ゴーキョと秘境、ンゴズンバレイク
1998年6月、22歳の女子2人のエベレスト街道トレッキング日記12~14日目。2つ目の目的地ゴーキョでは、またそそのかされて”秘境”へ。そして有名なピークに登ること無く木々の茂る森まで一気に下った。
ゴーキョリゾートでトランプにハマる
12日目、6月15日。
朝6時に起きるとロッジの人は皆寝ていた。ふたりでゴソゴソやりだすとダイも起きた。今日はゴーキョに移動するだけのラクな日だ。
7:40にタンナ(4690m)を出発。ゴーキョリゾートまでの道を聞くと、ダイが氷河を渡るところの入り口まで送ってくれるという。本当に地元の人しか通らなそうな道だった。ダイの歩みはとても早く、朝早いのに必死に追いつこうとがんばって歩いたからヘトヘトになった。だからダイと別れたあとは、また石を拾ったりしながらふたりでのんびりと歩いたり、長い休憩を取ったりした。
氷河をまたぐと、湖に出た。エメラルドグリーンのきれいな湖だった。水はとても澄んでいた。
10:30にはゴーキョリゾート(4790m)に着いた。
ドゥートゥポカリ(牛乳の湖という意味)もエメラルドグリーンできれい。そして今部屋はオフシーズンで無料だという。しかしもう天気が良くない。朝は晴れていたんだけど10時には雲が出てしまう。11時を過ぎると風も出て、雨も降ったりやんだりしている。
私達は宿に居たおじさんにトランプを教わった。そしてソーラーの部屋で夜の7時頃までずっとやっていた。教えてもらったそのゲームがなぜかツボにハマった。あまりにも長くやっているのでおじさんは呆れているようだった。
夜は火にあたりながら夕食をとった。おじさんは、今日たくさん雨が降ったので明日はきれいに山が見える、という。さらに「日本人は滅多に行かない、秘境がある」と教えてくれた。ゆかりちゃんの通訳に依るとそんなイメージだった。そしてまた坂道を登るのがめんどくさかった私達は、有名なゴーキョピークよりも優先してその秘境であるンゴズンバレイクに、明日行くことに決めた。
確かに秘境、ンゴズンバレイク
13日目、6月16日。
日の出を見ようと、頑張って朝4時に起きる。そしてミルクティーを飲むと、4:40にゴーキョリゾート(4790m)を出発した。外はまだ暗いけど、おじさんの言ったとおり、やはり晴れている。
荷物も殆ど無いのでけっこういいペースで歩いたのになかなか着かない。教えられたとおりに進むが、延々と岩のごろごろした小さい丘を超えたり氷河の上を歩いたり、アリ地獄のような道を歩いたりが延々と続く。途中虹も見えた。
秘境はなんて遠いんだ。最後の丘を越えるまでずっとそれは見えなかった。
7:15やっと着いた。でも、なんか茶色く濁った池だった。ドゥートゥポカリの方がきれいじゃないか、とか文句を言いあった。でもせっかく来たのでゆかりちゃんも日記を書いたりと時間を潰しているとだんだんと雲も晴れてきて、エベレストとか他の山々もすごくきれいに見えてきてたくさん写真を撮った。
ヤクもどこからともなくやってきてチョー・オユーの方へ山を越えていった。
私達は何もない湖に粘るように2時間以上も滞在して、9:30にンゴズンバレイクを出発。ゴーキョリゾートに着いたのは12:45だった。
期待した日の出も見られなかったしなかなか遠かったけど、行くときは暗くて見えなかった景色も360度見えた。景色を眺めながらおしゃべりしてのんびり散歩気分で歩けたし、途中はぬいぐるみのようにかわいい子ヤクにも会った。行ってよかった。
戻ってからは暇なのでサンダルやカッパを修理した。夜はまたトランプの大富豪に燃えた。そして話し合いの結果、明日はゴーキョ・ピークには登らずに、下ることになった。
一気に700m下り、森のなかへ
14日目、6月17日。
5時に起きて、7:20にゴーキョリゾートを出発。朝起きた時は山がきれいに見えたけど、一瞬にして霧に包まれたりする。やっぱりゴーキョピークには行かなくて良かったと、めんどくさがってやめた自分たちの決断を肯定する。
7:40、湖を過ぎると橋にぶつかった。ここで湖の水と、氷河の水とが混ざり合っている様子が見れた。湖からの水はエメラルドグリーンで、氷河からの水はグレーだった。その先に少し行くときれいな沢があり、そこで歯磨きをした。
9:30にはPangkha(4480m)という町を通過。
このあたりはずっと川を左手に、山を巻きながら高原のような雰囲気のところを歩く。まるで人口の庭のようにツツジが咲いていてきれいだった。歩いて行く度に斜面にへばりつくように作られているちいさな町を通り過ぎた。家は石で作られてとてもかわいい。そして斜面を耕し、石で囲った中に、草を植えた小ぶりの牧場か畑のようなものがあった。たぶんヤクを飼っているんだろう。あぁ、こういうところで生活する人生もあるんだ、と妙にこの景色が印象に残った。
10:00にはMachhermo(4410m)という村につき、ここで休憩することにした。
ロッジが1軒だけ開いていた。花が咲いて小川が流れ、とてもきれいなところだ。村に入るときに5匹の犬がついてきてびっくりした。
1時間以上ゆっくりして、12:10にLuza(4370m)の町を通り過ぎる。すれちがったおじさんに道を尋ねると、下の方を教えてくれたのでそちらに進むと、ゴーキョリゾートのロッジに居た男の子たちがいて驚いた。薪集めに来たらしく、いつもこのあたりまで来るんだそうだ。たしかにゴーキョの周りには薪になりそうな木は生えていない。ヤクの糞を乾かして燃料にする以外にない。でも500mほど下ったこの辺りなら、別世界の様に木々や緑があって潤っている。
特に今日は霧が濃くてミストの中にいるような感じなので、緑の丘はみずみずしくグリーンがとてもきれいだ。白いラリグラスも咲いていた。ラリグラスはネパールの国花なんだよとゆかりちゃんに教えてもらって見てみると、それは日本でいうところのシャクナゲだった。本当にエベレスト街道の高山植物は日本のものとよく似ている。
そして彼らは、イヤ道はこっちじゃなくて上だと今進んでいる道とは違うところを教えてくれた。そこで私達は彼らに従って、また変な道を登るはめになってしまった。それでもお花がとてもきれいだからまぁいい。この辺りまで、さっきの5匹の犬のうちの1匹がずっとついてきていた。
Lhabarmaの村を1:10に通り過ぎ、2時にはドーレ(4040m)の村について、ここで泊まることにした。
ドーレには大きめの杉の木のようなものもあり、だいぶ下ってきたのだと実感した。標高が下がって湿度も気温も高くなってきたから、私達は自分たちの服や頭のあまりの臭さに驚いて洗濯なんかをした。洗濯が終わって、それでも暇だったのでまたトランプをした。ロッジはお姉さんが一人でやっていたけど夕方になると妹たちも帰ってきたのか、姉妹3人で草で作ったボールのような物を蹴りあげて遊んでいた。すごく上手だった。
エベレスト街道の奥の方のトイレの多くは、穴をほって囲ってあるだけのトイレだった。全部がそうだったかどうかは覚えていなくて曖昧だけど、ここのトイレは衝撃的だったからよく覚えている。トイレの穴の中に設置されて板に米粒なのかと思うくらいの小さな幼虫がびっしり居て、ゆかりちゃんは拒否って使うのをやめた。どれどれ、と私も見に行って、でもなんだか動いているようないないような、あまりにビッチリといたので良くわからなかったけどゾゾっとした。これも標高が下がってすべてが潤ってきたからバクテリアなんかが豊富になったからなんだろう。 とにかく木と水に囲まれたところは落ち着くなと実感した。