくしきた。
それと少し気になったのが僕らの登山時間。山と高原地図の参考タイムを見る限り、三股の駐車場からまめうち平まで3時間はかかりそうなものだが、僕らは2時間で来てしまっている。かなりゆっくり登って来てこれだから、この参考タイムはかなり甘いようだ。いや、ミスという事もありえる。そんなこんなで、これから先も記載されている時間よりも甘いのではないか、と少し期待を持ってしまった。
他の登山者の目に怯えながら端っこでこっそりとタバコを吸い休憩すると、僕らは再び蝶ヶ岳に向けて登りはじめた。降る雨が少し大粒になった。
まめうち平から登山道はしばらく平坦になった。普段なら歩きやすくてハッピーな道だけれど雨の日は困る。道が泥濘んでぐじょぐじょで歩きにくかった。
そんなぐじょぐじょの場所も少なくなってくると、登山道の傾斜は徐々にきつくなり始め。足元にはゴロゴロした大きな岩が多くなった。山の斜面にはトリカブトの青い花が元気に咲き、僕の心を慰めてくれた。
11時50分、参考タイムに遅れ大滝山への分岐点に辿り着いた。残念ながら期待したほど参考タイムは甘くなかったようだ。
標高は約2600メートル。高い木が一斉になくなり急に視界が開け、山の斜面には沢山の花が咲いていた。晴れていたら最高に気持ちの良い瞬間だろう。
そしてそこから10分ほどかけて登ると広々とした稜線上にでた。蝶ヶ岳の山頂は目の前だ。
蝶ヶ岳の山頂は目の前だったけれど、僕らはテント場に腰を降ろし昼食をとることにした。
テント場には既に幾つかのテントが張られている。今朝常念岳から南下してきた人達だろう。昼までにはテン場に到着する余裕のある縦走。見てて羨ましくなった。寒いのでテントに入れて下さいな、と言いたくなった。
登りで汗をかきすぎたせいか寝てないせいか、稜線を吹き抜ける風のせいで急に体が冷えた。そんな事を予想してかしてないかわからないが、テラピーは密かに隠し持っていたラーメンを作ってくれた。冷えた体にラーメンはすこぶる嬉しかった。ありがたい。
ラーメンをすすりながらふと空を見上げると、青空が現れテント場には光が差し込んだ。風が止んだ。そして暖かい。みなそれを感じてテントからモゾモゾと出てきたし、蝶ヶ岳ヒュッテからもぞろぞろと出てきた。雲はまだまだあるけれど、期待が持てそうな空だった。辺りは平和な雰囲気で溢れた。
そして僕らは今日、常念岳まで行くと決めた。常念岳を越え常念小屋でキャンプをする。到着は夕方頃になって大変だろうけど、このままテント場に停滞するのも暇だし、空を見る限り回復に向かっている様に思えた。今回の登山のメインは常念岳だから、条件の良いうちに登っておきたかった。予報では明日の天気も微妙だったから。しかし昨夜の悪夢のせいで「これが悲劇のはじまりかも知れない」と、ついつい思ってしまう。何事もなければ良いのだけれど。
蝶ヶ岳から常念岳への縦走路
荷物をパッキングし13時にテント場を発つとまずは蝶ヶ岳の最高点に登った。良くある広々として、標柱が刺さっているだけの山頂だけれど、雲の隙間から見える穂高の壁にテンションが上った。始めて穂高を東から見るけども、良くあんな山に登ったな、と思わずにはいられなかった。ものすごい、大迫力だ。
そこからは稜線を北に向け登る。広々として起伏が少なくて非常に歩きやすい登山道。ガスもなくなりつつあって稜線の先の方まで見渡す事ができる。それと穂高を覆う雲も徐々に上へ上へと登って消えつつある。
そんな眺めを楽しみながらゆっくりと歩いていると、僕は元気になっている事に気がついた。先ほどまでとは全く違ってウキウキとして歩いている。やっぱり山は登るべきなんだなあと思う。山の天気は変わりやすいと言うけれど、晴れてしまう事だってあるんだ。
14時前には横尾への分岐を過ぎ、14時頃には尖ったピークの蝶槍に辿り着いた。西を眺めると、槍ヶ岳は相変わらず見えないけれど、穂高系の山頂は全て見える。完全に晴れた。蝶ヶ岳に留まらずに進んで正解だ。
それと、今回の目的の常念岳が前方にくっきりと姿を現した。目標が見えるのは素敵な事。でも少しひるんでしまう。常念岳は遠いし、その前には2つほどお山があって越えなければならないし、だいぶ下って、また樹林帯を歩かねばならない。この時間帯から突入するのはいささか気が引けるが、ここまで来たら行くしかないのだ。(ちなみに下の写真に写っている人達は、戻って横尾に行ったと思われます。)
蝶槍から下り始めるとすぐに樹林帯に入った。ラッキーにも晴れているのに、樹林帯を歩くなんてもったいない。そう思うと自然と足早になった。でも下りはなかなかの急斜面だったし、平地は雨上がりのドロドロで進むのに手こずった。
この樹林帯で1人の対向者とすれ違ったのを最後に、これから先常念小屋までテラピー以外の人を見ることはなかった。
下って登ってを繰り返して、休憩を挟んだりなんかして、15時50分には常念岳前の名も無きピークに到着した。よし、これで余分な山は越えた。あとは常念岳への登りだけだぜ、と気合も入ったが、見上げた常念岳の山頂は遥か先高い所にあった。こりゃあ17時までに常念小屋は無理だね、って事で18時までには常念小屋に着こう、と僕とテラピーは話した。
足元をジャリジャリと言わせながら、○の書いた岩を探して山頂へ向け登る。空にはすっかりと雲もなくなって暑い。汗が体から吹き出てきて服はビショビショだ。でもすごく楽しい。これが本日ラストの登りだと思うとテンションも上がる。周りを見渡せば大自然の中に僕だけがポツンとしている。最高の気分。この気持を表現するために、とりあえず「ヤッホウ!」と叫んだ。
いくらか標高を上げると道は険しくなった。白い肌が出たジャリジャリの登山道はなくなって、大きな岩が積み重なった道を、よいしょよいしょと手を使って登った。そして小さなピークに出ると常念岳の山頂が見えた。しかし依然として遠い。
ふと西に目を向けると槍ヶ岳がその姿をやっと現していた。やっとでてきた。そしてその遥か遠く頭上には、8000メートルはありそうな積乱雲がそびえ立っていた。夏の終わりだ。しかし明日の天気は大丈夫だろうか。
1時間近くも登り続けるとクタクタになった。さすがに足も重くなってきて、大きな岩を越えるともつれそうになることもあった。先ほどまでのテンションの高さはどうやらどこかに去ってしまったようで、僕はぶつぶつと独り言を言いながら登っていた。
涸沢のみなさん、今頃はもう暗くて寒いことでしょう。どんどんとガスも上がってきてるようですねー。僕のいるところはまだま暖かくて気持ちいいですよー。僕が見えますかー。
穂高の東側の斜面にある涸沢は、ずいぶんと前から穂高の影に入っていた。太陽はまだまだ穂高の頭上にあるけど、穂高のうしろに隠れてしまうのにそこまで時間はかからなそうだ。それまでには何とか常念小屋に辿り着きたいものだ。
17時30分、ついに常念岳の山頂に到着した。 やったー、と言うよりやっと着いたかって感じで、すぐに座り込んでしまった。さすがに辺りはもう薄暗くて、穂高も雲に被って、常念岳山頂からの眺望は楽しめない。タバコを吸ってボケーっとしていると、もうここにテントを張ってしまいたいと思った。1時間はかからないけれど、山頂から常念小屋までは400メートルも下らなければならないし、明日また400メートルも登り返すと思うとうんざりした。
しばらく休憩をとってから下山を開始した。18時まで常念小屋着の予定を18時30分着に変更した。どんどんペースが落ちてきている。
常念岳からの下り道は傾斜も緩く歩きやすかった。仲良く遊ぶ雷鳥の姿も楽しめたし、横通岳、大天井、M字型のピークは燕岳だろうか、そんな眺めも楽しみながら下る事もできた。夕焼けも綺麗だったし、街明かりも綺麗に見えた。しかししばらくすると突然登山道は急になり、僕らは無言になった。眼下に見える常念小屋も下れどその灯りは近づかない。小屋の外のベンチでは、何やら男性が談笑しているようで、たまに大爆笑が聞こえてきた。
僕は三股の駐車場で見た夢の事を思い出して慎重に下った。太ももも利かなくなってきて体から汗が吹き出てきた。
足元も見えなくなりヘッドランプが必要な頃になると、僕らはついに常念小屋に到着した。ここに来てやっと、やったぜ、と思える様になった。19時前だ。いやー最近こんな登山ばかりで疲れる。
テラピーが常念小屋で受付をしている間、僕はテントを張った。常念小屋のテント場には他に一張もなくほっとした。今からごそごそと物音を立てなければならないので気楽だ。幸せだ。
テラピーは戻ってくるとテントに入り「5分だけ横にならせて」と言った。どうやら気持ちが悪いらしい。吐きそうな気配すら漂わせている。僕はと言えば、汗びしょびしょのままタバコを吸っていたせいか、異常に寒かった。そして僕らは寝袋に入るとそのまま仮眠した。
何時頃だろうか、常念小屋に宿泊している登山者の声で目を覚ました。みな星を見ている様だった。僕は相変わらず寒くて寝袋から外にでることができなかった。そしてこのままじゃまずい、と思い、魚肉ソーセージを食べ、ミックスナッツを頬張り、そしてウイスキーをがぶっと飲み込み、そしてまた目を閉じた。テラピーは先程からぴくりともしない。呼吸をしているかどうかも良くわからない。とうとう頑丈なテラピーも死んだかも知れない。ついに悪夢が現実なものとなったのだろうか。まあいい、寝よう。
21時過ぎに再び起きた。今度はテラピーも起きた。死んでいないようで安心した。そして僕らは、かなり億劫だったけれど夜ご飯を作る事にした。ご飯を炊いて、おかずはチャプチェをテラピーが作ってくれた。余ったご飯は朝食用のおにぎりにしてくれた。そしてそれが終わると歯磨きもせずに再び僕らは寝袋に潜り込んだ。仮眠のおかげで体は幾分楽にはなったようだが、それでも依然疲れている。明日は大丈夫だろうか。
2日目。前常念岳経由で三股に下山。
9月3日月曜日、晴れ。6時頃に起きると朝飯に昨晩作ったおにぎりを食べた。そしてテントを畳み、常念小屋で買った2リットルの水をザックに詰め込むと常念小屋のテント場を発った。ザ誰が吹いているのか、ほら貝を吹く「ブオー」という音が辺りにこだました。
さて、常念岳を登り返さなくてはならない。朝だしゆっくり登るかな、とゆっくり足を進めていると、前をスタスタと軽い調子で歩いていたテラピーが振り向き「体調大丈夫?」と元気に聞いてきてむかついた。甲斐駒ケ岳を登った朝を思い出した。6時50分、登山開始。
テラピーのケツにぴったりとくっつきプレッシャーを与えながら、ウネウネとした登山道を登る。すると多くの軽装の登山者が常念岳の山頂から下りてきてすれ違った。きっと早起きして山頂でご来光でも見ていたのだろう。みんな元気だ。
しばらく登ると予想通りガスが出てきて視界が利かなくなった。するとそんなもやがかかった山道を数匹のサルが颯爽と登っていった。上手に軽々と登るものなんだなと感心した。それにしても、今回の登山では色々と見るものもあるし変化もあって楽しい。雷鳥もさっきのサルもそうだし、虹も夕焼けも雨空も快晴も経験した。単純に晴れが続いているだけじゃなくて、こうやって自然の変化を楽しめるのが登山の魅力なんだろうなあ、と思った。
1時間も登ると三股への分岐点に到着した。再び常念岳の山頂まで登る必要がないのが幸いだ。
さて、ここからは三股までは下るだけだ。この分岐の標高が2800メートル近くだから、三股までは1500メートル近く下る必要がありそうだ。すごい標高差。僕の太ももはもつだろうか。古傷の膝も心配。とにかく、下りは集中しよう。夢の事もある。転落しないよう、足元に気をつけよう。
前常念岳を目指して東の尾根を下る。尾根が細いからなかなかスリリングだけど、残念な事にガスで高度感はない。ピョンピョンと大きな岩を渡りながら進んだ。
そんな感じの道を1時間も進むと前常念岳に到着し、そこから10分後には石室に到着した。石室は名前の通り石でできた小屋で、緊急の際は避難小屋として使用出来るのだろう。中を覗いてみるとなかなか居住空間は広く快適に過ごせそうだった。
石室からの登山道も相変わらずで、大きな岩とハイマツとガスとの寒々しい景色が続いた。遠くの、ガスの中からチリンチリンと鈴の音が聞こえると、さらに辺りは寒々しくなった。登山者がガスの向こうから現れた時はほっとした。
9時50分頃、ガスで稜線からの眺めを楽しむ事無く僕らは樹林帯に突入した。昨日の蝶槍の後の登山道のようだ。さほど傾斜はないが登山道はドロドロで歩きにくい。そんな登山道をスタコラと歩くと、10時10分には2207メートル地点と思われる標柱のある箇所に到着した。そこから登山道の勾配は厳しくなった。三股の分岐まではここから2時間30分だ。山と高原地図には「急坂が続く」とある。
ウネウネと右に行ったり左に行ったりしながら急斜面をひたすら下った。先ほどから降りだした雨は激しくなり、登山道はさらにドロドロになりむき出しの木の根っこは雨に濡れひどく滑りやすくなった。というか、実際何度か滑って転びそうになった。そしてズボンの裾と靴はドロドロになった。
そうやって途中で休憩をはさみつつも夢中でそんな悪路を下り、12時には三股に到着した。13時頃の到着を予想してたので拍子抜けした。
そこからはぶらぶらと駐車場に向け歩いた。途中、行きにも通った「三股登山相談所」に着いたので、あちこち歩いて見つけられなかった水場を探してみた。しかし結局見つからず諦めて立ち去ると、山の斜面にペットボトルが挿しこんであり水がちょろちょろと流れているのを発見した。いやー全然気がつかなかった。予想よりも手前にあったし、小屋がでてきちゃうと注意が小屋に行ってしまって、手前の水場なんて視界に入っていなかった。
まあでも、水場を発見しなくて良かったと思う。水場が発見できなかったからこそ僕らは力水を目指して、それから蝶ヶ岳に登った。もし水が汲めていたら、昨日はまっすぐ常念小屋に行き、今日は常念岳から蝶ヶ岳に向かい縦走していただろう。今日の天気は一日中悪そうだから、視界の悪い稜線歩きは退屈だったに違いない。そう考えるとすごくラッキーだ。水場を見つけなくて本当に良かった。
そして無事三股の駐車場に到着した。昨日までキュウキュウだった駐車場はカラッカラだった。
悪い夢を見たけど何事もなくて良かった。水場も見過ごしてラッキーだった。でも少し、今日が簡単過ぎて物足りない気もする。最近はボロボロの状態で駐車場に倒れ込んでいるから、完全には燃焼できなかった。もちろん車を運転する事を考えるとこれくらい体力を余らした方が良いとは思うんだけど、下山の幸福感を増すためにはやっぱり2日目をハードにするべきだな、と学んだ。